top_line

【完全無料で遊べるミニゲーム】
サクサク消せる爽快パズル「ガーデンテイルズ」

中日レジェンドも絶賛“次世代の名遊撃手”宗山塁(明治大)が目指す進化形の守備とは?【神宮を沸かせる男たち①】

THE DIGEST

 高校野球の春夏の甲子園のような国民的な盛り上がりこそないが、大学野球には熱心な野球ファンを惹きつける独自の魅力がある。学生野球の聖地・神宮球場を主戦場とする東京六大学、東都リーグを中心に、プロ注目のスター候補生や、スポーツ紙が取り上げないチームのキーマン、個性溢れる指導者など、令和の大学野球を彩る「人」をクローズアップする不定期連載企画。

 第1回は、あの名手から「源田(壮亮=西武)の次の日本代表のショート」と絶賛される〝次世代の名遊撃手〟宗山塁(明治大学・3年)だ。

―――◇―――◇―――
 
 高校生でも大学生でも、アマチュアの選手(野手)がピックアップされる時に、その基準はほとんどがバッティングの評価になる。宗山もそうだった。昨年、まだ2年生の春にして、シーズン.429の高打率を記録し首位打者を獲得。身長175cmと決して大柄ではないが、ホームランも年間で7本(3年春まで通算8本)と、六大学を代表する功打の内野手として脚光を浴び、大学JAPANにも選出されている。しかし、宗山のバリューをもうワンランク引き上げたのは、あの名手からの評価だった。

「明大のショートの宗山君。あの子は本当にうまい。今、プロの中に入れてもトップレベルの守備だと思うよ」

 現役時代、プロ野球屈指と謳われたショートの守備を誇り、現在は野球評論家の傍らアマチュアの現場でも指導を行っている井端弘和が、宗山の守備を絶賛し、自身のYouTubeなどで何度も発信してきた。打率や本塁打数など数字から見えてくることが多いバッティングと違い、守備の巧拙は数値化しにくいし、一般のファンにはなかなか判断がつかない。井端の言葉で、『なんでも鑑定団』の鑑定士に高い評価を受けた美術品のように、宗山の「守備」に陽が当たることになった。

 だが、そうした解説がなくても、神宮球場に足を運ぶ六大学野球ファンはもう気付いていたはずだ。スタンドから見る宗山の守備は、たしかに「うまい」。広い守備範囲。緩い打球、クセのある打球もしっかり身体の正面に入れ、柔らかいグラブ捌きで捕球する。1年生の頃はたまにスローイングが乱れることがあったが、今はそれもなくなり崩れる要素がない。

 宗山は「楽にアウトにしたい」と口にする。もちろんそれは、横着をしたいという意味ではない。捕球とスローイングを常に一連の動きとして考えている。切り離してしまうと、送球で肩の力に頼ることになるからだ。
「捕球に行く動きの流れで、ムダな力を入れずに、足を運ぶだけで(スローイングを)フィニッシュしたらボールがファーストに伸びて行くような、そんな力感のない軽やかな守備をしたいんです。どんなにスピードがあっても、打球に衝突するような捕り方をしているとエラーにつながる。打球との間合いをしっかり取って、やさしく捕るというのでしょうか。それは日頃から意識しています」
  試合中の宗山は、あまりユニフォームが汚れていない。それは逆に、彼の技術の高さの証明でもある。ユニフォームが真っ黒になるような、派手なダイビングキャッチをしないからだ。「飛び込んで捕って起き上がって投げるより、どんなにギリギリでも追いついて投げるほうが速いはず」と言う。だから、「日頃の練習から、打球に飛びついて捕ることはあまりやらない」と、ノックでもしっかり足を使ってボールを追う。

