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元プラスマイナス岩橋も公表…強迫性障害を抱える漫画家(38歳)が明かす壮絶な体験「まさに生き地獄」

日刊SPA!

 元お笑いコンビ「プラス・マイナス」の岩橋良昌さんがX(旧Twitter)上でパワハラを受けたことやエアガンで打たれたことなどを次々と告発し、物議を醸した。本人が「強迫性障害」を公表している一方、彼の振る舞いに対して驚きや批判的な声も多くあがった。その背景には、強迫性障害についてあまり知られていない現状があるようだ。「強迫性障害」とは、一体どのような病気なのだろうか。
 そもそも「強迫性障害」とは「本人にとって嫌な、不快でたまらないイメージや考えなどが頭に浮かぶ強迫観念と、その恐怖や不安を打ち消すために行う強迫行為(儀式的なおまじないのようなものを唱えること、手を洗うこと、決まった回数、あるいは回数を増やしながら何かをしなければならないこと、何度も同じものを確認すること、謝ること、など)から通常は成り立っています」『実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則〈増補改訂〉』(田村浩二・星和書店)とある。

 そんな強迫性障害について著書を通じて伝えているのは漫画家・みやざき明日香さん(38歳・@miyazaki_aa)。強迫性障害を抱え、奮闘してきた経験を持っている彼女に強迫性障害を発症したきっかけや症状について取材した。

◆体液への恐怖心がきっかけで発症

――まずみやざき先生自身はいつ頃からどのようなきっかけで強迫性障害を発症されたのでしょうか。

みやざき明日香(以下、みやざき): 中学生の時に、父親が病気で入院し、病室で胃液のようなものを吐いているのを見てから、人間の体液が怖くなりました。家族と父親のお見舞いに行った帰りに食事をすると、「食べ物の中に異物が混入していないか」などそれまで気にならなかったことが気になり、バラバラに解体したり……。私の場合、体液への恐怖心が発症のきっかけになったように思います。

――以前は普通の日常生活を送られていたのでしょうか。

みやざき:そうですね。小学生の頃、一番前の席に座っていると先生の唾がかかって、それが嫌だった記憶はありますが…一般的な感覚の範囲かと思います。

◆人によって症状が違うので一概に言えない

――元お笑いコンビ「プラス・マイナス」の岩橋良昌さんのX投稿騒動に伴い、彼自身が公表している強迫性障害についてもメディアで取り上げられました。みやざきさんは岩橋さんの行動を見てどのような印象を受けましたか。

みやざき:岩橋さんの「Xの投稿騒動」が強迫性障害の症状と関係あるのかについては、私には分かりません。「やってはいけないことをやってしまいたくなる衝動を抱えていらっしゃる」ことが一部で報道されていて、それが本当なら、「不道徳恐怖・懺悔強迫」(『図解 やさしくわかる強迫性障害』原井宏明・岡嶋美代、ナツメ社より参照)とよばれるものに近いのかもしれませんが、これはあくまで私の想像です。

 強迫性障害の症状にはさまざまなものがあり、何を恐ろしいと感じるか、恐怖を打ち消そうとどんな行動を取るか、も患者さんによって違います。病気の問題は非常にデリケートですし、「この人はこうだ」と言うことは難しいです。

 患者さんに共通していることは、ある行為をする(またはしない)ことによって、「こうなったらどうしよう」という強迫観念がわいてくること。それを打ち消そうと何らかの儀式的な行為(強迫行為)を繰り返すこと。わいてくる不安は強く、つきつめて考えていくとそれは「死への恐怖」なのではないかと思います。

 例えば手をしっかり洗わないと何らかの病気に感染して死ぬのではないか、死んでしまうような病気を人にうつしてしまうのではないか、というような……(強迫行為の最中は「とにかく今感じている恐怖をなんとかしたい」と必死で、そんなことを考える余裕はないですよ)。

◆血が滲むまで手を洗い続けてしまう

――強迫性障害にはさまざまな症状があるそうですが、具体例を教えていただけますか。

みやざき:私は、「不潔恐怖」「加害恐怖」「縁起恐怖」など代表的な症状をほとんど経験していると思います。例えば、昔は自分の手が汚れていることが一番気になって、血が滲むまで手を洗い続けていました。最近は、自分で決めた通りの回数で洗えているか、ハンドソープを適量で出せているかが気になります。

 他にも、「4」という数字を見るだけで動けなくなっていましたね。壁に付いているシミに恐怖を感じたり、道に落ちているゴミや落ち葉も気になったりしていました。気になるものを見つけただけで、頭が混乱してしまうんです。

――そのような気持ちをどのようにコントロールしているのでしょうか。

みやざき:「気持ちをコントロールできているか」というと分からないところはありますが、小さなことが気になってもそれを無視するよう心掛けています。以前より苦痛なく生活していますが、外出時は髪が外気に触れないよう帽子を被り、家に帰るとしっかり手を洗い服を着替えて部屋に入りますから、神経質ではありますね。

