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アニメーター・吉田健一が見た“限界なき富野由悠季”とは?「G-レコは富野監督との“戦い”であり“コンペティション”だった」

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『機動戦士ガンダム』の“生みの親”である富野由悠季監督が手掛ける劇場版『Gのレコンギスタ IV』「激闘に叫ぶ愛」が7月22日より公開開始。さらに劇場版『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」が8月5日より公開される。

そこで今回、本作のキャラクターデザインを務めたスーパーアニメーター・吉田健一氏にインタビューを実施。2007年から始まっていたというアニメ製作の舞台裏から、「『G-レコ』はアニメで終わってほしかった」というぶっちゃけトークまで、裏表のない“吉田劇場”をお届けする!

■初期のプロットはベルリとアイーダが「見た目も瓜二つの双子」

――『G-レコ』(『Gのレコンギスタ』)の制作に携わった経緯を教えてください。

【吉田健一】まず『エウレカ』(TVアニメ『交響詩篇エウレカセブン』)が2006年に終わって、その後に1本挟んで次の作品を考えていたときに、僕の中で「もう1回、富野さんとやりたいな」と思ったんです(2002年放送:富野由悠季監督作品『OVERMANキングゲイナー』にキャラクターデザイン・メカニカルデザインで参加)。

それで、私の方からサンライズさんに連絡したところ、プロデューサーの小形(尚弘)君から「企画をやるので話しませんか」という話がありました。富野監督から「アニメーション監督として吉田を呼びたい」という内容で、自分的にも「来た!!」と思って(笑)。それが2007年の春くらいだったと思います。

――2007年に話があって、実際にTV放送されたのが2014年です。かなり長い準備期間となりました。

【吉田健一】長かったですね(笑)。

――最初、『G-レコ』の構想はどのようなものでしたか?

【吉田健一】最初から主役であるベルリ(初期案ではベリル)とアイーダというキャラクター名はありました。で、ベルリとアイーダは見た目も瓜二つの双子という設定だったわけですが、そのときに「困ったな」と思いました。それは、プロットの中で弟のベルリは女性、お姉さんのアイーダは男性といった風に、お互いの「性別が間違えられる」という描かれ方をしていたからです。

――実現はしませんでしたが、現代における“性の多様性”を取り入れた先進的なプロットだと感じます。

【吉田健一】ただ、アニメとして描くのは凄く大変で。つまり、双子だから同じ顔じゃないですか。性別的なアイコン、体つきの記号だったりを封じられているんです。

――アニメ表現として非常に難しいと。

【吉田健一】困りましたね。ただ、監督の中でもいろいろと悩むことがあったみたいで、プロットを一緒に考えるライターの方も交えて「ああでもない、こうでもない」とやっていくなかで、設定がどんどん変わっていく時間経過がありました。

――なるほど。設定面で特に苦労した点は?

【吉田健一】僕の中では、本作をデザインするにあたってガンダムシリーズの「宇宙世紀」とは違う場所を描いている感じがありました。『G-レコ』は宇宙世紀の未来である「リギルド・センチュリー」ですから、宇宙服であったり、テクノロジーに絡んだ服装をどう描くかが重要になる。そのうえで、モビルスーツの扱いがどうなるかが定まっていないという大きな問題がありました。

――確かに、どんなモビルスーツが出てくるかでキャラクターの衣装や細かな設定は変わらざるを得ません。

【吉田健一】その後もいくつかの問題点を残したままプロットが二転三転することになって。「これはしばらくデザインしない方がいいな」と思ったのが正直なところでした。さっき言ったように、モビルスーツが決まらないとちょっと厳しいなと個人的には思っていて、モビルスーツのデザインもせっかく『∀(ターンエー)ガンダム』まで行っていたので、何か面白いことができないかなと。それで、自分としては安田(朗)さんがやってくれないかなと思って相談しに行きました。

――吉田さんと安田さんは『キングゲイナー』で一緒にお仕事をされています(※安田朗氏はメカニカルデザインで参加)。どんな反応だったのでしょうか。

【吉田健一】安田さんは「僕はガンダムを本気でやると、すべての仕事を投げ打たねばなりません」って言うんですよ。そんな断り方をするんだと思って(笑)。
※その後、なんやかんやあって安田朗氏は主人公機、G-セルフのデザインを担当

――(笑)。

【吉田健一】そんな感じで時代や設定、ガンダムのデザインをどうしていくかということで、3年くらい模索の時間がありました。

■「富野監督には次の作品に行ってほしかった!」その理由とは……?

