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宇多田ヒカル「First Love」が古くならない理由。発売から25年、Netflixドラマを機に若者からも支持

日刊SPA!

◆24年ぶりの「First Love」歌唱が話題に
 デビュー25周年を記念した全国ツアー、初のベスト盤『SCIENCE FICTION』の発売で盛り上がっている宇多田ヒカル。4月8日放送の『CDTV ライブ!ライブ!』(TBS系)では24年ぶりに1999年の大ヒット曲「First Love」をテレビで歌い、話題を呼んでいます。

 2022年には同曲と2018年の「初恋」をベースにしたNetflixオリジナルドラマ『First Love 初恋』が制作されるなど、いまも強い影響力を持つ一曲です。

◆リバイバルヒットした曲と「First Love」が異なる点

 このように、近年では昔のヒット曲がリバイバルヒットしています。たとえば、TikTokでバズった槇原敬之の「もう恋なんてしない」。ヒップホップ風にアレンジされたダンス動画が流行ると、そこから「歌詞が刺さる」と中高生の間で人気になりました。

 海外では、ドラマや映画の印象的なシーンで使われるパターン。NetflixのSFホラー『Stranger Things』のシーズン4で流れた、ケイト・ブッシュ1985年のヒット曲「Running Up That Hill」。そして、Amazonプライムのオリジナル映画『Saltburn』で流れたソフィー・エリス・ベクスターの2001年のシングル「Murder on the Dancefloor」が世界的に大ヒット。ケイト・ブッシュとは違い、発売当時はほとんど知られていなかった楽曲が映像とネットの力で日の目を見る、まさしく現代的な売れ方でした。

 しかし、宇多田ヒカルの「First Love」は、上記のいずれとも異なるように感じます。良い意味で、懐かしさが全くないからです。ネタ的に消費されることも、別の文脈、角度から再評価されることもない。曲全体が、そのまま良い状態で生き続けている。発売当初のフレッシュさを保ちながら、時の流れに耐えうる重みがあるのですね。

 原曲からキーを半音落とし、シンプルに削ぎ落としたフレージングで生まれ変わった『CDTV』でのパフォーマンスから、この曲の持つ強さを再認識しました。

◆「First Love」が“古く”ならないのはなぜか?

 折しも当時は“歌姫(ディーヴァ)”ブーム。ヒットチャートにはR&Bテイストのバラード曲がランクインした時代です。「First Love」をそのトレンドの中に位置づける向きもあるでしょう。

 けれども、宇多田ヒカルにはいずれとも異なる質感がありました。だからこそ、2024年のいまでも古びないのです。

 改めて「First Love」の特質について考えてみたいと思います。

◆あえて「クールダウン」させる異質さ

 Misia、小柳ゆき、安室奈美恵、華原朋美、少し上の年代になりますがドリカム(吉田美和)などの面々。彼女たちが90年代後半から00年代前半、バラード全盛の時代を支えたと言ってもいいでしょう。

 時系列でいえば「First Love」はその先駆け的な一曲でしたが、宇多田の作風とパフォーマンスにはすでにそうしたトレンドを否定する要素がありました。

 なによりも「First Love」は、ドライで涼やかなのです。歌い上げ、盛り上げるのではなく、頂点に達しようとするときにクールダウンさせる。この禁欲的な態度が異質なのですね。

 J-POP特有の、サブドミナントコードからマイナーコードに落とし込む泣かせもない。ジャズやフュージョンからの影響が強いテンションコードや部分転調もなく、素直なコード進行で展開していく。

◆エポックメイキングなあの歌詞も…

 この骨格にあって、宇多田ヒカルのボーカルが低音、高音のボリュームを均一に保っていた点も大きい。

<最後のキスはタバコのflavorがした>

 このエポックメイキングなフレーズも、彼女がきちんと低い声で明瞭に歌ったから聞き手に届いたのです。サビのオマケとしてのAメロではなく、冒頭から勝負に出るという気概が、曲の構造とボーカルパフォーマンスの両面に表現されていたわけです。

 歌いだしで勝負ありのバラードということで、ヴァネッサ・ウィリアムスの1991年の大ヒット「Save The Best For Last」に似ていると感じます。書でいえば、筆を下ろす瞬間に全てが決まるので、わざわざこれみよがしに力を入れてはいけないタイプの曲ですね。

◆英語と日本語の使いかたは“耳の良さ”ゆえ

 そして歌詞に注目すると、これほどまでに英語詞の恥ずかしさがない曲も珍しいのではないでしょうか。<You are always gonna be the one>からシームレスに日本語へと流れる展開は、あまりにも自然で気づかないほどですが、相当な離れ業です。

 そう言うと、“宇多田は帰国子女なんだから英語が上手で当たり前だ”という声が聞こえてきそうですが、もしそれだけだったら、もっと英語が悪目立ちしてしまうはずです。そうではなく、曲の姿形を崩さずに、異なる言語を美しく音楽に配置する能力は、耳の良さという他にありません。

 耳の良さとは、つまるところ、ミュージシャンの命。言葉の中にあるリズムや抑揚を発見し、曲に活かすことのできる本質的な能力。

「First Love」は、宇多田ヒカルという“キャラ”ではなく、実直なソングライターが生んだ衝撃でした。だから、四半世紀を経てもなお新鮮に響くのです。

文/石黒隆之



【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
 
   

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