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『明日、私は誰かのカノジョ』いよいよ最終章突入 作者・をのひなおが描きたかったこと

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をの:それこそ、第6章(「What a Wonderful World」。スピリチュアルに依存する元ヴィジュアル系バンドのファンである江美の物語)の場合は、蟹めんまさんの『バンギャルちゃんの日常』(KADOKAWA)を最初に読みました。

――江美と同じような、地方出身のヴィジュアル系ファンが描かれるエッセイマンガですね。私(インタビュアー)もキャラとして少し出ているので、今とても驚いています(笑)。

をの:そういった当事者の方が書いたエッセイやマンガを、一番参考にしているかもしれません。作品から当時の背景を自分なりに理解して、「ここに江美がいたら」とキャラクターのことを考えていきます。社内(サイコミ編集部関係者)にバンギャルがいたので、その人に「この時代は何が流行っていたんですか?」と伺ったこともありました。私自身は当時のことを知らないので、神保町の古書店に行って、その頃のファッションを扱う雑誌をたくさん買ってきて、それを踏まえたうえで描いて、さらに当時を知る方々に「何かおかしなところはありませんか?」「気になることがあったら指摘してください」と協力してもらって。江美たちが原宿の神宮橋にいるシーンなんかはそうやって作りました。

――神宮橋にヴィジュアル系バンドのメンバーのコスプレをしている人や、ロリータファッションの女性たちがいるシーンですね。あの背景に座り込んで路上喫煙をしているモブキャラがいたのが印象に残っています。今では考えられないですが、たしかに過去にはそういう風景はあったはずで、そういった空気感の描き方が絶妙だなと。


をの:調べていくうえで、「当時は普通に吸っていたな」と思い当たって。ネット上にも当時の写真やテキストだったり、誰かしらがちょっとした情報を落としているんです。それをヒントにいろいろ調べていくと、それだけで1日経っちゃったりして、全然作画の時間がないときもあるんですけど(笑)。

綿密な打ち合わせから膨らむイメージ

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――ホストにせよ、ヴィジュアル系にせよ、「をの先生は当事者なのでは?」という読者の声も目にしますが、そういうわけではなく、丹念な取材から『明日カノ』は生まれているのですね。をの先生のTwitterアカウントを拝見していると、担当編集氏との打ち合わせ後のホワイトボードの写真がアップされています。細かい言葉はぼかされていますが、あそこでも作品を作る上での綿密なやりとりの痕跡が伺えるなと。

をの:そんな、良い風に言っていただいて(笑)。1話1話、ああやって書いておかないと忘れてしまうんですよ。話の流れと絶対に外せないセリフやシーンを書いています。

担当編集:流れを書いていって、それを見て足りない部分やおかしいところを突っ込んでいく感じですね。まずは「前回こうだったよね」というところから始まって……。

をの:「そうなると、この展開をそろそろ入れないと読者の方が飽きてしまう」「これを入れるためには、このエピソードの抜き差しをここでしなきゃいけない」みたいな話をしています。

――たとえば、打ち合わせの中で出てきた、「絶対外せない」というシーンを教えてください。

担当編集:第6章の冒頭は、『ゆれる』(2006年・西川美和監督の日本映画。東京でカメラマンをしている主人公が母の死を知り田舎に帰省するところから始まる)の話をしましたよね。

――言われてみると……!

をの:もちろん、『ゆれる』を意識した話はどこにも出していないのですが、読者の方の感想コメントで「邦画の始まりみたい」というものがあって、「邦画の始まりを意識しながら書いたから、そうなんだよな」と(笑)。

担当編集:僕は映画が好きなので、映画の文脈で提案をすることはありますね。

――映画といえば、第3章の終盤、雪とアヤナが海に行くシーンで、「天国じゃ、みんなが海の話をする」という映画の話をしています。1997年公開のドイツ映画『Knockin’on Heaven’s Door』だと推測できるのですが、これは第4章のタイトルとつながっています。

をの:「あそこで映画の話をするのはエモいじゃん」という話になって、「何なら次のエピソード名は『Knockin’on Heaven’s Door』でよくない?」「いいね!」みたいな軽いノリでしたね。

社会現象を巻き起こした「ゆあ」

――その第4章、いわゆる“ホスト編”に登場するゆあ(優愛)は、本作の中でもかなりの反響を生んだキャラクターだと感じています。ある種の社会現象というか。

をの:それは、本当におこがましい話です。

――広告キャラクターに起用されたり、YouTubeやInstagramなどでも「ゆあてゃになりたい!」「ゆあてゃ風メイク」など、彼女に憧れる人のための情報が目につきます。いわゆる地雷系ファッションに身を包んで、黒髪のツインテールというキャラ造形も、ある種のアイコンのようになっていますし。

をの:当初、ゆあは金髪を想定して描いていたんです。モノクロ作画だと髪の毛が白なんですけど、「なにか違うな」と黒髪にしてみたら、それはそれで重たくなってしまって、いろいろ試行錯誤した結果生まれたもので、あんなに人気が出ると思わなくて、正直びっくりしています。

