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魔女の煮込みスープの如き怪作映画!『ノベンバー』 カルト的ベストセラーが原作の幻想モノクローム体験

BANGER!!!

私をどこかへ連れてって

どうも行き先はいつの時代ともしれぬエストニアのようである。エストニアについてはデジタル・トランスフォーメーションが先端を行っているというまことに不確かな情報しか持っていないが、そんなよくわからない世界ではない。アナログのさらに前、色のないモノクロームの世界、私のような高齢者には馴染みのある不可思議なことが普通に存在するマジックリアリズムの空間である。

オオカミのような犬が雪野原を駆けまわる。あまりにも楽しくて走らずにはいられない。私は美しいエストニアを巡る心温まる捻じ曲げられた童話の世界を予感したのだが、数秒後に現れたのは見るからに邪悪な、おもちゃのようでいて人の存在意義を脅かすような鎌や鉄棒でできた3本足だけの人工物。それはどうも多少の意志を持っているようで、鎌を振り回し、空を飛び、鎖を操り、迷子になった牛を縛って連れ戻してくれたりもする。どうにも気味が悪いが仕事がしたくてしょうがないらしい。

ノベンバー、11月は死者が帰ってくる。夜、墓代わりに刺してある木の十字架の根元に火を捧げると、いつの間にか周りは白装束の、とうの昔に死んでいる近親者ばかりになっている。でもゾンビじゃないから噛んだりしない。ただ生きている者たちと束の間のひと時を過ごすのである。それが平和に見えるか、嫌悪の対象に見えるかは人次第であろう。

十字架の墓なのだからキリスト教徒たちのはずだが、死者が普通に帰ってきてしまうなどという不穏な教義は聞いたことがない。土地に根ざす住民たちにとっては当たり前の出来事のようだから、ヨーロッパ世界もキリスト教を一皮剥けば、こんなに豊かな世界観を持っているのである。

エストニアは本当にこんなところなのだろうか。誰か親切な人に案内していただきたいものである。

魅惑的な物語は語られるが……

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筋はある。しかも悲恋。しかし、その周辺に散りばめられたカットの断片の印象があまりにも強すぎて、確実に迷子になる。場面場面の意味は理解できるが、それが簡単には繋がらない。集中しすぎていると疲れてきて、気がつくとどうも瞼がとじられていたようである。否、確かに私はカッと目を見開いていたはずなのだが、寝ていたのかもと錯覚してしまう。ふふふ、それでいいのである。誰が映画にはわかりやすい筋が必要だと決めた。わかりやすい映画が面白かったことがあるか。

最近の私はトム様のあの映画にもいい加減にしてくれと文句をつけてみたが、誰にも相手にされなかった。不可解だが、あれがわかりやすくてスカッとするのは結構。しかし、わかりやすさ、気分の良さに引きずられるとろくなことがないように思うところもある、相当に捻じ曲がってしまった私である。ハチャメチャな内容でもわかりやすいからいいじゃん、ってどうなん。ま、人により映画の見方は千差万別で、それぞれが勝手に点数をつければいい。でもね、旅と同じで、知らない世界で戸惑うことの面白さを知ったらもうやめられませんよ。

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