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女優・土村 芳、コンプレックスをプラスに変えて「自分は自分でしかいられない」

SmartFLASH

 部活が終わり、進路を決めるとき、スポーツ少女が選んだのは「役者を目指して大学に進学する」という道だった。

 

「幼稚園のころ、地元の岩手県の子供劇団に入って、宮沢賢治の作品に出演したりしていたんです。それが役者になりたいと思ったルーツかも。

 

 同時にもしダメだったときに『大学くらいは行っておかないと……』という気持ちもあり、映画学科俳優コースのある大学に進学しました」

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 大学では演技だけでなく、演出、カメラ、照明、録音なども学んだ。

 

「『手の空いている人がなんでもやる』という環境で学びました。当時の私はヤン・シュヴァンクマイエル監督にハマっていて、ランチボックス(撮影機材)を使い、コマ撮り映像作品に挑戦しました。それが生涯唯一の監督作品です」

 

 在学中から自主映画に出演し、俳優としてキャリアを重ねていった。だが、演じるたびに抱えていた悩みが深くなっていった。

 

「自分には個性がない、ということにずっと悩んでいました。大学時代、周囲は個性的な同期ばかりで、自分が埋もれてしまうという危機感があったんです。個性的な人に憧れて、まねした時期もありました。大学の授業で林海象監督に『演技には正解がないんだよ』と言われて面食らったこともあります。個性を含めて当時の私は正解ばかりを求めていたので。今なら『自由でいいんだ』という意味のお言葉だったと理解できるんですけど」

 

 演じながら自問自答した。そして、気づいた。

 

「結局は他人のまねをしてもダメなんです。自分は自分でしかいられない。『個性的で何ができるか』ではなく、『自分は変わった個性もないし、無理はできない人だ』と思い知ったんです」

 

土村 芳

 

■奇をてらわず、素の自分のままで

 

 2013年に、土村は大学卒業のタイミングで上京。現在の事務所に所属した。だが、ここでキャリアに空白が生じる。

 

「東京に来て事務所に入ったのはいいのですが、何をどうしたらいいのかもわからなかったんです。『事務所に顔見せの挨拶に行く』という常識すら知らなくて、ただ家にいたんですよ」

 

 ついには所属事務所のなかでも「土村っていう人は本当にいるの?」と噂になった。

 

「あわてて挨拶に行きました。レッスンの誘いがあっても行っていなかったんです。田舎者なので『東京は胡散臭いワークショップがあって、お金を取られる』みたいなへんな警戒感があって。ところが、いざ受けてみると本当に勉強になりました。人とコミュニケーションをとることの大切さを実感しました」

 

 ドラマのオーディションもなかなかエントリーできず、思い描いたような活動はできなかった。転機は2016年に『べっぴんさん』に出演したことだ。

 

「それまで、朝ドラのオーディションは、書類選考で何度も落ちていたんです。やっと対面での審査まで進み、すごいドキドキしました。オーディションではいろいろ対策を考えたのですが、奇をてらったことはせず、取り繕いもせず、無理せずに素の自分のままで臨みました」

 

 初めて最終審査まで進んだ。NHKのスタジオには本番と同じセットが組まれ、そこで演技した。

 

「何台ものカメラで撮られて、すごく緊張しました。演出の方に『1回、落ち着いて』と言われたのを覚えています」

 

 結果、芳根京子演じるヒロインの親友という大役を得た。彼女にとって初の連続ドラマレギュラー出演作になった。

 

「朝ドラに出演できたのはもちろん嬉しかったのですが、みんなでひとつのものを作っていく素晴らしさを日々の撮影であらためて実感しました。なんというか、この仕事が『尊い』と思えたんです。 

 

 それまで、仕事がない時期も助けてくれた両親は、本当に喜んでくれました。私の姿を毎朝テレビで見ることで、少し安心したみたいです」

 

 近年は映画『本気のしるし』で “魔性の女” を演じるなど、演技の幅も広がってきた。

 

 現在放送中のドラマ『ゲキカラドウ2』(テレビ東京系)では、激辛料理を食べると人格が豹変してしまうヒロイン・小野寺美優を演じている。

 

「普段の自分の中にはないような役柄に挑戦させていただける機会が増えてきました。今回の役は、言葉遣いもかなり乱暴で、キレ方にも、いろいろなバリエーションがあるので、演じていてかなり楽しいです」

 

 激辛がテーマのグルメドラマゆえ、激辛料理を食べる機会も多い。

 

「撮影は辛い料理を食べるシーンが多くて。撮影用に、やや甘めな味つけにしていただいているのですが、毎回、口の中が激辛ですごいことになっています(笑)。作品に参加したおかげで、激辛料理に興味が出たんです。役者の仕事で嬉しいのは、そういう未知の世界を知る機会があることです」

 

 大学卒業から10年。土村は役者としてどのような未来を描いているのだろうか。

 

「本当にまだ未成熟というか、これから変わっていく部分も多いと思うので、未来はわからないんです。ただ今は、見てくださった誰かの中に少しでも残る存在になれたら、と思っています」

 

 演じ続ける土村の励みとなる「尊い」瞬間がある。

 

「ふだん、連絡を取り合わない古い友達から、私の出た作品の感想が送られてくることがあるんです。その文末に『こんな素敵な作品をありがとう』という一文が添えられていたことがありました。それにとても感動したんです。作品を見ていただけて、こちらがありがたい気持ちなのに、逆にお礼を言われた。このお仕事を続けていくなかで、そういったことが支えや糧になっています」

 

つちむらかほ
1990年12月11日生まれ 岩手県出身 高校卒業後、京都造形芸術大学(現在は京都芸術大学に改称)に進学。在学中から映画出演など役者として活動。映画『彌勒 MIROKU』(2013年)で映画初主演。NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』(2016年)で注目を集める。近作は『二十四の瞳』(2022年、NHK BSプレミアム)など多数。現在、ドラマ『ゲキカラドウ2』(テレビ東京系)に出演中

 

【RAIN ON THE ROOF】
住所/東京都世田谷区三軒茶屋2-14-22 池田屋2F 
営業時間/11:30~23:00 
定休日/なし

 

写真・野澤亘伸 
ヘアメイク・花村枝美(MARVEE)

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