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不滅の記録を破る!? 義足の超人の悩みを解決した用具の技術

パラサポWEB

1991年8月30日、夏の日の世界陸上東京大会で生まれた大記録の瞬間は、今でも名シーンとして語り継がれている。

陸上競技・男子走り幅跳びの当時の世界記録は、ボブ・ビーモン(アメリカ)が1968年のメキシコシティー五輪で跳んだ8m90だった。メキシコシティーは2000m以上の高地。気圧が低く、空気抵抗が小さい高地で出した記録であるため、平地でこの記録を破るのば難しいと思われていた。それを破ったのが、走り幅跳びで65連勝中だった カール・ルイス(アメリカ)だ。+2.9mの追い風参考記録ではあったが、8m91のジャンプを披露して、23年間守られてきた世界記録を超えたのだ。

ところが、それだけでは終わらなかった。ルイスのジャンプの後、マイク・パウエル(アメリカ)が5回目の跳躍でルイスを超える8m95を跳んだのだ。この日から30年以上が過ぎたが、今でもパウエルの記録は誰にも破られていない。

大記録樹立を期待される超人

不滅の記録を破るアスリートは誰なのか──。陸上ファンなら誰でも気になるテーマである。そんな大記録を破るアスリートとして注目されているのが、義足のジャンパーであるマルクス・レーム(ドイツ)だ。レームは、14歳のときにウェイクボードでの事故が原因で右足を失う。20歳で本格的に陸上競技を始めると、22歳のときに出場した世界パラ陸上のクライストチャーチ大会 (ニュージーランド)で、男子走り幅跳びで初優勝し頭角を現した。以来、コロナ禍の期間を除いて2年ごとに開かれている世界パラ陸上で6連覇、パラリンピックはロンドン大会から3連覇中だ。

パリで開催された世界パラ陸上選手権で優勝したレーム
photo by X-1

そのレームが2023年6月に8m72を記録し、自身が持つ世界記録を更新した。パウエルが8m95を飛ぶ前の自己最高記録が8m66であったことを考えると、いよいよ人類の限界が射程圏内に入ったといえる。しかも、レームはこのときの跳躍について「あまり良いジャンプではなかった。着地のタイミングを間違えてしまったんだ」と語っている。世界記録の更新は、もはや到達点ではない。次の目標は決まっている。8m95を超えることだ。

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そんなレームにも、過去には悩みがあった。走り幅跳びの選手は、短距離の選手が使う「チーター」と呼ばれるブレード型の義足を使用していた。ところが、走り幅跳びではジャンプの瞬間に義足に強い重力がかかるので、壊れることが多かった。全力疾走中に義足が突然壊れると、ケガにつながりかねない。義足のジャンパーに共通した悩みだった。

オズール社の競技用ブレード製作チーム。中央がルコントさん
photo by Takao Ochi

アイスランドのメーカーが後押し

その問題を解決するために立ち上がったのが、アイスランドの義足メーカー「オズール」だ。同社のクリストファー・ルコントさんは、オズールで20年以上にわたって競技用のブレード製作に関わってきて、今はテクニカル部門の最高責任者を務めている。ルコントさんはこう話す。

「走り幅跳びで大切なのは、助走で早く走ることと、ジャンプをする時の最後の一歩です。ジャンプをするときに、義足には5000ニュートン(約510kg)の力がかかります。ただ、最後の一歩にフォーカスしすぎると、ブレードが固すぎて助走のスピードが遅くなってしまう。助走のスピードを保ちつつ、最後の一歩で力をちゃんと伝え、長い距離を跳べるようにするために、走り幅跳びに特化した特徴的なデザインが生まれました」

同社は1971年にオズール・クリスチャンソンによって創設され、切断者の義足の性能を向上させるソケット技術を生み出した。切断面の足と義足をつなぐソケット部分がピッタリと合うと、義足ユーザーは歩くときの痛みを感じず、運動能力が向上する。オズールが開発したソケット技術は、今では世界中で使用されている。

パラ陸上の選手が使用する「チーター」と呼ばれる板バネ状の義足が発売されたのは、1984年。ソウル1988パラリンピックの頃には多くのアスリートが使用するようになり、100mの優勝タイムは前回大会から1.4秒近く記録を縮めた。その義足を、さらに高度化させたのもオズールだった。走り幅跳びでも、競技用用具としての高い性能と耐久性を両立させ、アスリートが義足が壊れることを心配することなくジャンプできる環境を作り上げた。

アイスランドのレイキャビクにあるオズール社の工場
photo by Takao Ochi

アイスランドの首都レイキャビクにあるオズールの工場には、競技用義足の性能を向上させるために世界中から人材が集まる。義足の原材料となる繊維部分には、日本の製品も多く使われているという。

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