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切なすぎて胸がぎゅっとなる。型破りな恋愛映画「ちょいおも」の魔法に世界が注目! 

キネマ旬報WEB

魔法にかけられたよう、ってまさにこの映画のためにある言葉かもしれない。いま最も勢いのある人気クリエイターの松居大悟監督が、オリジナル脚本で編み上げた「ちょっと思い出しただけ」は、画面に映っていない時間までもがまざまざと浮かび上がってくる奇跡のような作品だ。9月2日にリリースされるブルーレイ&DVDには、撮影の日々に密着したメイキングフィルムを含む映像特典も付いていて、切なくもいとおしい「ちょいおも」の世界にどっぷりと浸ることができる。

6年間の7月26日をさかのぼる「定日観察」

「ちょっと思い出しただけ」はコロナ禍の中、1年延期となった東京五輪が開催されている2021年7月26日から物語が始まる。この日が誕生日の佐伯照生(池松壮亮)は、照明係として舞台上のダンサーたちにスポットライトを当てていた。一方、いつものように夜の東京を走らせていたタクシー運転手の野原葉(伊藤沙莉)は、乗客のミュージシャンの男(尾崎世界観)にトイレに行きたいと言われて車を止める。男を待つ間、車を降りて何気なく建物に入っていった葉の視線の先には、公演が終わった後の誰もいないステージで1人踊る照生の姿があった。

果たして照生と葉の間には何があったのか。映画は1年ずつ時をさかのぼりながら、照生の誕生日の7月26日に起きた出来事を映し出す。

せっかくバースデーケーキを用意していたのに、タクシーの中で激しい口論になる2人。自宅でジム・ジャームッシュ監督の映画「ナイト・オン・ザ・プラネット」を見ながら、無邪気にケーキを食べ合う2人。人けのない水族館で、大きな水槽を前にはしゃぎ回る2人。そしてダンサーだった照生と、公演を見にいった葉が初めて出会った帰り道、夜の商店街でダンスのまねごとをする2人。6年間にわたる7月26日の情景が、走馬灯のようによみがえる。

この定点観察ならぬ「定日観察」のアイデアが素晴らしい。観葉植物への水やり、朝の体操、道端にたたずむお地蔵さん、公園で妻を待ち続ける男……。変わらない風景がある一方で、変わってしまったものもある。そんな誰にでもあるような「ちょっと思い出しただけ」の記憶がちりばめられていて、ぎゅっと胸が締めつけられるんだよね。

いつまでも眺めていたい池松壮亮&伊藤沙莉の呼吸

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1985年生まれの松居監督は、劇団ゴジゲンを主宰するなど演劇の世界で活躍する一方、「私たちのハァハァ」「アズミ・ハルコは行方不明」「アイスと雨音」「くれなずめ」といった映画でみずみずしい感性を発揮。ほかにも人気ロックバンド、クリープハイプのミュージックビデオなど幅広く映像の仕事を手がけてきたが、今回の作品はクリープハイプの新曲「ナイトオンザプラネット」がきっかけだった。

クリープハイプのボーカルでギターの尾崎世界観は、ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」が生涯ベストの映画で、この作品から着想して書き上げた新曲を聴いた松居監督は、即座に長編映画にしたいと感じた。「ナイト・オン・ザ・プラネット」は、同じ時刻に世界各地のタクシーの中で起きる出来事を描いた映画で、葉のタクシー運転手という設定もここに通じる。尾崎自身もミュージシャンの男の役で出演している。

こうして完成した愛すべき作品「ちょっと思い出しただけ」。その魅力を彩る最大の功労者は、何と言っても主役を演じる池松壮亮と伊藤沙莉の2人だろう。時をさかのぼるという型破りな設定にもかかわらず、それぞれの心情を痛いくらいに見る者に植えつける。タクシー内の口論に水族館のじゃれ合い、夜の商店街の語らいと、カットを割らずに2人の呼吸をじっくりと見せて、このままずっと眺めていたいと思わせるほどだ。

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