「戦術については話さない」
北朝鮮代表のシン・ヨンナム監督はにべもなかった。前半と後半でプレーぶりが変化したことを問われての答えだが、前後半で豹変するのはいわば北朝鮮代表の得意技である。
ミドルゾーンに4-4-2の守備ブロックを構え、前から奪いに行くことはほとんどない。早々に1点を食らったショックというより、最初から前半は抑え目にプレーすると決めていたのだろう。日本代表が後半に押されたのは、前半の45分間で相手に体力を温存させてしまったことが原因だ。相手に合わせてペースダウンしてしまった。
止めてパス、止めてパス。足下から足下。相手の守備の面前でつないでいるのでテンポが上がらない。現象面で言えば、もっとワンタッチパスがほしかった。
ワンタッチパスを有効に使えばもっとテンポアップできたと思うが、そのためにはラインの数を増やさなければならない。
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DF、MF、FWの3ラインがあるとすると、その中間に人を置いて段差を作る。ラインを1つスキップして縦パスを送ることで、飛ばされたラインにいる選手にワンタッチでボールを下げられる。2コマ進んで1コマ下がるような形になるが、そうすることでテンポを上げながらボールを前進させられる。
もちろん日本代表がこんな基礎中の基礎を知らないはずもなく、チームとしてもやろうとはしていた。
「ビルドアップから前線にどう配球するか。中央とサイドがあるけれども、回数も足りなかったしボールを失うことも多かった」(森保監督)
主にサイドでやっていたが、精度を欠いてパスが引っかかっていた。中央では13分に前田大然がクサビを受けて落とし、堂安が惜しいシュートを放った場面があったが、このときの前田のパスも浮いている。
精度を欠いたのはボールタッチのせいかもしれないが、回数とスムーズさに関してはポジショニングに問題があったと考えられる。日本代表の攻撃はなかなかギアが上がらないまま後半を迎えることになってしまった。
●ワールドカップの「宿題」。依然として浸透していないのは…
後半は北朝鮮代表が定番の豹変作戦。ワンタッチを組み込んだテンポアップという点では、むしろ北朝鮮代表のほうが意欲的だった。前半は自重気味だったハイプレスも仕掛けてきた。
この変化に面食らったのか、日本代表は押し込まれてしまう。相手はペナルティーエリア内に人数を投入し、少々強引でもゴール前へボールを入れる。それを跳ね返してカウンターを狙うという展開になっていった。
73分、森保監督は3人を交代。フォーメーションも3-4-3に変えた。相手の圧力に耐えられるように谷口彰悟を入れた3CBの防御体制を組み、シンプルに浅野拓磨のスピードを使ってカウンターを狙う。ドイツ代表戦などでもお馴染みのカウンター狙いだが、まさか北朝鮮代表を相手にこうなるとは思わなかった。
後半は攻め込まれたが、それでもトータルで決定機の数は日本代表が上回っている。そのうちのいくつかを決めていれば、もっと楽に試合を運べたはずなので、このチームとしては珍しくフィニッシュが課題として浮上したわけだが、元をたどれば前半のペースダウンが苦戦の原因だ。依然としてビルドアップの仕組みが浸透していない。
自分たちがボールを持ったときのプレーはカタールW杯の宿題だった。そこにまだ大きな進歩が見られておらず、この先のアジアの戦いも簡単ではなさそうに思わされる一戦となった。
(取材・文:西部謙司)
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