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「イタ、イタタタタ……。先生、痛くて仕方ありません」と激痛をこらえながら…

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「四つでいいんだよ。華音」

「わかったわ。お父さん」と華音は言う通りにした。 真一は、日本酒の栓を開け、そのままおちょこに注いだ。

「今日はみんなで乾杯しよう」

「なんの乾杯?」

「決まっているだろう。お義母さんの検査が何もないことを願ってだよ」

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と真一は訳の分からない理由を強引にくっつけた。

「乾杯」

四人は晩ご飯の料理の味に、

「美味しい、おいしい、おいしいわね」と舌鼓を打った。

家族そろって自宅での晩ご飯が、これが最後だと、そのとき誰も信じてはいなかった。

翌朝、門の外で真一は瑠璃に、

「万が一の話、言っちゃだめだよ」と念を押した。

華音は、いつもの時間に学校に行った。文子と瑠璃は早めの昼ご飯を食べ、高岡セントラル病院にタクシーで向かった。交通渋滞もなく三十分ほどで着いた。

午後一時になり、消化器内科の受付が始まった。瑠璃は文子の健康保険証と人間ドックの検査報告書を預かり、「私が受付してくるから」と言いながら行った。

瑠璃が母のところに戻ってきて、

「高瀬先生がすぐに診察してくださるそうだから、ナンバー五の診察室の前で待ってくださいとのことなので行きましょう」と言った。

「それじゃ、そうしましょう」

二人は、No.5診察室と書いてある部屋の前の長椅子に座った。ほどなくして扉が開き看護師が、

「一之瀬、一之瀬文子さん。お入りください」と呼んだ。

文子と瑠璃は同時に「ハイ」と応え、二人は診察室に入った。

「私、消化器内科の高瀬純二郎です。一之瀬文子さんですね」

「ハイ、一之瀬文子です」と言って椅子に座った。

「付き添いの方は?」

「申し遅れましたが、娘の早乙女瑠璃です」

「失礼しました。兄の友人の早乙女さんの奥様ですよね。どうぞ、椅子にお座りください」

「夫の早乙女が、いつもお兄様にはお世話になっております。昨日、夫がお兄様と相談させていただきましたところ、早速今日診察していただけるとのこと、本当に感謝いたしております」と瑠璃はお礼を述べ椅子に座った。

純二郎は、人間ドックの検査報告書の内容を見て、血圧を測り型どおり問診をしたあと、文子をベッドに横になるよう指示した。

純二郎は、仰向けになった文子のみぞおちに両手を置き、

「少し押しますけど、痛かったら言ってください」と言った。

「先生、少し痛みを感じますが、我慢できないほどではありません」と痛さ加減を説明した。

純二郎は文子に、

「それでは、うつぶせになってください」と言うと、そばにいた看護師が文子の身体を介助した。

純二郎は、文子の背中に両手を置き、触れる程度の力で上から下まで押した。

「先生、背中の中央の下あたりでしょうか、痛みを感じます。今まで、こんな丁寧に触診して貰った記憶がないせいでしょうか。疼痛って言ったらいいのかわかりませんが、経験したことのない痛みが走りました」と訴えた。

純二郎は文子の様子を見ながら、

「もう一度、胃の裏側にあたる部分を少し強く押しますので、我慢してください」と念押しした。

顔を横にしていた文子は純二郎に向かって、

「イタ、イタタタタ……。先生、痛くて仕方ありません」と激痛をこらえながら耐えているようだった。

「すみません、少し強く押し過ぎたかもしれません。一之瀬さん、これで触診は終わりましたので、ベッドから起きてください」と純二郎は何事もなかったかのような顔をして自分の席に戻った。

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