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西麻布のクラブで、プロ野球選手と遭遇…!ファンだった27歳女性が見た、彼の意外な姿

東京カレンダー

前回:「俺の大切な人」イケメン年下男からのまさかの言葉に、27歳女は動揺し…



「暗いから気をつけて」

地下への階段を下りる度に音楽が近づき、下りきった先の扉を開けると爆音の世界だった。

― ここはクラブってやつでは?

足元から体内、そして耳へと音の振動が抜けていく初めての感覚。消えたりついたり、色や角度を変えたり。めまぐるしく動くライトが、踊り酒を飲む人たちを浮かび上がらせると、地味なスーツ姿…という自分の恰好が大丈夫なのかを大輝くんに確認した。

「大丈夫、誰も宝ちゃんのこと気にしてないし、見てないから」

爆音に負けぬよう大きな声でそう言った大輝くんに、若干失礼にも聞こえますけど?と思いながらも、大輝くんに手を引かれるまま進んだ。

映画でよく見るSPのような男性が2人、自動ドアの前に立っている。そこを顔パス?ってやつで通り過ぎた先にもう一つ扉があった。大輝くんが躊躇なくその扉を開けると同時に、お疲れーという複数の声が響いた。

「左からカツヤ、ショウ、エリック。で、メイくん。メイくんのことはたぶん知ってるよね」

そこにいたのは4人の男性。全員、大輝くんの幼馴染で、親同士も友達…らしいのだが、知っているよねと言われた男性…は知っているどころではなく、自分の顔が一気に赤くなるのが分かる。

― うそでしょ!?何でここに!?

プロ2年目ながら将来日本のプロ野球界を背負って立つと期待されている桐島芽衣選手。愛するソフトバンクの選手ではないけれど、ソフトバンクの選手以外で、私が唯一推している選手なのだ。

推しが突然目の前に現れる確率は人生で何%あるのだろうか。大パニックなのになんとか平静を装おうとする私を大輝くんが、宝ちゃんです、とみんなに紹介してくれたけど、もはや桐島選手しか目に入らない…いや、直視はできないのだけど、アンテナは桐島選手に一点集中している。

「初めまして、桐島です」


「は、はじゅ…」

はじめましても言えずに噛んだ。最悪。泣きたい。恥ずかしさと緊張でいっぱいいっぱいになった私の前に桐島選手の右手が差し出された。私は恐る恐る…大きな手に自分の右手…だけでは足りず左手も重ね、両手で握手させてもらった。

「……やっぱり、マメだらけなんですね」
「ガサガサですいません。どうしてもこうなっちゃって」

桐島選手に謝られてしまい、私は慌てて否定した。

「手のマメは、桐島選手がとてつもない量のバッティング練習とか…その、とにかく努力の証なんだと思いますし、むしろ感動してます…!」
「今日めちゃくちゃ喋るね、宝ちゃん」

大輝くんに茶化されたって全く気にならない。リーグで首位打者を獲得し、来シーズンは三冠王すら期待されているスター選手に会えたのだから、テンションがおかしくても許して欲しい。

プロ野球選手の父(しかも有名)を持つ桐島選手と大輝くんは幼馴染として出会って以来、高校で他県に野球留学してからもずっと交流を続けてきた仲良しなのだという。

― ほんとに、大輝様様だよ…!

祥吾を振り切るきっかけをくれて、祥吾から逃がしてくれて、桐島選手にまで会わせてくれた。今日は大輝くんに最大感謝を送りたい。興奮冷めやらぬまま、私はふと気がついた。

「…お酒飲んだり…遊んでていいんですか?もうすぐ秋キャンプが始まるんじゃ…」
「これ、ノンアルっす。それに俺、門限決めてるんで。そろそろ帰ります」
「…よかった…寒くなってきたから、足腰…あ!もちろん肩も、冷やさないでくださいね」
「宝ちゃんのポジションが謎。もはや母の発言だよ、それ」

いいの。プロ野球界の至宝を見守る母の気分なの。

そろそろ帰るという桐島選手のために、大輝くんが車を呼んだ。車が到着し部屋を出ようとした桐島選手がもう一度私の方を振り返る。

「お会いできてよかったです。これからも、応援よろしくお願いします」

そう言うと、桐島選手は被っていたキャップをとり、丁寧なお辞儀をして去っていった。その大きな後ろ姿に、します!!応援絶対します!!!と心の(大きな)声で叫んだ。





「大輝、彼女、僕たちに全く興味なさそうだけど…僕らまだ必要?」

私は慌てて声の方を見た。ニコッと目があったのは、お父さんがイギリス人でお母さんが日本人というエリックさんだった。どうやら、桐島選手の余韻に浸り過ぎてぼーっとしてしまっていたらしい。

「…すみません、私、浮かれちゃって、失礼な態度を…」

そういった私を、真面目か!と笑ったエリックさんは、語学アプリを作る会社の社長で、ショウさんとカツヤさんは二卵性の双子だという。モデル兼DJとして世界中を飛び回っているらしい。


見せてくれたインスタのフォロワーは500万人を超えていて異次元を感じたけれど、大輝くんが、私の親友の友香ともつながっているんだよ、と教えてくれて、少し親近感が湧いた。

大輝くんとはタイプが違うけど、それぞれが美形。こんな4人がよくも幼馴染に揃っていたものだと思う。四方をイケメンに囲まれ圧倒されながらも、私は何とか会話(ほぼ質問されていただけ…だけど)を続けることができている自分に気づいて驚いた。

