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他人の私有する林で勝手に木を伐採し持ち去る“盗伐”が横行。被害者は「泣き寝入りするしかない」現実

日刊SPA!

◆誰も知らない「盗伐」という犯罪
「盗伐」という言葉をご存じだろうか。他人が所有する私有林に入り込み、勝手に木を伐採して持ち去ることだ。森林窃盗は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金」と決められているが、ほとんど見かけ倒しと言っていい。なぜなら、警察も検察も立件しようとしないからだ。

 ある被害者は200本ぐらいの盗伐被害に遭ったのに、「被害本数の出し方は切り株の数であり、切り株が残っていないものは特定できない」と説明され、警察には「スギ丸太7本の窃盗行為」で被害届を出すことになった。この事件は最高裁まで争われたが、執行猶予付きの有罪判決で決着がついた。

 また、別の被害者は盗伐された土地にニンニク畑を作られていた。犯人は見つかったが、被害者の山と隣接した土地を購入していて、「誤伐した」と主張した。この経緯を聴いた警察は「木を伐った人に、残りの山を売ったらどうか?」と提案した。これでは警察が民事に介入するようなものだと抗議すると、「被害者救済として、このような方法もあると説明しただけだ」と回答されたという。

◆被害者が泣き寝入りする理由

『盗伐 林業現場からの警鐘』(新泉社)を上梓した森林ジャーナリストの田中淳夫さんはこう話す。

「勝手に伐採しても発覚までに3年以上経てば時効になる。伐採には重機を何台も現地の山に入れなくてはならないし、素人にできることではない。コストもかかるので、狭い範囲の合法的な森林を伐るだけでは儲からない。そこで許可をもらっていない森林も伐採してしまう。盗伐は、全国で数十年も前から行われていたらしいが、ここ十数年は特にひどくなった。犯人を特定しても、わずかな賠償金で済まされてしまう。有形無形の圧力もあり、被害者はずっと泣き寝入りしてきたんです」

 スギの素材生産数が全国1位の宮崎県は特に被害がひどい。1ヘクタールに生えている60年生のスギ林を全部切って売ったとしたら、宮崎県の場合なら800万円以上になる。5ヘクタールを盗伐したら4000万円以上の売上になるだろう。

 山主への支払いや再造林の費用は出さないのだから、多少の経費を差し引いても数千万円の儲けが出ると想像できる。示談金や賠償金で数十万円程度払っても痛くも痒くもない。

◆50〜60年生のスギ林が丸裸に

『盗伐 林業現場からの警鐘』によると、2017年9月に「宮崎県盗伐被害者の会」を結成し、会長となった海老原裕美さんも、もともと盗伐被害者の1人だったという。海老原さんの両親は0.21ヘクタールの山林を購入し、スギの苗木を植えた。山を購入したのは50年以上前だから、50~60年生のスギ林となっていたのは間違いない。

 海老原さんが山の異変に気付いたのは2016年8月。海老原さんの家族は現在千葉市に住んでいるが、お盆に帰省し、墓参りでたまたま林地を通りかかった際、母親が「私の山がない」と言い出した。記憶のある土地には、木が1本も見えなかったのだ。

 海老原さんは最初何かの間違いではないかと思ったが、母親は「間違いない。ここに私たちの山があった」と言うので、翌日法務局にて地籍図を入手し確認した。すると、間違いなくその場所は母親名義の山林だった。

 海老原さんは宮崎市役所や宮崎北警察署に被害の相談に行った。だが、まったく取り合ってもらえなかった。

 そこで海老原さんは宮崎市に伐採及び伐採後の造林の届出書、いわゆる伐採届に関する情報公開請求をした。するとそこには15年前に亡くなった父親の署名と捺印があったのだ。

 死んだ人の署名と捺印。もちろん偽物だ。明らかな有印私文書偽造、同行使が行われたことになる。これは立派な犯罪だ。

◆被害届を受理しない警察側の本音

 海老原さんは宮崎市役所と宮崎北警察署に対して、盗伐や有印私文書偽造で「捜査してほしい」と何度も繰り返し要望し続けたが、両者とも動かなかった。

 そこで海老原さんは各報道機関に訴え、記者会見をした。その内容は宮崎の地方紙のほか、全国紙の地方版、そしてテレビニュースでも取り上げられた。

 こうした情勢にようやく宮崎北署が重い腰を上げた。海老原さんは約200本の立木があったと主張したが、警察の見分結果は39本。「本数は切り株が目視で確認できたものに限られる」という理屈だった。だが、このような盗伐現場の実況見分は、宮崎県では初めてのことだったという。これだけでも快挙なのだ。

 この事件は紆余曲折を経て不起訴になったが、同じ犯人たちによる盗伐事件が3件起訴され、宮崎地裁は2018年3月20日、2人の被告人に対し、それぞれ懲役2年6カ月執行猶予5年、懲役2年6カ月執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。

「盗伐被害者は、盗伐という本件以上に相談窓口で傷つくんです。警察署に足を運んだ被害者を追い返す。警察官が金額を示して示談を勧めてくる。盗伐現場の実況見分をしない。被害届を受理しない。供述調書を捏造する。時効まで捜査を引き延ばす。被害者とともに被害者の会のメンバーが行くと、付き添いを認めない。高齢の被害者を1人だけにしようとするんです」(前出・森林ジャーナリストの田中淳夫さん)

 ここまで行くと、「できれば、仕事を増やしたくない」という警察側の本音が透けて見えてしまう。まるで最初からなかったことにしたいみたいだ。盗伐事件は、林業界・材木業界の闇であると同時に、警察・検察など司法の問題点をあぶり出す鏡にもなっている。



【諸岡宏樹】
ほとんどの週刊誌で執筆経験があるノンフィクションライター。別名義でマンガ原作多数。1969年生まれ。三重県出身。近著に『実録 女の性犯罪事件簿』
 
   

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