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池井戸潤の3年ぶりの新作、意外なコラボや周年記念本まで……立花もも解説! 9月の文芸書週間ベストセラー

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 文芸書の週間ベストセラーランキングの中から注目作品を立花ももが解説。9月はどんな作品が登場するのか。早速行ってみましょう!

 9月期【単行本 文芸書ランキング】 (9月13日トーハン調べ)

1位 池井戸潤『ハヤブサ消防団』(集英社) 
2位 愛七ひろ『デスマーチからはじまる異世界狂想曲 26』 (KADOKAWA)
3位 又吉直樹/ヨシタケシンスケ『その本は』(ポプラ社)
4位「十二国記」30周年記念ガイドブック (新潮社)
5位 西尾維新『怪盗フラヌールの巡回』 (講談社) 
6位 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)
7位 結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮社) 
8位 じゃがバター『異世界に転移したら山の中だった。反動で強さ
よりも快適さを選びました。 9』(ツギクル)
9位 凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)
10位 丸山くがね『オーバーロード16 半森妖精の神人 [下]』(KADOKAWA)

 9月第二週の週間ベストセラー、1位は池井戸潤の『ハヤブサ消防団』。半沢直樹シリーズなどの続編ではない新作は、ドラマ化された『ノーサイド・ゲーム』以来、三年ぶりである。

池井戸潤『ハヤブサ消防団』(集英社) 

 主人公は、華々しい評価でデビューしたもののその後の売れ行きがぱっとしないミステリー作家・三馬太郎。取材ついでに寄った亡き父の故郷、ハヤブサ地区の景色に心をつかまれて、東京での生活を引き払い、父の実家で暮らすことを決めるのだが、転居早々、地元の人たちに消防団の勧誘を受ける。消防署から30キロも離れたハヤブサ地区の安全は、有志で活動する消防団によって守られているのだ。

 何もない田舎なら執筆活動にだけ集中できるなんて、そんな甘い話があるはずもなく、人間関係の濃密な田舎で、太郎は新しい世界に飛び込んでいく。著者の地元がモデルというだけあって、太郎が地区に溶け込んでいくまでの過程は、とてもあたたかいものとして描かれる。

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 それだけに、何者かによる連続放火事件が、ぴりっと緊張感をもたらす。次から次へと明かされる、優しい地元住民たちのあやしげな背景にも、ぞわぞわする。誰が犯人かまったく予想がつかないのも当然で、池井戸自身も、最後まで誰が犯人かわからないまま書いていたそう。ミステリーとしての読み応えだけでなく、人と人とがかよわす情の複雑さにも切ない気分にさせられる、著者の新境地である。

又吉直樹/ヨシタケシンスケ『その本は』(ポプラ社)

 3位は意外なコラボレーション。2017年にボローニャ国際児童図書賞を受賞し、現在は初の大型個展を全国巡業中の絵本作家・ヨシタケシンスケと、芸人であり芥川賞作家でもある又吉直樹が共作した絵本『その本は』。

〈お前たち、世界中をまわって『めずらしい本』について知っている者を探し出し、その者から、その本についての話を聞いてきてくれ。そしてその本の話をわしに教えてほしいのだ〉と王様から指示をうけた二人の男。そのイラストは、ヨシタケシンスケと又吉直樹に瓜二つ! はてさて、一年後、旅から戻ってきた二人はどんな話を王様に伝えるのか?

 ヨシタケシンスケの絵本の特徴は、想像力をとことんまでに膨らませるきっかけをくれる、遊び心。ふだん、当たり前とされていることに対して、どうして? なんで? の疑問を抱かせるだけでなく、「こんなこともあるかもしれない」「もっとこうできたら楽しいかもしれない」と目にうつるすべてを想像の道具に変えてしまう、ユーモアを読む人の心から引き出してくれる。だからこそ、子どもだけでなく大人も夢中になってしまうのだ。そんなヨシタと、物事をシニカルにとらえながらも人を笑わせることを本業とする又吉がタッグを組んで、おもしろくならないはずがない。これまた新しい二人の一面を見られる、とびきり贅沢な一作である。

「十二国記」30周年記念ガイドブック (新潮社)

 4位は『「十二国記」30周年記念ガイドブック』。累計1280万部を突破する、いわずとしれた小野不由美の大人気シリーズ、完結を記念しての一冊である。小野不由美のインタビューや、幻の短編が収録されているのはもちろんのこと、萩尾望都、羽海野チカ、藤崎竜、遠田志帆など、錚々たるメンバーによる描きおろしイラストがフルカラーで掲載。冲方丁、辻村深月、そしてここでも萩尾望都と、やはり豪華執筆陣による特別エッセイも収録と、隅から隅まで見どころ満載。

 そんななか、個人的におすすめは、初代編集者・鈴木真弓の語る、三十年史。もともと講談社ホワイトハート文庫から刊行された『十二国記』が、どのように生まれ、どのように育っていったのか。その後、新潮文庫から完全版が刊行されるに至り、自身も新潮社に移った彼女は、『十二国記』をいちばん近くで見守ってきた人物である。伴走してきたその道のりを読むだけで、胸が詰まる。『十二国記』のはじまりである新潮社文庫『魔性の子』の担当編集者だった大森望の寄稿とあわせて、ぜひじっくり読んでいただきたい。

西尾維新『怪盗フラヌールの巡回』 (講談社) 

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