――7年に及ぶ制作期間、そして2014年のTV放送から8年を経て、劇場版『G-レコ』の第4部「激闘に叫ぶ愛」が7月22日より公開されました。さらに完結編となる第5部「死線を越えて」が8月5日から公開されます。現在の率直な感想や心境はいかがでしょうか。

【吉田健一】率直な感想としては、「作品を終わらせる」のって難しいんだなと思いました。富野監督の中で「もっとちゃんとわかってもらいたい」「わかるように作りたい」という意識が、テレビ放送が終わった段階からあったようで、アニメの終了後に「もうちょっと付き合え」と富野監督に言われました。ただ、本音としてはテレビで終わらせてほしかったんです。

――それはなぜでしょうか。

【吉田健一】個人的には、『G-レコ』はテレビで終わって、富野監督には次の作品に行ってほしかったんです!「次の富野アニメが見たいな」と思ったんですよ、「次の富野作品はどんなのが出てくるかな?」って(熱弁)!!

――その気持ちもわかります!

【吉田健一】ただ、富野監督が「どうしても終われない」というんだったら、それも仕方がないなと最初は思ってたんですね。だけど、僕もそんなに若いわけじゃないですし、新しいこと、別の作品に挑戦したいという気持ちもあって。なので、映画に関しては途中で離脱することになりました。

――吉田さんが『G-レコ』の後に携わったアニメ『地球外少年少女』も、少年少女の冒険物語という形を取っています。いわゆるワクワク、ドキドキ感、児童文学的な要素もあって、楽しく拝見しました。

【吉田健一】ありがとうございます。

――さきほど、主役であるベルリとアイーダの設定が二転三転したとおっしゃっていましたが、ベルリとアイーダのキャラクターを着地させるまでにどんな苦労があったのでしょうか。

【吉田健一】『G-レコ』では、“お互いを認識してない姉弟”という設定になりました。それってどこかおとぎ話的ですよね。僕は、そういう“おとぎ話的な感覚”を「富野監督は好きなんだな」と思いました。

――“おとぎ話的な感覚”についてもう少し教えてください。

【吉田健一】どんな人も、子供の頃から児童文学的なものとか、童話のようなものに触れていると思います。つまり日本人の“共通体験”になっているわけです。富野監督は、その共通体験(=共通言語)を“込み入ったリアルな世界設定”の中に落とし込んでいる。つまりリアルな現実とおとぎ話を混ぜるという手法がわりと好きなのかな、と思っています。

――なるほど。共通体験は言い換えると“普遍性”とも言えます。

【吉田健一】「リアル」と「おとぎ話」というのは、僕の中でも絵的に取り入れていこうと感じていて、そのアプローチでデザインしていけば、きっかけや取っ掛かりがあるかなと僕自身は思いました。富野監督が意識的に落とし込んでいたかはわからないですけど、アイーダの人物描写を見たとき、お姉さんにワクワク、ドキドキするっていう少年のプリミティヴ(原始的・根源的)な気分を大事にしているのだと感じました。

――多くの少年は、年上の女性に憧れを抱いた“共通体験”があると思います。

【吉田健一】はい。視聴するみんなの経験を使いながらキャラクターを成長させていくという、ある種の成長譚というか。男の子は男性になるし、女の子が女性になっていく成長譚。「人が大人になっていく成長譚をやる」という話なんだと理解しました。そのための弟と姉、しかもお互いを「認識していない」「知らない」ことにしたのは、そのためなのだなと。

■富野監督が求める“新しいもの”に近づくための「戦い」であり「コンペティション」だった

――富野監督が演出される作品において、キャラ造形で大事にしているポイントはどこだとお考えですか?

