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ラグビー選手、負け確定残り2分のパフォーマンスが変わった理由

パラサポWEB

近年オリンピックやWBCなど、スポーツの大きな大会で元気をもらったという声を聞く。アスリートが真摯にスポーツに取り組む姿は確かに見る者の胸を熱くする。そんな中、2022年9月、現役のラグビー選手、東京サントリーサンゴリアス所属の木村貴大選手と、日野レッドドルフィンズ所属の木村勇大選手のふたりが、「アスリートの力で社会を元気にする」をミッションとする一般社団法人Sports Caresを設立した。Sports Caresでは、どんな活動をして、何を目指しているのか? おふたりにお話を伺った。

「アスリートはヒーロー」療養中の子どもたちの反応に号泣した日

――Sports Caresは設立以降、フードパントリーや子ども食堂への協力、特別支援学校でのラグビー指導、日本骨髄バンクへのドナー登録を啓蒙するオリジナルシリコンバンドの製作など、さまざまな活動を行っているそうですが、なぜ現役のアスリートでありながら社団法人を立ち上げてまで、このような活動をしようと思ったのでしょうか?

一般社団法人Sports Cares 代表理事を務める、日野レッドドルフィンズの木村勇大選手。忙しい中、オンラインで取材を受けてくれた

木村勇大選手(以下、たけひろさん):3年ほど前、「A-map(アポロプロジェクト運営)」という、アスリートのセカンドキャリアを考えるマインドセットプログラムに参加して、僕たちはそこで出会いました。プログラムでは、1年間を通して自分達はなぜラグビーをやっているのか、社会に何をどう還元していきたいのかといったことを考えていくんですが、ふたりで、アスリートの価値を使って子どもたちや困窮世帯などの社会的弱者と言われる人たちのために、何かできないかということを話すようになりました。そこでまず、信用を得るために社団法人を立ち上げようという話になったんです。

――おふたりはSports Caresを作る前から、ボランティア活動のようなことをされていたんですよね? その時の経験も影響していますか?

一般社団法人 Sports Cares 代表理事を務める、東京サントリーサンゴリアスの木村貴大選手。練習の合間を縫ってオンラインで取材に応えてくれた

木村貴大選手(以下、キムタカさん):そうですね。僕の場合、ラグビー選手になって1年目から幼稚園や小学校、長期療養をしている子どもたちがいる施設などに行って、ラグビーを体験してもらうという活動をしていました。その最初の年、地元に帰ってラグビー教室を開催したのですが、僕はまだ1年目の知名度のない選手だというのに、子どもたちがヒーロー扱いしてくれたんです(笑)。ラグビー選手だというだけで、彼らはキラキラした目で僕を見てくれて、あの子どもたちの表情はいまでも鮮明に覚えています。その時に、スポーツ選手には誰かを元気にしたり、勇気づけたりできる影響力があるということを実感しました。

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以前、僕の地元の北九州にある病院の白血病の子どもたちが入院している小児病棟へ行ったときの話です。ラグビーボールを持っていってみんなでパスをしようと子どもたちに提案したんです。最初は照れたり、怖がったりしていた子たちも、だんだんパスをしてくれるようになったんですが、ひとりの少年だけ最後まで、プイッとそっぽを向いていました。その後にいろんな病棟を回ったんですが、その少年のことが気になって、最後に彼の個室を訪ねたところ、彼がラグビーボールを持ってお母さんとテレビ電話で話をしていました。『ラグビー選手が来たんだよ!』ってメチャクチャ興奮して話してるんですよ。実はその子は、家の近くに大きな病院がないため、まだ小さいのに親元を離れて入院していたんですね。その子がすごく嬉しそうに話しているのを見て、僕は号泣してしまったんです。今もこの話をするたびに体が震えるんですが、その記憶がずっと残っていて、僕らが行くだけで元気づけられると言ったらおこがましいかもしれませんが、スポーツ選手には、そういう力があると思うんです。

オレンジ色の靴紐で自身初の1試合2トライを達成

子ども食堂を訪問したふたり

――おふたりは現役選手なので、練習やご自身の体づくりなどでお忙しいと思います。そんな中で、社会活動を続ける理由と、それを続けているモチベーションというのは、どこにあるんでしょうか?

キムタカさん:よく忙しそうだねとか、大変そうだねと言われるんですが、そもそもSports Caresの活動を大変とか、しなくちゃいけないことだとは思っていないんです。僕らが何かを提供しているというより、僕らが得るものがあるんです。たとえば、先程の小児病棟を訪れたときもそうですが、想像をはるかに超えたプラスアルファの経験をさせてもらったりします。元気を僕たちの方がもらって元気になります。なので僕たちはしたいからする。好きでやっているんです(笑)。

たけひろさん:僕も同じです。たとえばラグビーしかやっていないと競技にしか目が行かなくなってしまうことってあると思うんです。でも、いろんな社会活動をして社会との接点をたくさん持つことで、ラグビーは生活の一部であって、それが全てではないと思えるようになった。そう思えることで、気持ちにブレがなくなったというか、メンタルに左右されない安定したパフォーマンスができるようになりました。僕は骨髄バンクのドナー登録を啓蒙するために、それを象徴するオレンジ色の靴紐をつけて試合に出ているんですが、初めてオレンジ色の靴紐をつけた試合で2トライできたんです。僕はそれまでにラグビー人生で、数えるくらいしかトライを取ったことがないのに、1試合で2トライです。オレンジの靴紐をしたことで、気合いも入りましたし、僕が力を貰ったなと感じました。

骨髄バンクのシンボルカラー、オレンジのアイテムを身につけて試合に臨むふたり

負け確定の残り2分のパフォーマンスが変わった

キムタカさん:プロの選手は勝つか負けるかの他に、試合に出られるのかとか、今年もチームに残れるのかといったことがあって、それには1人で立ち向かわないといけないんですよね。でも、このような活動をさせてもらって、子どもたちが応援してくれているというのを肌で感じると、試合中に彼らの顔が浮かぶんです。例えばラグビーだったら40対5とか、サッカーで言ったら5対0、残り時間は2分、負けは確定しているという場面で、じゃあ応援してくれている人たちに、どういう姿勢を見せるか。負けは確実としても最後まで全力で走ろうとか、全力でディフェンスしようとか、そう思えるのは応援してくれる人を近くに感じられるから。だからSports Caresの活動は間違いなくパフォーマンスにいい影響があると言い切れます。

「楽しい」や「カッコいい」から始まる社会貢献があってもいい?

「東京雪祭」で子どもたちと触れ合いながら、骨髄バンクへの登録を促進

――日本ではまだ、有名人がこういった社会貢献活動をすると、パフォーマンスだとか偽善だとかいう心ない声が聞かれることがあります。一般の人の中にもそうした声が怖くて、気持ちはあっても行動に移せない人もいるようですが、そういった現状をどう思われますか?

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