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片渕須直監督の新作「つるばみ色のなぎ子たち」、監督 × プロデューサーのトークとともにティザービジュアルなど公開

キネマ旬報WEB

 

Q. 「つるばみ色のなぎ子たち」はどんな作品でしょうか?

片渕 平安時代の話ですけど、ご覧いただいた今のビジュアルでも分かる通り、雅やかな十二単を着ていないグレー一色です。「つるばみ」というのはクヌギのどんぐりのことです。どんぐりの上には帽子があるんですけど、その帽子を集めると黒い染料になります。黒つるばみ、というのは布を黒く染めた、つまり喪服の色のことです。
「なぎ子」というのは以前作った「マイマイ新子と千年の魔法」(09)という映画があるんですが、その映画には“千年前の少女なぎ子ちゃん”という子が出てきます。彼女と関係があるかもしれません。
もうひとつ、今回は海外にもお伝えするために英語のタイトルも作りました。「Mourning Children」、Mourningというのは朝という意味ではなく「喪に服す」という意味です。「Nagiko And the Girls Wearing Tsurubami Black」、日本語でいう「たち」は英語のタイトルでは「Girls」です。なぎ子と少女たち、そして喪に服す子どもたち。そういう色んな内容についての片鱗をちりばめました。今日はここまでに留めたいなと思います。
また、平安時代というのは、色とりどりの十二単を来て、歌を詠んでのどかに暮らしていたのではないかと思われるかと思いますが、今ご覧いただいたように喪服を常に着ていて、その喪服を脱げないような時代でもありました。つまり常に人が次々と亡くなっているから喪服が脱げない時代でした。そういうことを我々はひとつひとつ当時の時代ってこうだったんだなと解き明かして、じゃあその中にいる人たちってこんな風だったんじゃないかな、というところから物語を起こしています。

大塚 平安というと歴史の勉強をしないと見れないようなものなのかな?と僕も最初は思ったのですが、本当にとっても尖った映画。現代の物語としてもヒリヒリするようなものだなと思って非常に楽しみだと思っています。

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Q. スタッフ陣についてもお聞きしたいです。

片渕 監督補の浦谷千恵さんは「マイマイ新子と千年の魔法」から「この世界の片隅に」「BLACK LAGOON」でも監督補として一緒にやってきました。
作画監督は安藤雅司さん。安藤さんはかなり昔に一度仕事したことがあったのですが、本格的にタッグを組ませていただくのは初めてです。「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」、最近出た「鹿の王ユナと約束の旅」(21)も作っていらっしゃる作画の大ベテランです。
今日のタイトルを発表する時にかかっていた印象的な曲なのですが、これは千住明さんの作曲によるものです。千住さんとは平安時代をどんな風に音楽として作るのか一緒に研究させていただいているんですけど、何よりも2000年に作った「アリーテ姫」(※劇場公開は2001年)という作品で初めて仕事させていただいて、世界を描く客観性というものが秘められている作りに、今回はまさに千住さんがぴったりだと思ってお願いしました。今まで自分が仕事させていただいて、この作品にはこういう人たちと一緒にやりたいなと思った人たちに集まっていただきました。

※ここでコントレールのスタッフたちとの制作風景を収めた映像が流れる。

 

 

Q. 深いリサーチの上で制作されているんですね。

片渕 そうですね。最後にやっていたのは十二単を来て、歩いてきて座れるのかな?という実践をしました。初めはコスプレ衣装の十二単を着ていたのですが、本物とは全然大きさが違うので次には正しい大きさのものを取り入れてやってみたんですけども、それをするのがうちのスタッフだもので座る時にモタモタして上手くいかなかったんです。そこで狂言を演じておられる日本の古来の身のこなしを普段から行っておられる方にお越しいただいて十二単を着て座っていただいたらスっと一挙動で座られました。着慣れているというのはこういうことなんだなと思いました。
松明は棒に布が巻いてあって、その布に油が浸してあって、それが燃えるのかなというイメージがあるのですが、実際は全然油は使わないんです。中で松とか杉とかの葉っぱが燃えていて、いろんな配合でどれくらい燃えるのかなと試してみたのですが、ビックリするくらい長く燃えて驚きました。それを僕と安藤(作画監督)くんが持って歩いているフリをしている映像があったのですが、松明を持って歩く時に、どうやって火を揺らさないように歩くのかな、というところから作画に起こすということをやりました。
あと虫の培養をやっていました。平安時代に黒つるばみの服を着ているのと関係があるのですが、マラリアが流行って沢山の方が亡くなっているんです。マラリアは蚊が媒介するのですけど、蚊の幼虫はボウフラです。会社の中でボウフラを養殖して、それを観察してそこから作画を起こしました。(会場からは小さく悲鳴が起きる)めちゃくちゃ大変ですが、想像で描くのと違っていて、それを描いていたスタッフはコントレールで初めて仕事を始めた新人の方だったんですけど、そういう風に原画を描くまでに成長しました。
ひとつひとつのことは画に起こしていたら通り過ぎてしまうようになるかもしれないんですけど、以前作った「この世界の片隅に」がひとつひとつ戦争中のものを解き明かして画にしていった時に、そこに住んでいる、その中に生きていた人たちの気持ちとか人間性が分かってきました。今回も調べていく中で1000年以上前の遠い昔の平安時代に住んでいた人たちが、我々とどこが同じでどこが違うのかというのが見えてきて、その見えてきた人々の物語にしたいなと思っているわけです。

Q. 作品への意気込み

大塚 見ていただいた通り、アニメのスタジオって机に向かって画を描いているイメージが多いとは思うのですが、本当に1000年以上前に生きた人たちを研究して実践して体感して、それを画にしていくという作業を今現場の人たちはしてくれていて、その説得力はスクリーンでも伝えることができるんじゃないかなと、今からでも自信があります。ぜひ公開を楽しみにしていてください。

片渕 「絵を描く」というその前に、「何を描くのか?」というところから始めていて。それだったらこんな風に書いていくべきだなという発見から始めていってるスタジオです。そういうことをやっているからではなく、これから画面を作っていくのに大変な作業が待っているので、題名をお披露目しましたけれど、完成はまだまだ何年かかかることになる…(大塚:あんまりかかると困っちゃいます!)かからないようにしたいけど、かかってしまうことになるんです。そういう時に一緒に仕事してくださるスタッフを募集しながら、まだまだ人の層を厚くしながら作っていきたいと思います。
「コントレール」というのは飛行機雲という意味なんですけど、僕は早いものでアニメーションを始めて40年以上経って、60歳を超えてしまったのですが、そんな50代・60代のベテランと20代の若い人たちが一緒にやっていくスタジオです。僕たちは前を飛んで後ろに飛行機雲を残すけど、それを自分の糧にして成長していただいて素晴らしいアニメーション映画の作り手たちになってもらえるといいなと思って若い人たちと仕事をしています。まだまだそういう人たちと仕事をしていって、完成するまでには時間がかかりますけども「つるばみ色のなぎ子たち」をよろしくお願いいたします。

 

 

「つるばみ色のなぎ子たち」

原作・監督・脚本:片渕須直
監督補:浦谷千恵
作画監督:安藤雅司
制作:コントレール
©つるばみ色のなぎ子たち製作委員会/クロブルエ
公式ホームページ:https://tsurubami.contrail.tokyo/

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