2019年のワールドカップ以降、ファンや競技人口が増えているラグビーは、子どもの習い事としても近年注目を集めている。一方で、激しいコンタクトスポーツなだけに、怪我や体格差による向き不向きなどを懸念する保護者も多いようだ。そこで、習い事としてのラグビーのアレコレを、元日本代表の主将で、小中学生を対象にしたラグビーアカデミーなどを運営する「ブリングアップ・アスレチックソサエティー(BU)」の代表取締役・菊谷崇氏に伺った。
教育的な要素が豊富!ラグビーだからこそ得られるもの
ラグビー元日本代表の主将で、現在は「ブリングアップ・アスレチックソサエティー(BU)」の代表取締役を務める菊谷崇氏ラグビーといえば屈強な選手たちが体をぶつけ合う激しいスポーツというイメージがある。それと同時に、近年では頭脳戦であることも注目され『ラグビーは頭脳が9割』などといった書籍も出ている。
「ラグビーは、1チーム15人、相手チームもあわせると30人と、1つの試合の競技人数が最も多いスポーツです。しかもボールを前に投げてはいけないというルールがあるため、ボールを持っている人ではなく、残り14人のボールを持っていない仲間たちが瞬時にコミュニケーションを取ってどうやってボールを繋いでいくかを考えるわけです。ですから状況把握力、判断力、決断力など、さまざまな能力が鍛えられる。その他にもラグビーは教育的な要素が非常に多いスポーツだと言えると思います」(菊谷氏、以下同)
実際、ラグビーのチームプレーといった特性を生かし、企業研修や新人研修に活用している企業もあるそうだ。またラグビーは主体性を育むのにも適しているという。
選手の主体性が生んだ奇跡の逆転
photo by Shutterstock「野球やバスケットボールなどアメリカのスポーツは、どちらかというとヘッドコーチが全てを差配します。たとえば野球では“今バントしなさい”など、選手に監督やコーチが指示を与えることができます。ところがヨーロッパのスポーツには、あまりそういった文化がありません。サッカーもラグビーも、試合中に監督が指示をすることはほとんどない。サッカーは監督がグラウンドにいますが、ラグビーはスタンドにいます。監督たちは試合当日までに自分たちがやりたいラグビーはこうです、こういう試合をしますという情報を与えて練習メニューを作りますが、結局本番で状況判断をするのは監督ではなく選手です。自分たちに判断が任されているっていうのもラグビーの醍醐味のひとつですね」
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そんなラグビー特有の他のスポーツにはない特徴のひとつを象徴する例として菊谷氏が挙げてくれたのが、「ブライトンの奇跡」としてラグビーファンの間で今も語り継がれている試合だ。
photo by Shutterstock2015年、イングランドのブライトンで行われたラグビーワールドカップでのこと。過去2回の優勝経験を持つ南アフリカ共和国と対戦した日本代表は、後半戦の試合終了間際、29ー32という絶体絶命のピンチに陥っていた。そこで、ペナルティキックのチャンスを得た日本代表にエディー・ジョーンズヘッドコーチが出した指示は、成功すれば3点入るペナルティゴールで「同点を狙え」というもの。しかし、当時のキャプテン、リーチ・マイケル選手は決まれば5点入って逆転の可能性があるスクラムを選択したのだ。結果、見事に奇跡の逆転を果たしたのだった。
「エディさんはコーチングボックスで怒って、着けていた無線のヘッドセットを床に叩きつけたそうです(笑)。それだけ聞くと、エディさんとリーチは仲が悪いんだなって思うかもしれませんが、実はめちゃめちゃ仲がいい。こうした選手の主体性が尊重されるのもラグビーの魅力、面白さだなと思いますね」
ラグビーは何歳から始めることができる?
Bring Upラグビーアカデミーでは小学校3年生からラグビーを学ぶことができるラグビーから学べることが多いことは分かったものの、テレビなどで見るラグビーの試合は迫力満点で、その分、選手が怪我をするケースも多い気がする。我が子が小さいうちから、そんな危険なスポーツをさせるのは不安だという保護者も少なくないだろう。いったい、何歳ごろからラグビーを始めることができるのだろうか?
「元日本代表で最多キャップホルダーの大野均さんは、大学からラグビーを始めたそうです。それは極端なケースだとしても、ラグビーは始めるのが早ければいいというわけではありません。たとえばフィギュアスケートや体操は、体が成長しきる前のしなやかさを担保できる若い頃から始めるのがいいとされます。でもラグビーはどちらかというと、体がある程度成長し終わった後に活躍できるコンタクトスポーツなので、高校生から始めても遅くはありません」
また、ラグビーは野球やサッカーと違い、まだまだルールが変動しているスポーツのため、今からガチガチに技術をたたき込む必要はないと菊谷氏は考えている。直近では、ワールドラグビーの執行委員会が今年3月、タックルの高さを胸骨の下に下げるという試験的ルールの導入を各加盟協会に対して推奨。これを受け、日本ラグビーフットボール協会も今年9月1日から、リーグワンを除くミニ、ジュニア、高校、大学、社会人、クラブの全カテゴリーでの適用を決めた。