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CHAGE&ASKA「SAY YES」が『101回目のプロポーズ』に与えた“重み” みんなが聴いた平成ヒット曲第4回

Real Sound

 だが、カジュアルではなく、結婚前提のガチめな「恋愛」をテーマにしたところが、大人の視聴者の心をつかんだ。相手のことが好きなのに、どうやって行動に移せば良いのか分からない。不器用すぎて、うまい言葉が見つからず、結局はダンプカーの前に飛び出すしかなくなる。そういった達郎の姿を見て、何歳になっても、恋愛を実らせること、相手に想いを伝えることは難しいものだと実感させられた。筆者は今になって、『101回目のプロポーズ』がいかに大人の恋愛心情をリアルに描いていたかが分かってきた。

■結婚前提のガチな恋愛物語にぴったりだった「SAY YES」

 そんな『101回目のプロポーズ』にさらなる重みを加えたのが、CHAGE&ASKAによる主題歌「SAY YES」だ。

 ASKAの粘っこいボーカルは、薫に邪険にされてもアプローチし続ける達郎のキャラクターと重なるような雰囲気だった。そして〈このままふたりで朝を迎えて いつまでも暮らさないか〉という歌詞は、前述した「結婚前提のガチな恋愛」をあらわした物語の主題歌として、これ以上にない“プロポーズ”のようにも聴こえた。

 リリース当時、まだまだ少年だった筆者はこの曲にピンとこなかった。しかし『101回目のプロポーズ』同様、この曲も大人になった今だからこそ、歌詞を読み返してみると深みにどんどんハマってしまう。特に、〈愛には愛で感じ合おうよ 恋の手触り消えないように 何度も言うよ 君は確かに 僕を愛してる〉というパート。相手と接するなかで「この人は自分のことを愛しているだろう」と直感し、〈君は確かに 僕を愛してる〉と言い切るところは、まさに大人による恋愛の感じとり方である。

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■大江千里「格好悪いふられ方」も大ヒット

 1980年代後半から1990年代初期まで、トレンディドラマはバブル社会のシンボル的なカルチャーだった。

 トレンディドラマに登場する若者たちは、華やかな生活を送り、身近な人たちや突然目の前に現れた人物との恋愛に没頭した。生活や将来への不安はそこに感じられなかった。とは言っても1991年は、そういった状況を生んだ好景気に陰りが見え始めていた。バブル崩壊の始まりの年なのだ。同年5月にジュリアナ東京がオープンするなどし、現実の若者たちはナイトライフのアバンチュールをたのしんだが、それは最後の祭りのようでもあった。

 『101回目のプロポーズ』が放送された同年7月から9月のドラマ枠では、大江千里の「格好悪いふられ方」を主題歌とする『結婚したい男たち』もオンエアされていた。こちらもトレンディドラマの王道とは違い、結婚適齢期の男女が本当の愛を手に入れていく物語だった。

 一方で、バブル期に一世を風靡したクリエイターチーム、ホイチョイ・プロダクションズによる映画『波の数だけ抱きしめて』が8月に公開されたが、これは「ホイチョイ三部作映画」のラストとなった。トレンディドラマブームの終えんをあらわす出来事のひとつである。

■ドラマ主題歌が大ヒットする時代

 1991年8月には、東京で『世界陸上』が開催された。男子100メートル競争では、世界的なスーパースター、カール・ルイスが当時の世界記録を塗り替えた(9秒86)。ゴール後、ルイスが実況席前をウイニングランしているとき、テレビ中継のリポーターをつとめていた元プロ野球選手・長嶋茂雄氏が「ヘイ、カ~~~ル!」と絶叫していた姿は、スポーツ番組の珍場面として何度も放送された。一方で、バブル崩壊の兆しが見えていたこともあり、記念すべき日本初開催の『世界陸上』の高額チケットは売れ行きが良くなかったという。

 1991年はカルチャーや物事への価値観が変容していった時期だったと言える。「その瞬間が楽しければOK」「お金さえ出せば楽しいものが手に入る」ではなく、誰もが先行きをちょっとずつ気にし始めた。そういったムードが『101回目のプロポーズ』や『結婚したい男たち』のような、生涯を添い遂げる相手の存在について考えさせるドラマが増えた要因ではないだろうか。

 「SAY YES」の冒頭の〈余計な物など無いよね すべてが君と僕との愛の構えさ〉や、サビの〈愛には愛で感じ合おうよ〉も、経済状況が落ち込みはじめた時代のなかで、あらためて愛に向き合う必要を訴えかけているように感じられる。中盤の歌詞〈言葉は心を越えない〉はまさにその通りで、トレンディドラマなどで見られる格好良い台詞ではなく、『101回目のプロポーズ』の達郎のような泥臭くてもまっすぐな想いこそが、この先の人生では大切なのであるというとらえ方ができる。

 「SAY YES」は、CDの累計売上が約282万枚。CHAGE&ASKAにビッグヒットをもたらした。当時は「ドラマ主題歌は大ヒットする」という法則があり、まさにそれに則った形だ。ここまで記述したドラマのメッセージ性も含めて、時代的にもテレビに大きな影響力があったと言える。そういった時代背景も含めて、「SAY YES」は平成のヒットソングの代表的な作品ではないだろうか。

※1:オリコン週間シングルランキング1991年8月5日付

(田辺ユウキ)

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