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50代女性が選んだ“第二の人生”。群馬県に移住、築110年の銭湯を復活させるまで

日刊SPA!

 働き方の多様化とともに地方移住への関心は年々高まりつつあるが、最近は移住先で起業する人も増えている。
 山本真央さん(51)は埼玉県から群馬県桐生市に移住し、地元の人々に愛されながらも廃業していた約110年の歴史がある銭湯「一の湯」を再建させている。そこに至るまでの足取りに迫った。

◆一の湯をこのまま朽ちさせてはならない

 真央さんは埼玉県のバイクショップに長年勤務していた。自身も大のバイク好きで、休日には愛車のハーレー・ダビッドソンであちこち走りに行っていた。そんな真央さんが一の湯に出合ったのもバイクがきっかけだった。

 バイク乗りの間で有名な桐生市のウェアショップを訪れたときのこと。その店のオーナーから一の湯を紹介された。重要伝統的建造物群保存地区という古い木造の建物が多く並ぶエリアにあり、見に行ってみると、その趣のある外観に一目惚れした。

 もともとは明治時代に織物工場の女性工員の浴場として使われていたもので、その後、銭湯として地元の人々に愛されてきた。が、2018年に経営者が亡くなってから廃業しているという。真央さんは一の湯をこのまま朽ちさせてはならないと思い、自分の手で再建させようと決心した。

 離婚してから女手ひとつで育ててきた子供2人も手を離れていたし、このままバイクショップで働き続けることにも不安を感じていた。“第二の人生”として新しいことを始めようと考えていたタイミングでもあった。「そんなのうまくいくわけない」と反対する声も多い中、思い切って桐生市に移住した。

◆かつての賑わいを取り戻すために

 一の湯の所有者と賃貸借契約を結び、地元紙の記者に水道業者などの専門業者を紹介してもらった。が、その再建までは楽な道のりではなかった。

 建物は今にも倒壊しそうなほどボロボロだし、なんだかよくわからない配管だらけだし、どこから手をつければいいのかすらわからない状態だったのである。

 そのため、桐生市に移住してきてからも約半年ほどはなにも進まず、ただアルバイトをするだけの日々が続いた。

 そんなときに桐生市に拠点を置くIT企業「シカク」の代表取締役である今氏一路さんと知り合い、開業をサポートしてもらえることになった。さらに、クラウドファンディングで修繕費の400万円を集めることにも成功。こうして、2023年4月に一の湯は約4年半ぶりの復活を遂げたのである。

 すぐにたくさんのお客さんが入るようになり、一の湯はかつての賑わいを取り戻した。桐生川の軟水を薪で沸かした湯はとろみがあり、ずっと入っていられて、肌もつるつるになると評判も上々である。

◆銭湯には人との触れ合いがある

 この仕事のいちばんのやりがいは人との触れ合いだと真央さんは語る。女風呂の脱衣所で風呂上がりの女性たちが牛乳を飲みながら女子会をすることがあるのだが、そんなときは彼女も自然とそのお喋りに参加している。熱い風呂に入れるようになって得意げにしている子供の顔を見ると微笑ましくなる。

 そしてなにより嬉しく感じるのはやはりお客さんからかけられる「ありがとう」の言葉だという。

「だから、他の人にも銭湯の経営をおすすめしたいんですよ。でも、考えてみると、私は人との出会いに恵まれてたくさん助けてもらえたからこそうまくいったので、他の人にもすすめるのは難しいのかもしれないですね」

 2024年4月からはロウリュウサウナ「ニノサ」もオープンした。当初は一の湯と同じ重要伝統的建造物群保存地区で始める予定だったが、空き物件が見つからなかったため、桐生駅前でのオープンになった。一の湯と同じく薪を利用するため、体の芯から温まるのがウリだ。一の湯が古い建物であるのに対し、ニノサは洗練されたモダンなデザインにした。

 また、真央さんは現在、群馬大学の教授と協力し、2つのエネルギーを同時に生産して供給する「コージェネレーションシステム」にも取り組んでいる。

「地産地消のため、桐生で生産された木材を燃料にして発電し、それで一の湯の周辺の外灯をすべて灯すというのが今の目標です」

 真央さんの挑戦はこれからもまだまだ続きそうだ。
 
<取材・文/小林ていじ>



【小林ていじ】
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
 
   

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