【吉田健一】富野監督が大事にしているポイントは個人的には2つあると思います。まず“普遍的”であること。10年経とうが、10年前だろうが、視聴者にスッと受け入れてもらえる雰囲気を持っていることですね。もう1つはアイコン、キャラクターとしての華を求められているとも感じます。ただ、どちらかというと僕は華のあるキャラよりも、普通というか、普遍的なキャラの方が得意なんです。

――『G-レコ』が放送された2010年代は、“普遍性”と“華”を兼ね備えたキャラが多くみられました。

【吉田健一】当時だったら初音ミクがもう出始めている頃で、それこそ『魔法少女まどか☆マギカ』が出る前でした。アイドルや魔法といった普遍性のある要素と、キャラクター的な華が掛け合わさって人気が爆発していました。『まどマギ』は魔法少女というアイコンを使いながら、それをひっくり返すみたいな。

タイトルで「魔法少女ですよ」と言っているから、あの手が効くわけですが、普遍的でありながら華も持っている、というのを二転三転させて最終的に「どこに落とすのか」が大事なんだと思います。

――“普遍性”と“華”を求めるとのことですが、関わった富野監督作品でいうと?

【吉田健一】例えば『ブレンパワード』では、いのまた(むつみ)さんを起用したりする(キャラクターデザイン)。で、いのまたさんのキャラクターたちにちゃんと“生活”をさせていて、そういう部分が大事なんだなと。富野監督の作品って全部、「生活」とか「生きる」ってことがベースにある。ガンダムの宇宙世紀や、『聖戦士ダンバイン』のバイストン・ウェルも、「この世界ではみんなどうやって生きているの?」というのがちゃんと見えてくるんですよね。富野監督でなくても、大ヒットした作品にはそういう条件は大なり小なり揃っていますが、富野監督はその部分をスタッフにもちゃんと描かせようとするから、僕もそこをより強く意識しています。

――富野監督が「大事にしている部分」についてもう少し聞かせてください。

【吉田健一】富野監督は演出さんなので、作品を作るにあたって絵描きを選べますが、僕ら絵描きは自分の絵をコロコロと変えることはできません。記号性を変換させて、違う絵を描くことはできますけど、根本的に自分から出てくる絵って、あんまり大きく操作できないのが絵描きの限界だと思うんですね。でも、富野監督は絵描きじゃないからそこに関して“ノーリミット”なんです!「限界なき富野」なんですよ!!

――限界なき富野……素敵なフレーズですね!

【吉田健一】なので(笑)、羨ましいなと思ったりもします。

――富野監督の要望に応える……すごく大変なお仕事だと想像がつきます。

【吉田健一】監督がまったく違う画を求めていたとしても、「こうした絵や表現もあるよ」というのを翻訳して渡すのが僕の役割のような気がしています。というか勝手にそう思っていたんですよ、特に2000年代は(苦笑)。なので当時、富野監督の作品にあんまりなかったものを持ち込む、というのを意図的に試していました。

――なるほど。あえて監督の意向と違うものをぶつけたりもしたわけですね。

【吉田健一】監督からは「もっと新しいもの」や「もっとズレたもの」を求められることがありますが、僕のアプローチはそこに近づくためのプロセスでした。『G-レコ』という作品は、「僕が大事にしたことと監督が大事にしていることの距離がどのくらい詰まるのか」という“戦い”であり、“コンペティション”だったと思います。

■プロフィール
吉田健一
よしだけんいち/1969年生まれ/熊本県出身/スタジオジブリを退社後、フリーとして活躍するスーパーアニメーター。ジブリ作品をはじめ、『OVERMANキングゲイナー』『交響詩篇エウレカセブン』『Gのレコンギスタ』『地球外少年少女』ほか、数多くの人気アニメに携わっている日本を代表するレジェンド。

劇場版『Gのレコンギスタ Ⅳ』「激闘に叫ぶ愛」 公開中
劇場版『Gのレコンギスタ Ⅴ』「死線を越えて」 8月5日(金)公開

撮影:若狭健太郎
(C)創通・サンライズ
 
   

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