 かつて「アライバコンビ」と称された中日の井端、荒木雅博の鉄壁の二遊間を作り上げたのは落合博満監督のキャンプでの猛ノックだったことはよく知られているが、それは左右に大きく打球を振って飛びつくようないわゆる「根性ノック」ではなく、ギリギリ追いつくところに打った打球を、最後まで追い掛けて捕球するものだった。受ける選手にとってはこのほうが難しいし体力的にも苦しい。だからこそ、捕れる範囲も広くなる。
  そうやって追いついて、グラブに入れてしまえば、抜群のボディバランスでスローイングの体勢を作ってしまう。井端と同じくプロ野球を代表するショートの名手だった宮本慎也(元ヤクルト)は「うまい守備は(見た目が)カッコいい」と表現しているが、宗山が二塁ベース寄りのゴロを捌いて身体を一回転させて一塁送球するプレーは、まさに「カッコいい」。

 あえて課題を見つけるとすれば、「自分としては、捕って、速く投げることには自信がありますが、それがかえって雑にやっているように見えてしまうことがあるんです」と言う。「雑」と言うよりも、うまさゆえにプレーが軽く見えてしまう時があるのは事実だろう。ただそれも、「自分ではムダな力を入れないようにやっているつもりでした」と説明する。
「ただ、そこに堅実性に欠ける部分があったので、監督からも『速いプレーができるのはわかったから、当たり前のゴロを確実にアウトに出来る堅実さを身につけろ』とよく言われていました」

 明大を率いる田中武宏監督は、宗山の守備のセンスを認めているからこそ、「バッティングは黙っていてもやるけど、守備は自分からやるように言っている」と決して手綱を緩めようとはしない。宗山はこう言う。

「試合になったら、どうしてもバウンドが合わないという打球もあります。そしたら待って、ちょっと不格好になっても、捕って、とにかくアウトにする。でもそれは最終手段であって、理想は自分で足を運んで、一番捕れる確率が高いところで捕るのがベスト。やっぱり、そこを目指したいんです。そういう理想の捕り方を目指して追求していかないと、上手くなれないと思いますから」
  この春のリーグ戦、試合のある日にも早朝から自主練習でグラウンドに出てコーチのノックを黙々と受け続ける宗山の姿を見て、田中監督も「これなら大丈夫だな」と成長の手応えを感じている。宗山も、それが土台となっていることを自覚している。
 「何より一番の練習はノックを受けること。それを毎日続けることですね。守備は、やれば誰でもうまくなるものだと思います。それも毎日続けることで、自分の守備が上達していることを実感できますから。バロメーターなんです。だから休みが空いてしまうと、実感することが難しくなる。毎日打球を受けることが上達に繋がるんです。前は捕れなかった打球に追いつけるようになったり、スムーズに処理出来なかったのが上手く足が運べるようになったり、毎日受けていることで、良くなったことがわかる。毎日やることが重要なんです」

 なぜそこまで守備にこだわるのだろう?  それは野球選手として生き残るための知恵でもあった。

「結局、監督が信頼して試合に送り出せるのは、守備が堅い選手なんです。そこの信頼があってこその起用になります。だから、その信頼感、安心感というのは、試合に出る上で、一番大事なことだと思っていました。好き嫌いで言ったら、そりゃバッティング、好きですよ。でも、まず試合に出ないと何も始まらない。試合に出るために、監督からの信頼を得るために、守備は一番重要なんです」

 実際に、神宮デビューも守備からだった。1年生の春、3カード目の法大戦で、途中交代でショートの守備に就き、そこから3度打席に立って2安打。法大のエース三浦銀二(現・DeNA)から初ホームラン。この活躍で翌日の第2戦、「8番ショート」で初スタメンを勝ち取る。以来、現在までフル出場を続けている。

 宗山にとっては、それも想定して、準備していたからこその結果でもあった。
「もし1年生でまだ実績のない自分に出番があるとしたら、守備から試合に入って、その後に何打席か立つというケースです。そしたら、どう守ろうか? どういう打球が来るんだろう? このピッチャー、初球、何から入ってくるか? ベンチにいても、試合に出ているつもりで見ていました。そこまで深く準備していたので、すんなりとゲームに入っていけた面があります」
  ショートのレギュラーに定着すると、打順は8番から、試合のたびに7番、6番と上がり、1年秋には全試合に「6番ショート」で出場し、打っても打率.378の好成績を残しベストナインを受賞。そして「3番ショート」となった2年春のシーズンに.429のハイアベレージで首位打者を獲得。攻守に実力を兼ね備え、すでに来年のドラフトの超目玉として複数球団の1位指名が確実視されている。
  少し意地悪な質問をしてみた。現在、大学野球界ではナンバーワンと言ってもいい技量を誇り、チーム(明大)も東京六大学を3連覇。昨秋の明治神宮大会を制し日本一も経験した。単純に野球選手としての成長だけを考えたら、この先、大学野球をやる意味はあるのか? 極論すれば、大学を中退してでも今年プロに入っていたらどんな数字を残していたのだろう? 正直、そんなことを考えることはないのだろうか?

