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「言葉は本質的に曖昧なもので、そこからは逃れられない」 言語学者・川添愛に聞く、曖昧さの面白さと注意点

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 言語学者で作家の川添愛氏が新刊『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)を刊行した。私たちが身近に使う言葉の「曖昧さ」に着目し、その言語学的な考察をエッセイ形式で紹介している。例えば「冷房を上げてください」という時には、設定温度を上げてほしいのか、出力(風速)を上げてほしいのか、どちらの意味にも取れてしまう。そうした曖昧さはすれ違いを起こす可能性もあるが、言葉の複雑さや面白さに気づくきっかけになるという。本書刊行をした川添氏に曖昧な言葉の魅力について聞いた。(篠原諄也)

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■曖昧さがなかったらつまらない

ーーきのこの帽子を被った先生のイラストが帯にあって気になりました。これも言葉の曖昧さから生まれたイメージだそうですね。

川添:はい。以前、私がとあるトークイベントに出演したときに、ネット配信で見ていた視聴者の方がコメント欄に「この先生きのこるにはどうしたらいいか」と書いていたんです。その文をぱっと見て、一瞬戸惑ってしまって。「きのこる」ってどんな意味だろう、「先生」と「きのこ」に何の関係があるんだろうかと思いました。

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 でもよく考えたら「この先、生き残るにはどうしたらいいか」だと分かりました。その時のトークでは少し深刻な話をしていたこともあって、その視聴者さんは「これからの時代に生き残るためには~」と言いたかったんですね。でも、漢字とひらがなの境目は「単語と単語の切れ目」と認識されやすい傾向があるので、「この先生きのこる」を「この+先生+きのこる」と分けて捉えてしまったんです。

ーー言葉の曖昧さは、言語学の世界ではどのように捉えられているでしょう。

川添:「曖昧さ」の話題は、大学の言語学の授業では最初のほうに出てきます。例えば「美しき水車小屋の娘」はどのように解釈できるか。美しいのは娘なのか、水車小屋なのか。「白いギターの箱」であれば、白いのはギターなのか、箱なのか。そうした例を観察しながら、人間は文を単純に単語の羅列として理解しているのではなく、どの単語とどの単語がかたまりになっているかを認識しながら解釈しているということを学ぶんです。曖昧さは研究上もすごく重要な現象で、曖昧さの観察から新しい研究テーマが生まれることもあります。

ーー本書では言葉の曖昧さを面白いもの・興味深いものとして捉えていますね。なぜでしょうか。

川添:まず、曖昧さがなかったらつまらないんですね。曖昧だからこそ、気の利いたことを言えるという側面もある。例えば、今人気の漫画『推しの子』のタイトルは、「自分が推しているアイドル」なのか「自分が推しているアイドルの子ども」なのか、どちらにも取れます。そして実際のストーリーの中でも、主人公の男性が自分の「推し」の子どもに生まれ変わります。二つの意味を持つタイトルが物語の伏線にもなっているというのは、素晴らしいと思います。

ーー曖昧さを面白く捉えるという意味では、お笑いの事例も多く紹介されていました。

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