2016年のF1シーズンは、ダニール・クビアトとダニエル・リカルドがレッドブルのメインチームでドライブし、レッドブルと直接契約しているマックス・フェルスタッペンとカルロス・サインツJr.が姉妹チームであるトロロッソ(現RB)のシートふたつを占める形で幕を開けた。
しかし第5戦スペインGPを前に、レッドブルは大胆なドライバー入れ替えに踏み切り、クビアトと交代でフェルスタッペンをレッドブルに昇格させた。
この突然の交代劇は一部から批判を浴びたが、フェルスタッペンがメルセデスのルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグの同士討ちに乗じてレッドブルでの初レースでセンセーショナルな勝利を収めたことで、レッドブルの決断は正当化された。
こうした歴史が、MotoGPで再現されることはあるのだろうか? レッドブルが支援するKTMが今年のMotoGPで直面する状況をF1と照らし合わせることはできるだろう。
レッドブルと同じように、KTMもまたGASGAS・テック3というセカンダリーチームで期待の新星ペドロ・アコスタを育てている。そして8年前のF1と同様、彼のために他のライダーを降格させることは、KTMファミリーの内外から反発を招くだろう。
KTMのファクトリーチームは今年、ブラッド・ビンダーとジャック・ミラーという、共にMotoGP優勝経験のあるライダーを起用。GASGASでは若手のアウグスト・フェルナンデスがアコスタと組んでいる。
しかしシーズン開幕からわずか3戦で、ルーキーのアコスタのパフォーマンスはすでに、バレンティーノ・ロッシ、マルク・マルケス、ダニ・ペドロサ、ケーシー・ストーナーといったレジェンドライダーと比較されるようになっている。彼らも、最高峰クラスでのキャリアをスタートさせた当初から急成長を遂げたライダーたちだ。
アコスタはデビュー戦のカタールで9位入賞を果たすと、2戦目のポルトガルで3位表彰台を獲得。今月初めのアメリカGPでは、優勝したアプリリアのマーベリック・ビニャーレスに敗れて2位。スプリント・レースでも8位、7位、4位を獲得している。
3回のスプリントを含む6回のレースで、ビンダーを4回、ミラーを5回上回っているのだ。総合成績では、ビンダーに5ポイント差、ミラーに32ポイント差をつけてランキング4番手につけている。すでにKTM陣営のトップライダーとなっているのだ。
シーズン途中のKTM昇格はあるのか?
では、実際KTMはシーズン途中のライダー入れ替えを実施できるのだろうか?
レギュレーションに関しては、KTMがアコスタを昇格させ、ミラーかビンダーをGASGASに移籍させることを妨げるものは何も無い。
技術スタッフに関しても、GASGASのガレージでアコスタ側を管理しているのはファクトリーのスタッフなので、大きな問題にはならないだろう。彼らは赤色のポロシャツをオレンジに交換するだけでいい。
しかし商業的な都合や、個人的な関係を踏まえれば、KTMはアコスタに大きなチャンスを与えるのを、シーズン終了まで我慢することを余儀なくされるかもしれない。
それはアコスタをKTMに早期昇格させることによって、動揺する可能性がある人物が少なくともふたりいるからだ。
まずそのひとりはミラーだ。アコスタがKTMに移籍することになれば、彼がGASGASに降格する可能性が高いだろう。だがKTMのファクトリーチームもミラーのことを気に入っており、彼との2年契約は今季限りで満了となる。
つまり、もしスワップをするなら、ミラーとの関係を考慮し2025年まで待つ方がベターだと言えるだろう。
ライダー入れ替えによって関係悪化が懸念されるもうひとりの関係者は、テック3のオーナーであり、2006年からMotoGPチーム協会(IRTA)の会長を務めるエルヴェ・ポンシャラルだ。
彼はパドックで最も尊敬されている人物のひとりであり、誠実なチームのボスでもある。そのため、シーズンの途中でチームのラインアップを解体することは、特にスポンサーや商業的な約束の面で困難な状況を招く可能性がある。
とはいえ、MotoGPで最も重要なのは結果だ。感情に流されないレッドブルのメンタリティを理解することが重要だ。
KTMとGASGASのバイクを見比べてみれば、その一端が見えてくる。レッドブルはフェルナンデスとポル・エスパルガロを走らせていた2023年シーズン、GASGASのスポンサーを務めていなかった。
しかしアコスタの加入に伴い、今年からレッドブルがGASGASの主要なコマーシャル・パートナーとして復帰している。一方、契約金を実際に払っているKTMのロゴは、GASGASのマシンに掲出されていない。
歴史は繰り返すとはよく言ったものだ。次のMotoGP第4戦はスペインGP。ホルヘ・ロレンソは、ヘレスがペドロ・アコスタの最高峰クラス初優勝の舞台となるかもしれないと予想している。
今週末のスペインGPではライダー交代は起こらないだろうが、アコスタが優勝し、そのきっかけになる可能性は決して否定できないように思える。
新星アコスタは、”MotoGPのフェルスタッペン”になるか。シーズン途中のKTM昇格はある?
2024年4月27日