それでも、2年ほどはかつての自宅や近隣のことをよく覚えていたという。
「当時住んでた自宅に関しては、2年くらいは目をつぶってドローンを飛ばすみたいに、自宅の中を頭の中で歩くことができました。
なくなった自宅のどこに何があるのかも、その当時把握できてたものは2年ぐらい頭に入っていました。自分の家の間取りを書けと言われたら、頭にありました。
自分の家を中心に半径100メートルくらいだったら、ある程度地図みたいに書くこともできていたはずなんです。
でもすべて更地になったところにかさ上げがされて新しい道がつくられてしまうと、現場に行くとどこだか分かりません。
目を閉じて頭の中でイメージしようとしてもそれもだんだんできなくなっていくんです」
山内さんが震災で失った「家」とは、家屋のことではない。人、街、暮らしなど、家を取り巻く全てだ。失われたそれらは、どれだけ復興が進もうと、元に戻らない。家を作り直したからと言って、よみがえるわけではない。
だからこそ、「書く」ことが大切なのだという。
「すべて灰になってなくなってしまったって、今はみんな絶望してますけれど、目を閉じれば見えるでしょということなんです」
「それをちゃんと、いまのうちに記録を取っておく。それは時間が経つとできなくなっちゃうんで、それをやってほしいなと思います」(山内さん)
モノが失われてしまったとしても、記憶を残そうとする試みは、今ならまだ間に合う。
忘れたくない思い出を書いておくこと、壊れてしまってもかけがえのないモノを手元に残しておくこと。そうすることで、かつての日常を自分の内に留めておくことが出来るのだ。