◆強迫性障害が再発した「体液混入事件」

――強迫行為をすると、気持ちが落ち着くのでしょうか。

みやざき:どれだけ儀式的なものを繰り返しても、100%の安心を得ることはできないんですよ。だから、やらないほうがいい。頭で分かっていても、恐怖に負けてついやっちゃうんです。何十回も、何百回も。それで倒れ込むほど疲弊してしまう。今は比較的、落ち着いていますが、症状がひどい時は落ち着く時がなく、常に恐怖心を抱えていました。

――症状の浮き沈みがあるのですね。

みやざき:回復したと思っていると、ふとしたきっかけでぶりかえすことがあります。

――再発したきっかけを教えていただけますか。

みやざき:ある会社で共用の食品に体液が混入されるという事件が起こり、それをSNSで知って、体液に対する恐怖が蘇ったんです。同じようなことをする人が他にもいるんじゃないかと思い……。スーパーで洗剤や飲み物を買う時も「この中に体液が入れられていたらどうしよう」と、恐怖を感じるようになりました。ちなみに、この恐怖は1週間ほどで収まっていきました。恐怖は時間が経てば小さくなっていきます。

◆漫画家デビューとともに訪れた「生き地獄」

――症状がピークだった頃の状況を聞かせていただけますか。

みやざき:2010年に(漫画の新人賞で)大賞を受賞したときのことです。念願が叶って嬉しいはずなんですが。私には、これまでの人生で早くに父親を亡くしたり、常にお金の心配をしていたり、何をやっても上手くいかないというマイナス思考が染みついていました。なので、大賞を受賞したときに、「この幸運のあとにとんでもない不幸が襲ってくるに違いない」と思ったんです。

 その不幸が来る前に、死んだほうがいいんじゃないかと。自分のあらゆる行動から強迫観念が生まれ、常に耐え難い恐怖が襲ってくるんですよ。それはもう、「いっそ殺してくれ」と思うほどの恐怖でしたよ。そんな中、母が入院することになり、急激にやせ細ってしまいました。ガリガリに痩せた状態でも、漫画のアシスタントの仕事に行っていたんですが、電車がプラットホームに入ってくる音を聞くだけで倒れそうになっていました。

――寝ている間は気持ちが休まるのでしょうか。

みやざき:寝ないと恐怖が襲ってくるので、睡眠薬を飲んで寝ていました。でも、寝ていても悪夢を見るんですよ。まさに生き地獄でしたね……。

◆精神科に受診するも泣くことしかできない

――同居しているお母様は、みやざきさんの抱えている苦しみをどのように見てらっしゃいましたか。

みやざき:治療のことは私が自分で決めていて、母はいい意味で、あまりかまってこないですよ。母親の入院中に、私があまりにもやせて、常に不安を訴えるようになった時には心配になったようで。私は母から話を聞いた母の友人に病院の精神科に連れて行かれました。

――その病院で強迫性障害と診断されたのでしょうか。

みやざき:初めは診察室で涙をボロボロ流して泣くことしかできませんでした。「あんなことが起きたらどうしよう」「こんなことが起きたら死んでしまう」といったことを言い、それを聞いたお医者さんは最初、統合失調症と思ったそうです。二度目の診断で強迫性障害だと診断されました。

◆治療で便器に触らされる?

――強迫性障害と診断されて、すぐに治療に取り組まれたのでしょうか。

みやざき:当時、強迫性障害の治療法といえば、不安に馴れるために、便器など手で触りたくないものを無理やり触らされるというイメージを持っていたんです。だから、「自分には無理」と思っていました(実際は、患者が嫌がることはさせられません。誤解していたのです)。投薬治療は受けていましたが、薬が自分には合っていなかったように思います。

 病院に行っても、診察を受けるまでに2~3時間待たされることが辛かったです。なので、初診から1年半後に通院をやめました。1回目に通った病院の医師は強迫性障害についてあまり詳しくなかったかもしれません。

◆しんどい経験を笑いに昇華して人を楽しませたい

――最初に通った病院で回復に至らなかったものの、再度治療に取り組もうと思ったのは、なぜですか。

みやざき:どうしても漫画を描きたかったからです。18歳の時から漫画家を目指し、アシスタントの仕事を掛け持ちしながら、やっと大賞を獲ってデビューしたのに病気が急激に悪化してまともに漫画が描けなかったんです。だから何とか病気を治して、もっといい漫画を描けるようになりたいと思いました。

――デビュー当初はギャグ漫画を描いていたそうですね。

みやざき:私は真面目に描いているつもりだったんですが、デビュー作品がギャグ漫画と勘違いされてしまい……(笑)。ギャグ漫画でやっていこうということになったんです。私自身、あまりにもしんどいことが多い人生だったので、自分の経験を笑いに昇華してギャグにしたい気持ちが強いんです。苦しい経験を笑いに変えて伝えたい。それから、苦しみの発露として漫画を描いていた面もあります。

<取材・文/秋山志緒>

【みやざき明日香】
1986年、関西生まれ。2010年、アフタヌーン四季賞で四季大賞受賞、デビュー。著書に『強迫性障害です!』『強迫性障害治療日記』(ともに星和書店)『性別X』(講談社)などがある



【秋山志緒】
大阪府出身。外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle
 
   

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