「スーパー戦隊 Official Mook 20世紀 1977 ジャッカー電撃隊 [雑誌] (講談社シリーズMOOK) 」(講談社)

【画像】え…っオトナ向けな恋愛模様を? これがスペードエースと恋仲になったハートクインのカレン水木です(3枚)

よりリアルな表現を目指したことが裏目に?

 絶大な人気を誇った1975年『秘密戦隊ゴレンジャー』に続くスーパー戦隊シリーズ第2作、1977年の 『ジャッカー電撃隊』は、「ゴレンジャーとは一味違う作品を」というスタッフの意気込みとは裏腹に35回で打ち切りになりました。シリーズは一旦終了し、土曜7時半のゴールデンタイムの放送枠を失ってしまいます。不振の理由は、ゴレンジャーとは真逆の本格路線に舵を切ったことにあったようです。

 まず不振の理由の第一は、ジャッカー4人が全員サイボーグだということです。

 ゴレンジャーは全員私たちと同じ普通の人間で、そこに親近感があり「もしかしたら僕らもゴレンジャーになれるかもしれない」という夢がありました。最初から常人とは違う『仮面ライダー』のような悲壮感がありません。

 反対にジャッカーは不慮の事故での死亡や大怪我など、サイボーグ化の理由に最初から悲壮感が漂っていました。『仮面ライダー』や『サイボーグ009』の原作者で知られる、石ノ森章太郎先生本来の持ち味が色濃く反映されています。名前が「クライム」の悪の組織も現実の犯罪に近い物騒な悪事を働いており、弱者が犠牲になってしまうやりきれない結末も多かったのです。土曜7時半に家族全員で見る番組にしては、内容が重すぎました。

 また、『ゴレンジャー』は恋愛要素がありませんでしたが、『ジャッカー』はリーダーのスペードエースの桜井五郎と、紅一点ハートクインのカレン水木との恋愛模様が描かれてまいます。実写版『サイボーグ009』として、009の島村ジョーと003のフランソワーズのような関係になることが想定されていたようです。

 ジャッカー加入前に桜井に命を救われたカレンは、そのときから彼に想いを寄せていました。そして、第12話で桜井が記憶喪失になったとき、カレンは危険を承知で体を張って桜井を元通りにします。やがて、ふたりはチームも認める相思相愛の関係になるのでした。

 ふたりの恋模様は対象年齢の子は理解できないでしょうし、一緒に見ている親も戸惑ったでしょう。桜井を演じた丹波義隆さんも『スーパー戦隊 Official Mook 20世紀 1977 ジャッカー電撃隊』(講談社)のインタビューで、「さすがに子供には理解できませんよね」とコメントしています。

 他にも、変身が「まどろっこしい」ことも理由に挙げられるでしょう。「ゴレンジャー」はくるっと横に回っているうちに変身できるのに、ジャッカーたちはいちいち強化カプセルに入らないと変身できないのです。

『仮面ライダー』ならポーズをすれば変身できますし、『サイボーグ009』だと変身しなくても能力を発揮できます。ジャッカーは敵と戦っていても途中で中断して、ジェット機スカイエースにある強化カプセルに入らないといけません。ドラマの流れが中断されて、もどかしいものがありました。

 そのためか、この変身描写は後半はほとんど省略されています。それまでのヒーローを見てきた子供たちは、強化カプセルに入らないと変身できないジャッカーに弱さを感じてしまったのかもしれません。



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ビッグワン番場宗介の登場が番組を根底から変えた

 子供たちの戸惑いは視聴率に反映され、番組は放送途中で「てこ入れ」を余儀なくされます。刑事ドラマさながらのハードな展開から、「デビルボール」「デビルバッター」など怪人もコミカルになり、子供を絡めた『ゴレンジャー』的なストーリーにシフトしていきました。

 第9話からは戦いの最中に「ジャンプ一閃 赤い風!うなって踊る 核の鞭!」などメンバーが口上を言うようになり、さらに当初から登場していたハムスターが第15話から突然しゃべり出します。細かな改善の後の決定的な変化が、第23話から行動隊長「ビッグワン」こと番場壮吉の登場です。『秘密戦隊ゴレンジャー』でアオレンジャーの新命明を演じて人気だった、宮内洋さんが再登板しました。

 ビッグワンはメンバーのなかで唯一生身の人間なのになぜか4人よりも強く、しかも変装上手でユーモアもたっぷりで、より4人が弱く見えてしまい存在感も薄くなってしまいます。

 必殺技も敵ひとりに対して4人が一斉に取り囲む「ジャッカーコバック」から、「ビッグボンバー」に変わります。この技は、ジャッカー4人がパーツを持ち寄って大砲を完成させ、弾丸をビッグワンが装填し、敵に発射するというものです。

 同時にコメディメーカーである姫玉三郎も新たに登場し、まるで別の番組になったかのように明るい娯楽作に変貌を遂げました。

 しかし、さまざまなてこ入れも手遅れだったのか、番組は35話で終了し、スーパー戦隊は一時中断となってしまいました。そんな本作は『バトルフィーバーJ』などの後の戦隊シリーズのように、巨大ロボを登場させメインスポンサーであるおもちゃ会社の売上に貢献する仕組みがあれば、そこまで視聴率を気にせずに番組を継続できていたかもしれません。そうでなくても、当初の制作意図のシリアスな内容のまま完遂できていたら、どんな評価になっていたのでしょうか。