ケヴィン氏のこだわりはそれだけではない。店内で使用している椅子は、宮城県石巻市の「石巻工房」で生産されたスツールを取り寄せている。同メーカーは、2011年の東日本大震災の直後に建築家の芦沢啓治によって設立され、東京のデザイナーたちが復旧・復興のために補修道具や木材を提供したという背景を持つ。2022年8月からは宮城県産の屋久島地杉などの国産材に切り替え、製品の多くは地元の人たちの手によって作られているとのこと。
良音なレコードと和を味わえるベルリンのニュースポットを巡る──Text by 宮沢香奈
「内装デザインもインテリアも全て自分で考えました。コーヒーに使用している陶器もKINTOという日本のメーカーですが、伝統工芸を用いたプロダクトやデザインが好きです。自分のスペースにサステナビリティーを取り入れることもごく自然なことでした。先進国であるドイツでは必要不可欠であることはもちろんですが、僕のライフスタイルでもあります。メニュー表は不要となった運転免許証をリサイクルした素材から作られています。通常の紙のメニューは、水に濡れてしまうとすぐに破れてしまったり、汚れたりして耐久性がありませんが、当店のは防水加工されているのでずっと使えて無駄になりません。」
決して広くはない店内には、ケヴィン氏のこだわりや好きなものだけでなく、人生を物語る背景や思想に至るまで全てが詰め込まれている。それでいて窮屈な印象も押し付けがましさも全くなく、むしろどこまでもリラックスできる。まさに“自分の場所”を手にした彼を少し羨ましいと思った。
日本の音楽文化と最高品質のサウンドを味わえるリスニングバー
ネーミングからして和を感じさせる「Bar Neiro」も紹介したい。ここは、ベルリンのレコーディングスタジオ「Brewery Studios」の姉妹店として、今年4月にオープンしたばかりのリスニングバー。オーディオテクニカのグローバル・プロジェクト「Analogue Foundation Berlin」によって運営されており、最高品質の音響設備が整っていることでも注目を集めている。ミッテ地区にありながら、ベルリン随一のフェティッシュクラブ「KitKatClub」のガーデンを通らないと辿り着けないという隠れ家的存在でもある。
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「Bar Neiro」は、日本のジャズ喫茶にインスパイアされており、1950年代の映画館で使用されていた音響システムと同じ部品で作られたスピーカーが設置されている。リスニングバーとは、1920年代に日本で始まったオーディオマニア向けのスペースだ。“音オタク”が集まってそこにしかない特注の音響システムで最小限に声を落としながらレコードを聴きまくるというものだ。
それをベルリンで再現したのが同店であり、ヴィンテージのハイファイサウンドシステムと音響設計された空間でレコードを聴きながら、和をイメージしたスペシャルカクテルを飲むことができる。それ以外にも、厳選されたスピリッツ、ワイン、ノンアルコールカクテルやドリンクも用意されている。
また、音楽プログラムも開催しており、DJ、ラジオホスト、レコードコレクターなどがゲストセレクターとしてBGMを担当している。ジャズ、サウンドトラック、日本のアンビエント、初期のファンクやソウルといった幅広いジャンルの音楽を楽しむことができるので、インスタグラムなどでその日のゲストセレクターをチェックして、好みの音楽の時に行くことをおすすめしたい。
Text by 宮沢香奈
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2023年6月2日