ロイヤルエンフィールドはイギリスで生まれ現在はその本拠地がインドへと移ったが、創業から100年を超す歴史を紡ぐブランドである。バーチカルシリンダーを採用した単気筒、並列二気筒を軸にトラッドでモダンクラシックな意匠のモデルで、時流にものり世界各地で大きな存在感を示している。日本でも次第に知名度、人気を集めつつある今、春のニューモデル、ブリット350の発表にあわせて、ロイヤルエンフィールドが最初に送り出した市販車を自ら当時の資料を基に製造した「プロジェクトオリジン」のお披露目も行われたのだ。

 
 250㏄から750㏄クラスまでの排気量カテゴリーで世界的に大きなシェアを持つインドのロイヤルエンフィールド。19世紀に始まるそのブランドの歴史は現存する二輪メーカーの中でも屈指のものであり、イギリスからインドへと渡ったこのブランドが創業以来継続してバイクを開発、生産し販売し続けていること。復刻する歴史的ブランドも少なくない中、これは正真正銘のクラシックブランドなのだ。

 そんなロイヤルエンフィールドのチーフコマーシャルオフィサーであるヤディシン・クレディア、アジア太平洋市場のディレクター・アヌージ・ドゥア、プロジェクトオリジンを牽引した同社のヒストリアンであるゴードン・メイの3名が東京モーターサイクルショーの開催に合わせて来日。実際に復刻した初号機とブリット350をお披露目した。
 

左からヤディシン・クレディア、ゴードン・メイ、アヌージ・ドゥアの3名。純正アパレルに身を包み「スーツを着て皆さんとお話をするより、すぐに走り出せる服、我々のライディングアパレルのほうがアクティブな我々のパッションが伝わりますよね」とのこと。ゴードン・メイが跨がるのがプロジェクトオリジンそのもの。

 
 興味深いのはこのプロジェクト・オリジン。1901年に市販したこのモデルはレストアしたものでない。全てを当時の資料を基に復刻したものだ。創業120年に向けこの復刻事業を率いたヒストリアン、ゴードン・メイは「当時の資料を集めるのは勿論だが、設計図などは残っていなかった。だからプロジェクターで当時の写真を壁に投影し、26インチだと解っているホイールサイズを起点に各部のサイズを計り新たに設計図に落とし込んでいったんだ」
 とのことで、当時のまま100%そのまま、という精度ではないようだがこれはこれで難事業だったという。それでもあちこちに当時モノの部品を調達しながら進めたという。そうした部品が集まるのもスゴイことだが、見つかった部品から当時の構造を理解し、当時のモノに近づけるというクリエイティブな発明に近い部分もあったようだ。
 
 

プロジェクトオリジンで復刻されたロイヤルエンフィールド社最初の一台。エンジンをステアリングヘッド前に搭載して、ベルトで後輪を駆動する。駆動ベルトのテンションを掛けることで駆動の断続をした。ブレーキはあるがその効きは現在のレベルでは貧弱だと言う。「なぜなら当時はさほど慌てて停まる必要が無かったからではないか」とメイ。

 

フレームにあるこの箱の中にはバッテリーと点火装置が収まり、燃料タンクも兼ねている。
ブルックス製の皮サドル。自転車好きには有名なブランドだがこれは当時ものを見つけ取り付けたという。

 

シルバーのクランクケースと黒のシリンダー。パイプはオイルライン。オイルは手動圧送式で分離給油的な潤滑方式。潤滑オイルは補充しながら走行する。真鍮色のケース部にあるキャブレター。そこからシルバーのパイプを通ってシリンダーヘッドへと混合気が運ばれる。4ストエンジンながら、インテークバルブは負圧で作動、排気バルブはメカニカル式。クラッチはなく運転は難しいそうだ。始動はペダルで後輪を回しエンジンを始動するもの。
上部にあるハンドルでオイルを圧送する文字通りのオイルポンプ。

 

復刻版にはVベルトが採用されるが、当時は皮を使ったベルトだったそうだ。真鍮で造られた燃料タンクとベルトの向こうに見えるのは燃料タップ。
フレーム製作はロイヤルエンフィールドの傘下でもあるフレームコンストラクターとしてお馴染みのハリスが担当した。フェンダーなども史実に則った造り。ベルトの掛かるプーリーとブレーキドラムも当時を再現。ペダルとクランク周りは当時ものを見つけて装備したという。

 

シリンダーヘッドにある真鍮のバルブは、始動時にガソリンをスポイトで燃焼室に流し込むためのもの。

 

新型ブリット350。モダンクラシックなスタイルは伝統のレシピでまとまりのよいディテールを見せる。世界戦略車でもあり環境性能はもちろんユーロ5をパス。ABSも装備される。重厚感のあるヘッドライト、ハンドル周りなどおいそれとは作れない風格を持っていた。価格は69万4100円から70万1800円までと輸入車としてはリーズナブル。

 

この日のハイライトはプロジェクトオリジンのエンジンを始動し、走るという実働展示。そのエンジン音はリズミカルな単気筒サウンドそのもので、ロングストロークでトルクフル、活発な乗り物に見えた。キャブレターにスロットルバルブのような調整装置はなく、基本全開。ゆったりと増速しエンジン回転が上がり続ける。なるほど、速度調整、発進停止が多い東京の市街地には向かないが、120年前のモーターリングが目に浮かんだ。
その日、午前9時頃都内でも緊急地震速報が流れる地震があった。「驚きましたね。でもこの会場のように築100年を超す邸宅(会場となったのは広尾にある築100年を超す旧石丸邸)がそうした自然災害を乗り越えてきたように、我々の会社も影響を受けないような強い構造を持っているからこそ生き残れたと言えるでしょう」冒頭、ロイヤルエンフィールドのマーケティングのボス、ヤディシン・クレディアはそう語りかけた。

 

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