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松下洸平、宮本浩次……ソロシンガーが半数を占めたアルバムチャート 2作品に共通する“エゴ”との向き合い方

Real Sound

松下洸平『POINT TO POINT』(初回限定盤)

参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2022-12-05/

 今年の終わりも見えてきた12月、第一週のアルバムチャートには歌手の多さが目立っています。オリコンチャートなのだから当然だと言われそうですが、英語表記のダンスグループやバンドではない、ひとり歌唱で身を立てるソロの歌い手といった意味です。上位から順に桑田佳祐、宮本浩次、松下洸平、松任谷由実、ASKA、氷川きよし、LiSAと続くのだから、「おお……まさに歌手!」という気分になりますね。

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 1位の桑田佳祐は名曲揃いのベストアルバムなので、今週は3位と4位、宮本浩次と松下洸平の新作を取り上げます。ことにチャート上において、松下洸平はまだ聞き慣れない名前。NHK連続テレビ小説『スカーレット』で多くの視聴者を夢中にさせたヒロインの夫・十代田八郎を演じ、現在もドラマ『アトムの童』(TBS系)に出演するなど、俳優としてめざましい活躍を見せている松下。そんな彼の音楽活動は、昨年から本格化。ついに完成した1stアルバムが『POINT TO POINT』なのです。

 俳優兼歌手。名前が売れたあとの企画モノと考えられがちですが、松下洸平はもともと音楽家志望。10代で歌手になると決心し、曲を作りながら専門学校に通い、かつては別名義でデビューもしています。2009年からはミュージカル出演をきっかけに俳優デビュー。しばらくは舞台やミュージカル、ドラマなどが活動の主戦場になっていました。

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 ロックバンドを夢見て上京した福山雅治が、気づけば俳優としてデビュー、だけども音楽の夢も捨てきれず、両立を選択した話と似ているかもしれません。福山と同じく、松下も音楽の夢を追い続け、2021年『つよがり』で二度目のメジャーデビュー。二足の草鞋を堂々と履き、自らのルーツであるソウルやR&Bを追い求めていきます。芝居の世界で学んできた知見や重ねてきたキャリアが、「俺が!俺が!」の青臭い主張には繋がらなかったのでしょう。ソングライターとして作詞作曲を手掛ける傍ら、UTAや松尾潔らプロデューサーや、Nulbarichのカンノケンタロウ(Gt)のサポートを全面的に受け入れる。チーム全員でより多くの人に届くポップスを目指していく姿勢は、最初から確立されているように思えます。

 アルバム『POINT TO POINT』の楽曲を輝かせているのは、エゴのない透明感、聴き手を選ばない普遍性。そこにチラッと身悶えるエモーションが滲む瞬間がとても美しい。好むものはマニアックだったりサブカル寄りでも、自分で届けるならば老若男女が共感できるものに。この姿勢もなかなか好感が持てます。音楽は末長く続けていくと本人も語っているので、今後どんなヒット曲が生まれてくるか楽しみにしたいところです。

 続いて宮本浩次。この人こそ「俺が!俺が!」の代表格と言いますか、良い意味でエゴや主張を全方位に放出しているイメージがあります。たとえ彼の音楽をよく知らなくても、「頭を掻きむしりながら目玉をひん剥き、汗だくで何かを叫んでいるミヤジの姿」は、もうひとつの記号となり万人に刷り込まれているのではないでしょうか。

 しかし、今回の『秋の日に』は昭和歌謡カバーアルバム。ここに彼のエゴは1ミリも感じられません。カバーであれば「俺流に料理する」という考え方もアリだし、そうすることで意外なミラクルが起きたりしますが、数年前からソロ活動を始めた宮本はその流れには与しない。驚くほど「我」が封印された歌声からは、ただ曲に対する「愛」が、もしくは、静かに作曲者たちに頭を垂れるような「敬意」が伝わってくるのです。

 2年前のカバー集『ROMANCE』もそうでしたが、今作でも彼が歌うのは女性歌手による女性目線のラブソングばかり。「まちぶせ」(荒井由実作詞/三木聖子・石川ひとみ歌唱)や「恋におちて -Fall in love-」(湯川れい子作詞/小林明子歌唱)など、原曲のメロディやストーリーに「汗だくで叫ぶミヤジ像」が入り込む隙はありません。つまり得意の「俺流」が通用しない世界にあえて身を置き、ひとりの歌手として、どこまで音楽に対して無心になれるのか。これが宮本カバーシリーズの狙いだと思います。結果出てきたのは、万人がまったく知らなかった献身的歌手の姿なのですから。

 興味深いのは「DESIRE -情熱-」(阿木燿子作詞/中森明菜歌唱)。今回の選曲の中では最もロック調の一曲で、ここはロック歌手・宮本浩次の本領発揮、いっちょ派手に暴れてやりましょう、という展開なら想像もしやすい。しかし宮本は音符をまっすぐに追い、余計な演出は一切なし。「どんな歌い手か」という情報を完全消去し、これはどんな曲で、どんなことを歌っているのか、それのみを一心に届けようとしているのです。ド派手にカブいている印象なら、原曲の中森明菜バージョンのほうが強いくらいで、この静けさ、謙虚さが宮本浩次の仕事なのかと、目から鱗が落ちるばかりでした。

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