例えば、App Storeからダウンロードされたアプリやゲーム内のユーザー課金に対して、Appleはアプリを配信する企業から最大で30%の手数料を徴収しています。これはAppleが独自に定めたルールで、これまでは他社がアプリストアを開設することもAppleは認めていませんでした。
EUとしては、このような部分が独占的かつ優位な立場でビジネスを展開しているという判断なのです。
――では、iPhoneがサイドローディングを行なえるようになると、ユーザー的にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
法林 メーカーが独自のアプリストアを開設することで、Appleに支払う最大30%の手数料がなくなり、当然ユーザーがコンテンツに支払う金額も少なくなります。
例えば『A』というゲームが人気なら、それをアマゾンやNetflixのストアからも配信することが可能となり、ストアごとに課金アイテムを差別化し、それをユーザー自身が選んで購入することもできます。動画や音楽、書籍などのコンテンツは値下げして提供することも可能でしょう。
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アプリベンダーである企業としては、〝Appleを通さずにユーザーと直接やりとりしたい!〟というのが強くあり、EUが先行してそれを実現することになります。
iOSのNetflixアプリは ゲーム配信に対応!?
現在、ゲームの配信にも力を入れつつあるNetflix。そのiOS版アプリにはゲームのコーナーも用意されている。ただし、本アプリから【ゲームのダウンロード】を選択した場合は、App Storeアプリが起動してダウンロードが開始される疑似サイドローディングだ
――ユーザーと企業、どちらもメリットしかないし! デメリットとしてはどのような懸念点があるのでしょうか?
法林 Appleが主張するのはセキュリティ問題です。サイドローディングを認めることで個人情報を危険にさらすようなアプリが増え、セキュリティ面でユーザーにとってリスクが大きいと長年主張してきました。
EUの件では「サイドローディングで提供されるアプリもAppleが審査を行なう」という内容に落ち着き、この審査で数%の手数料を徴収することになります。
そして、Apple視点での最大のデメリットとなるのが〝Appleの収益減〟です。これまでの最大で30%という手数料ビジネスが成り立たなくなる可能性があり、これもサイドローディングを認めてこなかった要因のひとつでしょう。
――これはユーザー目線だと、Appleが端末代金に減収分を上乗せさえしなければ、サイドローディングは容認ですね。ではiPhoneのライバルである、GoogleのAndroid陣営のアプリストア事情はどうなっているのですか?
法林 Androidに関してはスマホメーカー各社やアマゾンのアプリストア、近年ではNetflixもゲームの配信をスタートしています。つまりGoogleの独占的なストアビジネスとはなっていません。ただ、日本国内ではiPhoneユーザーが多く、そのような事情はあまり知られていないのが現状です。
AndroidはGoogle以外のアプリストアが充実!! 写真上からサムスンの「Galaxy Store」、アマゾンの「Amazon アプリストア」。Androidでは標準でGoogleの「Google Play」というアプリストアがインストールされているが、外部のアプリストアを利用することも可能。スマホやゲームメーカーのアプリストアなどもあり、ユーザーにとって選択肢が多いのが特徴
――ところで、App StoreのサイドローディングはEU以外でも行なわれる可能性はあるのでしょうか?
法林 大いにあります。特に日本ではここ数年、公正取引委員会とデジタル庁がApp Storeの手数料、アプリストアの独占について問題視しており、今年中にもサイドローディングを義務づける法案が提出される予定です。
日本の場合は、AppleやGoogleのアプリストアにアプリベンダーである企業が依存することで、ストアに〝仕様変更〟があった場合、企業側の開発コストの負担が大きく増えることなども問題視されています。
このような法整備に関してはApple、Googleの本国であるアメリカよりも、EUや日本のほうが先行しているのが現状です。
日本でもストア開放の大きな動きが!?
日本の公正取引委員会は昨年から「モバイルOS等に関する実態調査報告書」としてApp StoreやGoogle Playが独占禁止法上で問題となる懸念がある報告書を発表。今年中には、日本でのApp Store以外のストアを開放する法案が提出される予定だ
――ユーザーにとってお得要素が増えるならサイドローディングは大歓迎ですけど、今年登場予定の新型iPhoneの値上げだけは勘弁してください!
取材・文/直井裕太