「いやいや、それはまったくないです」と宗山は即座に否定した。

「過去の成績をどんどん上回っていくことが自分の成長につながると思っていますから、目標はいくらでも作れます。よく1年生2年生の時の成績が良かったと言われるのですが、自分としては、その中でできなかった部分がすごく悔しくて、そっちに目を向けてしまうんです。性格的にも、完璧にしたい。できなかったところをこれからどうやってできるようにしていこうか、できたところをもっと上げていくには何が必要なのか、といつも考えています。実際、まだ足りないことばかりだし、自分の感覚では、今の自分がプロに行ってやれるか? といったら、そこまでの自信はありません。プロは技術だけではなく、人間力のようなものも求められる世界だと思いますから。

 今年はチームとしても、日本一にならないと負けと言われる。個人としても、これまでの成績をちょっとでも下回ったら、伸びてないと言われる。今の自分はそういう立場にいると思っています。そういう意味でも、今、大学で野球をやる意味は大きいんです。高校大学の7年間って、技術的な成長はもちろんですが、メンタル面、考え方がかなり変わる、すごく大事な時間だと思います」

 この春、チームは完全優勝でリーグ3連覇を果たしたものの、宗山個人としてはレギュラーに定着した1年生の秋以降では初めて打率3割を切る(.294)不本意なシーズンとなった。3季連続で受賞していたベストナインも選考から漏れた。それだけに5日に開幕した全日本大学選手権では心に期するところがある。
  そして、数字からは本当の力が見えてきにくい守備において、宗山は何を表現していくつもりなのだろう?

「それまでの自分ができていなかったプレーができたり、シーズンを重ねるごとに捕れる範囲を広げていくとか、技術的な成長は常に追い掛けていますが、それ以外でも、試合を自分が作っていくくらいの意識を持ちたいんです。上手い〝間〟の使い方であったり、大量失点を防ぐ守備であったり、そういう試合の勝敗を左右するようなプレーを、バッテリーじゃなくても、ショートからでもできるはずだと思うんです。そういう〝捕る〟〝投げる〟以外のところでも、存在感を出して引っ張っていけるような選手になれば、もう一つ上に行ける気がします」
  宗山が目指す進化の形は、「ゲームを支配する選手」だった。
「ショートから打者を打ち取れるくらいの、それができたら、もっともっと野球が楽しくなるはずだし、自分のレベルも上がるじゃないですか」と楽しそうに笑う。

 宗山の座中の銘は「他喜力」。人を喜ばせる力。広陵高校時代の恩師・中井哲之監督からもらった言葉だという。

「ゲームを支配しつつ、常にチームマンでありたい。野球はチームで戦うスポーツ。自分の結果も追い求めていくが、一番はチームがどう動くか。その中で自分が一番良い働き、勝つ為の動きをしたい」

 そんな宗山の野球観が集約された言葉だった。

取材・文●矢崎良一
【関連記事】チームを支える“なんでも屋”。雑務の傍ら打撃投手で200球を投げる日も。青学大の敏腕学生マネージャーの素顔【大学野球の裏側】

【関連記事】ドラフト戦線に突然現れた“無名の155キロ右腕”、柴田大地が辿った波瀾万丈すぎる球歴

【関連記事】“投げる=酷使”に抱く違和感。駒大の福山優希が、時代遅れと言われても連投する理由「身体を張るという考えではやってない」
 
   

ランキング(スポーツ)

ジャンル