また、2006年版と大きく変化したのは黒崎を追う刑事・神志名将の存在だ。前作では哀川翔が演じていたのだが、神志名も黒崎と同じように詐欺師によって人生を狂わされた男だ。そのため、黒崎を追うライバルであると同時に父親的な存在だったが、本作では井之脇海が演じる若い刑事となっており、警察サイドにいる「もう一人の黒崎」という側面が、より強くなっている。
神志名は、同じ境遇だからこそ、法律を破り詐欺に手を染める黒崎を許せなかった。しかし、御木本を逮捕できなかったことで無力感を抱き、警察であることの限界を感じ始めている。同じ気持ちを、検事を目指している氷柱も抱えている。法律や警察が弱者を守ってくれないという国家権力に対する不信感は前作以上に強まっている。
このように、2006年版と2022年版の『クロサギ』は同じ題材だからこそ違いが際立っている。この変化は、やはり作られた時代の影響が大きいのではないかと思う。不況は続いていたものの、デフレで物価が安く、今よりも生活に余裕が感じられた2000年代後半と違い、現在は経済もコロナ対策もガタガタで、国に対する不信感は当時よりも高まっている。
先行きが見えない混迷する2022年に作られたからこそ『クロサギ』はシリアスになり、不在の父を求めてさまよう青年の物語へと生まれ変わったのだ。
(成馬零一)