「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。
昔の低重心とは違う。大慣性モーメントを経ての現在の低重心
GD 今回はドライバーの「低重心化」をテーマにしたいのですが、それには、ここまでの低重心化の動きを整理しておく必要があります。
1995年頃だったと記憶していますが、キャロウェイゴルフの上席副社長だったリチャード・ヘルムステッダー氏が、初期のチタンヘッド『グレートビッグバーサ』のクラウン部を切り取り、そこにカーボンクラウンをはめ込んだ試作状態のカーボンコンポジットを見せてもらったことがあります。
長谷部 それはフルカーボンの『C4』の前ですか?
GD 前だったはず。その後、キャロウェイで言ったら、『E・R・C』が登場し、各メーカーが低重心ドライバー開発を競ったことがありました。日本ブランドではPRGRが積極的で、『TRドライバー』は低重心率50%を目指し、国内外の主要ドライバーを計測した結果、最も低重心だったという記憶があります。
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長谷部 テーラーメイドが2014年に『SLDR』で打ち出し角17度、スピン量1700回転が最も飛ばせる弾道ということを打ち出しました。
GD 覚えています。当時テーラーメイドの最高技術責任者(CTO)で機械学博士のブノワ・ヴィンセント氏にインタビューする機会があり、直接その話をききました。
長谷部 『SLDR』は「前重心の低重心」をコンセプトに打ち出し角17度、バックスピン1700回転の実現を目指したドライバーでした。しかし、前重心設計はどうしても慣性モーメントという基準ではヘッドの安定性が小さくなりますから、低重心は難しいという結論になりました。
GD そういう結末だったとは知りませんでした。
長谷部 日本だけでなく米国でも難しいという評価を受けたのですが、その後、「ハイロフト化」と「重心深度の調整」が並行して進みました。
GD 『SLDR』の後は、『R15』になり、その次が現在の『Qi10』に続く、カーボンコンポジットの『M1』、『M2』が登場したわけですが、『SLDR』のような極端な低重心ドライバーという印象はありません。