――「今こんな子が街に増えているからキャラとして出そう」というわけではなかったんですね。

をの:週刊連載なので毎回背景の写真資料が必要で、当時、歌舞伎町に撮影に出向いていたんです。街の写真を撮りながら「こういう子がいるんだ」「こういう会話をしているんだ」と雰囲気を感じることはできました。だから、ああいうファッションの子を見かけてはいたのですが、それこそ黒髪か金髪かでも迷っていたし、最初からあの姿と決めていたわけではなかったですね。

現実と並走するストーリー

――フィクションの中でも、新型コロナウイルスの影響下の東京を描いたのも早かったと思います。

をの:緊急事態宣言が出たのが2020年4月で、第4章に入る頃と重なっていたので、章の変わり目ということもあって「マスクつけちゃうか」とスムーズに。

――自然と取り入れたら……というわけですね。社会の動きを残しておきたいという強い使命感みたいなものでもなく。

をの:そうですね。ゆあの過去編(番外編「Stairway to Heaven」。田舎町で祖母と暮らしていた時期のゆあを描く)でも、「ヤングケアラーを取り入れるなんてさすが! この間NHKでやっていたよね」というコメントをいただいたのですが、「え、そうなの?」ということもありましたし、たまたま作中のエピソードと重なることはありますね。

――自ずと作品が現実と並走してしまっていると。

をの:ただ、さきほど「ゆあてゃみたいになりたい」という話が出てきましたよね。夢中になってくださるのは、本当にありがたいのですが、それはちょっと危ういというか、(作品やキャラクターと)もう少し距離をとってほしいというか、自ら思いもよらないような道に踏み込んでしまうようなことは……。

第6章に込められた思い「ちょっと待ってほしい」

――そういえば、ホストクラブに行って「初めて来た」と言うと、「『明日カノ』見て来たの?」なんて聞かれるという話を最近聞きました。そのくらい影響力のある作品であることはすごいことですし、実際に“ホス狂”になりたいというよりも、「自分にできないことをやっているゆあてゃかっこいい」と、ピカレスクロマン的にキャラクターに惚れ込むというケースもあると思います。

担当編集:ホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』って映画があるじゃないですか。あれも作り手側は「ジョーカーみたいになれ」とは言ってない。それを観ている側が「かっこいい」と思うわけで。それは作り手が意図するところではない。ただ、第4章の反響の大きさから「じゃあ20年経ったらどうなっているのか?」という話から生まれたのが、第6章なんです。

をの:第6章には、これまでの章への反響に対して「ちょっと待ってほしい」という気持ちが根底にありました。もちろん、それだけがすべてではありませんが。ゆあに憧れてホストクラブに行ったとか、風俗で働いたみたいな話を目にして、これは一度「その先」を描かなくてはいけないという話はしていました。

――たしかに、第6章の江美も、ゆあがホストにハマっていたように、バンドマンとの恋愛やスピリチュアルなど「なにか」に強く依存した結果、性風俗で働いていました。その後さまざまな出来事があり、自分自身が流されていたことに気づき、クライマックスに至る。ラストもハッピーエンドではないけれど、人生は続くという含みのあるものでしたね。

担当編集:第6章の打ち合わせでも、「江美をどうしても幸せにできない」という話は出てきました。

をの:どうやったら救えるのかという話をずっとしていました。だから、最終的に「救う」というより、折り合いをつけるようなラストになりました。

――なるほど、これは読者の勝手な憶測ですが、あの後、江美はまた別のなにかにハマったり、しょうもない男性に引っかかるような気がしているんですよ(笑)。

をの:次の心の拠り所を求めて、何かしらに依存するんじゃないかなとは思うけど、それが徐々に、あまりお金のかからないものだったり、心理的に負担にならないものになっていったらいいですよね。

担当編集:あのラストには、「これでいいんだ これ が いいんだ」というセリフが出てくるじゃないですか。あれは単に折り合いをつけているのではなくて、かなり無理矢理にそうしているセリフなんですよね。

をの:本心では東京のキラキラした雰囲気を浴びて、地元に帰りたくない気持ちもあるのだけど、「戻っちゃダメだ」「これがいいんだ」と自分に言い聞かせているというか。必死に頑張っているんです。

自身の経験により生まれた作風

――お話を伺っていると、ヒロインたちに対する視線が優しいというか、バランス感覚が絶妙ですよね。

をの:たとえば、主人公が悲劇のヒロインとして転落していくだけの話では、『明日カノ』ではないと思うんです。そのあたりのバランスは意識しました。

――マンガアプリの広告で見かけるような、「こんなバカ女がいるぞ」みたいな話ではないと。

をの:私はそう思って描いています。もちろん、読み手の中にはそういう作品と同様に読んでいる方もいるにはいるかもしれないですけど。

――女性キャラクター同士の関係性も細やかで、「女のドロドロを描く」でも「女性の連帯を描く」でもなく、一面的ではないところに魅力を感じます。マンガ家としてデビューする前は、主に女性同士の恋愛を描く「百合」ジャンルの同人活動をされていたと伺いました。