語学の勉強をしようかと迷っているという私に、アドバイスできることがあれば、と言ってくれたエリックさんとも、一緒に写真撮ろう!友香に送ったら驚くよ!と言ったSKbro(ショウさんとカツヤさんのユニット名のようなもの)とも連絡先を交換した。

「そういえばさっき、大輝がオレの大事な人、って言ってたけど、2人は付き合ってるの?」

と聞いたエリックさんに、私と大輝くんが同時に首を横にふる。そして大輝くんが言った。

「宝ちゃんといると、なんかホッするんだよね。オレと宝ちゃんって似てるところ多いし」

どこが似てる?と突っ込まれるかと思ったけれど、エリックさんもショウさん&カツヤさんもふーんとか、なるほどね、と言っただけだった。

「大輝の初めての女友達ってやつじゃないの?」
「だね。少なくとも、俺らの会に、彼女じゃない女の子を連れてきたの初めてだしね」

ショウさん&カツヤさんの言葉に、私は驚いた。

― 私が女友達…?しかも初めての?

友達なら既に愛さんがいるし、大輝くんは人当たりが100点なので、女友達なんて星の数程じゃ?と思っていると、今度はエリックさんが言った。

「ほんとはメイってもっと早く帰ろうとしてたんだよね。でも大輝が、俺たちが着くまで帰らないで、ってお願いしてたし。それって宝ちゃんに会わせてあげたかったからでしょ?」

私のためにわざわざ…?と大輝くんを見た私に、大輝くんは照れくさそうに笑った。





桐島選手が帰るまでは、付き合ってノンアルでいたという3人が飲むぞ!と言い出し、開けたシャンパーニュは2本。話は盛り上がり、20時前には店に到着していたはずなのに、気がつけば23時近くになっていた。

これからシーシャBARに行くけど、と言った3人とは別れて、お腹が空いた大輝くんと私は、西麻布交差点の近くの店に、豚骨ラーメンを食べにいくことになった。

私は、ラーメンの並、大輝くんは大盛。それに2人で水餃子を一皿頼んだ。宝ちゃんは福岡出身だから豚骨一択?と聞かれ、もちろんと誇りをもって答える。

私が桐島選手の大ファンだという話は、愛さんに聞いたらしい。確かに…愛さんと初めてご飯に行った日に、推しはいるの?と聞かれて桐島選手の話をした記憶がある。

大輝くんが先に食べおわり、私も急がなきゃ、と食べるスピードを上げた私に、大輝くんが慌てなくていいからね、と言ったあと続けた。

「…呪いを一緒に解こうって言った話」


ああ、確かに…店に入る前に、大輝くんはそんなことを言っていたと思いだす。

「今日、宝ちゃんと元カレさんのやりとりを見て、改めて思ったんだよね。ほんと、人の言葉って呪いになるなあ、って」
「…」
「宝ちゃんは彼のせいで、自分がつまらないと思ったわけでしょ?」

私は食べる手をとめ、顔を上げた。すると大輝くんは、あんまり深刻に受け取らないで欲しいんだけどさ、と、小さな咳払いをして水を飲んでから言った。

「……おれさ、実は養子なの」
「……よ、うし?」
「両親の実の子じゃないって話。あ、でもすごく大切に育てられたし、両親には感謝しかないし、不満はないから悲しい話じゃないよ」
「…」
「ごめん。何となく、宝ちゃんに言いたくなっちゃって」

何でかな、と大輝くんは笑った。





― 何で…教えてくれたんだろう。

私はこれまで養子という言葉を身近に感じたことはなく、その存在にも会ったことがはない。つまり、いまいちピンときてはいなかったけれど、家まで送るね、と並んで歩く大輝くんに、なぜかとてもたまらなくなった。だから。

信号待ちで足を止めた時、思い切って伝えた。

「……私にできることがあったら言ってね」
「…ん?」
「今日はほんとにありがとう。桐島選手に会えたのはもちろんだけど、大事な幼馴染たちとの会に参加させてくれてうれしかった。それと…」
「…」
「祥吾にも、ガツンと怒ってくれてありがとう。…だから……その」

言葉を止めた私を、ん?と言う顔で大輝くんが覗き込んでくる。その表情にむずがゆくなったけれど、思い切って、大輝くんに向かって大きく両手を広げてみせた。

「………友情と感謝のハグを……したいんですけど」

大輝くんがキョトンとした。うわ、はずかしい、と思った瞬間。

「…宝ちゃんから初めてのハグだ。友情のハグって嬉しいものだね」

大きな体を屈めて私の腕の中へ入ってきた大輝くんがそう言った。ぎゅうっと強く抱きしめられて、なぜだか涙が出そうになって、ごまかすために私は言った。

「……困った時は…今度は大輝くんが私を頼ってね。大輝くんみたいにすごいコネクションとかはないし…何ができるか分からないけど」

― 私にとっても、大輝くんは初めての男友達かもしれない。

そんなことを思っていると、ありがと、と言って、大輝くんが体を離した。そして、あ!と声を上げた。

「保護者①②を発見しました。宝ちゃん、見て」

大輝くんの視線の方向を振り向くと、車道の向こう側に、雄大さんと愛さんが見えた。私たちには気がついていないようで、愛さんの笑顔と真っ白なコートが夜にまぶしい。

「どうする?…ついてく?」

いたずらっぽく大輝くんが笑い、自分の腕時計を見せてくれた。23時55分。明日も仕事だからと帰るつもりでいた24時まであと5分しかない。

でも。

「……ついてく!」

友情を確認し合えたこの夜を、私はまだ終わらせたくなかったのだ。


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▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…

次回は、3月30日 土曜更新予定!


 
   

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