をの:はい、創作百合を描いていました。

――女性同士の感情や関係性に思い入れが深いのでしょうか。

をの:そうなのかな、でもそうかもしれない。それに、たしかに『明日カノ』で、男女の絆みたいなものはあまり描いていないというか、描くにあたって重きを置いていないのかもしれないです。

――『明日カノ』の男女関係は「お金ありき」というか、レンタル彼女やホストなどのサービスに推し活など、お金が間に入る関係が多いですね。

をの:何なら描けるか、何を描くのが好きなのかと突き詰めると、女性同士の関係性とお金の絡んだ恋愛……『明日カノ』は、それで作られていますね(笑)。

――まさに、『明日カノ』を分解したら出てくる要素ですね(笑)。

をの:どうしてそれが好きなのかと聞かれると、どうしてなんだろう。……私の母親はクラブのママをやっていたんです。父親がそのお店のオーナーで……。なので、幼い頃から母親は従業員の女の子たちから「ママ」と呼ばれ慕われていて、お酒を提供して男性を接客する場所にいた。幼心にそれがどんなことかはなんとなく分かっていて、今の作風はそういった経験からきているのかもしれません。

影響を受けた作品は?

――そうだったんですね。ご自身の体験以外で、影響を受けたもの、たとえば好きな漫画作品なども教えてください。

をの:そう、この間、マンガ家さんたちと「好きな漫画」についての話になったんです。そこで真っ先に「手塚治虫先生が好き!」と言ったら、「手塚治虫ですか……?」と意外そうな反応がきました(笑)。

――手塚治虫先生の作品の中でもいろいろありますよね。一番をあげるとするなら?

をの:『ブラックジャック』ですね。本当に大好きなんです。あの、理不尽に終わっていく感じが。

――ブラックジャックは法外な報酬をとる闇医者ですが、お金で動くだけでもないし、患者側も一筋縄ではいかないキャラクターばかりで、ハッピーエンドではない話も多いです。ブラックジャックがどんなに頑張っても救えない命があったり。

をの:そう! なのに、悪人だけがのうのうと生きて終わっちゃったり、救いたい人ではない人が助かったりとか。ほぼほぼ理不尽なんですよね。スカッとする話が全然ないんですよね。

――今、『明日カノ』のルーツがさらに見えた気がします(笑)。

をの:他には冨樫義博先生、諫山創先生も好きです。アニメだと『少女革命ウテナ』も好きで、ドラマは2003年版の『白い巨塔』が大好きなんです。唐沢寿明さん主演の。

――また意外なタイトルが。どのあたりに惹かれますか?

をの:こういう時に言語化できないんですよね。何度も観ているのに、なんかめっちゃ面白いとしか……(笑)。

最終章「No Woman No Cry」について

――最後に、現在、最終章「No Woman No Cry」のプロローグが公開されており、そこでは雪と彼女の母親の関係にフォーカスされるであろうことが予想できます。

をの:これまでも伏線を少しずつ入れていたのですが、最初から雪と親の話になって終わることは考えていました。本当は第4章の後すぐに最終章をと考えていたものの、「まだ描けることがある」と“推し活編”(第5章「洗脳」)ができ、先ほど話したように第4章の反響から第6章が生まれて、ようやく終わらせることができるといった感じです。

――親との関係性の話になるとはいえ、『明日カノ』ですし、「お母さんは私のことを愛してくれていたんだ!」的な、ストレートな和解になるわけもなく……。

をの:そういうのって「フィクション感」がすごくて、ちょっと苦手かもしれないです。

――そうでしょうね。最終章、どんな展開になるのか、いち読者として楽しみにしています。

担当編集:最終章はこれまでのストーリーを遡っていくので、令和に入ってからの時代を振り返る、総括するような物語になるのではないかと。そのために(プロローグを)「海」のシーンから始めたところもあります。読者の方のそれぞれの思い出とともに楽しんでいただければと思います。

をの:連載3年半を迎えていよいよ最終章に突入します。これからも頑張って参りますので、ぜひ最終章を見ていただけたら嬉しいです。

『明日カノ』10月2日(日)まで全話無料で公開中!

最終章開幕を記念し、期間中「サイコミ」アプリ内で『明日、私は誰かのカノジョ』を全話無料で公開中。

【全話無料公開期間】
2022年9月30日(金)00:00 〜 2022年10月2日(日)23:59

【注意事項】
※「サイコミ」アプリ内のみ対象です。
※「先読み」を除いた第1章から第6章までの163話が対象です。

「サイコミ」のダウンロードはこちら
Google Play:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.cygames.cycomi
App Store:https://itunes.apple.com/jp/app/id1099688273[関田16] 

(c)Hinao Wono/Cygames, Inc.

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