<TOP画像:メスの聖エティエンヌ大聖堂 ©Kanmuri Yuki>

フランスには、特に観光地として名が知れていなくても、十分魅力的な町が多くあります。フランス北東に位置するメス(Metz)もそんな町のひとつです。今日は、そのメスの町の見どころの中から、最大の名所である大聖堂とそのほかの教会のステンドグラスを紹介しましょう。

目次

ちょっぴりドイツの残り香
太陽の光を思わせる黄色
聖エティエンヌ大聖堂
光と色が踊るステンドグラス
大聖堂だけではないステンドグラス
その他の見どころ

ちょっぴりドイツの残り香

メスは、グランテスト地方のうちロレーヌと呼ばれる地域にあるモゼル県の県庁所在地です。とはいえ人口は約12万人程度で、都市機能が備わりながらも喧騒からは程遠い手ごろなサイズの町です。ルクセンブルグやベルギー、ドイツとの国境に近く、歴史の中では幾度となく統治者が入れ替わり、現在のドイツの支配下にあった時期も長くありました。その当時の建造物も残っているため、フランスの別地域から訪れると、どこか内陸の別な国に迷い込んだような気分になることも。



<ドイツ門 ©Kanmuri Yuki>

メス市の中心はフランス国鉄の駅から徒歩で回れる距離にあるので、観光もしやすい町と言えます。

太陽の光を思わせる黄色

ところでメスの主な建造物の多くは、この地方で採石されたジョーモン石で作られています。聖エティエンヌ大聖堂(カテドラル)ももちろん例外ではありません。ジョーモン石の色は薄い黄色。黄色はフランスでは太陽の色でもあります。



<大聖堂とマルシェの建物 ©Kanmuri Yuki>

大聖堂も面しているアルム広場は、ジョーモン石で作られた建物に囲まれているため、広場を前にすると、周りがぱっと明るく輝いているように感じます。上の写真はお天気がいまいちな時に撮りましたが、それでも明るく感じました。土地の人の話によれば、晴天の日没時など、太陽の光を受けたジョーモン石の輝きは格別な美しさだそうです。

聖エティエンヌ大聖堂



<聖エティエンヌ大聖堂正面ファサード ©Kanmuri Yuki>

前述のとおりメスの大聖堂は、まずその黄色がかった外観の輝きが特徴的です。着工は13世紀でしたが、さまざま理由で何度も建設が中断され、完成したのは16世紀になってからのことでした。「ゴシック芸術の集大成だ」とする声もあるこの大聖堂、ファサードには無数の細かい彫刻が施され外から見るだけでも美しい建築物です。



<大聖堂内部 ©Kanmuri Yuki>

けれどもやはり圧巻なのは内部。まず中に入って最初に驚くのは、そのアーチ形天井までの高さでしょう。41m強とフランスでも3番目の高さを誇り、実際、見上げるだけでめまいがしそうでした。

光と色が踊るステンドグラス



<大聖堂内にあるシャガールのステンドグラス一部©Kanmuri Yuki>

アーチが高いということは、それだけ壁も高いということ。けれども聖エティエンヌ大聖堂の中は意外なほど明るい空間です。

というのも、このカテドラルには、合計約6,500平方メートルものステンドグラスが用いられており、外からの光がさまざまな色となって内部に差し込んでいるのです。バラ窓で有名なシャルトルの大聖堂でさえ、ステンドグラスの総計が約2600平方メートルであることと比べると、メス大聖堂のステンドグラスがどれほど圧倒的であるか想像できることでしょう。



<大聖堂内にあるヴィヨンのステンドグラス©Kanmuri Yuki>

聖エティエンヌ大聖堂のステンドグラスは中世のものだけではありません。有名なアーティストであるジャック・ヴィヨンやマルク・シャガールらがデザインしたものも複数使われていて、さながら美術館のようです。



<大聖堂内ステンドグラス一部 ©Kanmuri Yuki>

聖エティエンヌ ・ ド ・ メッツ大聖堂

開館時間:8:00~19:00(4月~10月)、8:00~18:00(11月~3月)
閉館日:なし(ただしミサや行事の時は見学不可)
公式サイト:聖エティエンヌ大聖堂

大聖堂だけではないステンドグラス

メス市内には多くの教会がありますが、ありがたいことにその多くが無料で開放されています。しかも、ほぼどの教会も美しいステンドグラスを有しており、一見の価値があります。ステンドグラス見学の観点から、私が見学したもののうち心に残った教会を挙げておきましょう。



<ジャン・コクトーのステンドグラス ©Kanmuri Yuki>

(1)聖マクシマン教会

ドイツ門の近くに建つ聖マクシマン教会は、教会と気が付かずに素通りしてしまうほど目立たぬ外観。12~15世紀にかけてのロマネスク式建築に、ゴシック様式が部分的に混じっています。この教会のステンドグラスは、ジャン・コクトーのデザインによるもの。ジャン・コクトーは20世紀初めの芸術家で、その小説や詩のほか、絵や映画でも知られています。ジャン・コクトー監督映画の代表作『美女と野獣』(1945)はディズニーの同題名アニメ映画に45年先立つ白黒映画ですが、今見ても独特の雰囲気に満ちていて見ごたえがあります。



<ジャン・コクトーデザインのステンドグラス ©Kanmuri Yuki>

聖マクシマン教会は、観光客もほとんど訪れることのない静かな教会です。ここで心ゆくまでジャン・コクトーのステンドグラスと向き合う時間は、贅沢で豊かなひとときとなるでしょう。

【聖マクシマン教会】

開館時間:9:00~18:00
休館日:ミサ、行事の際は見学不可能
公式サイト:聖マクシマン教会

(2)聖ユケール教会

聖マクシマン教会からほど近いところには、聖ユケール教会が建っています。12~14世紀にかけての建築で、鐘楼はおそらくメスで一番古いものではないかと考えられています。特に彩色が施された柱などと並んでみるステンドグラスは、往時の姿を彷彿させます。



<聖ユケール教会内のステンドグラス ©Kanmuri Yuki>

【聖ユーケール教会】

開館時間:9:00~18:00
休館日:ミサ、行事の際は見学不可能
公式サイト:聖ユーケール教会

(3)聖セゴレーヌ教会

聖セゴレーヌ教会がある場所には9世紀から教会が建っていました。今の教会は13世紀に建てられたものですが、その後も大幅な改築などがなされ、いろいろな時代が混ざった建物になっています。この教会には、ロレーヌ地方最古のステンドグラスがあります。1160~80年のころのものと考えられている緑の十字架の磔刑像です。



<緑の十字架が見える右側のステンドグラスが12世紀のもの ©Kanmuri Yuki>

【聖セゴレーヌ教会】

開館時間:9時~18時
休館日:ミサ、行事の際は見学不可能
公式サイト:聖セゴレーヌ教会

その他の見どころ



<20世紀初めドイツ時代に皇帝滞在用に建てられた宮殿 ©Kanmuri Yuki>

その他、ドイツ時代に建てられたプロテスタントの教会や十字軍の時代に作られたテンプル騎士団の礼拝堂、モーゼル川沿いのウォーターフロント、2010年にオープンした現代美術のポンピドゥーセンター・メス(建築は日本の坂茂氏ら)など、他にも見どころには事欠かないメス。ステンドグラスがお好きな方、オーバーツーリズムを避けたい方、フランスに来たけどちょっと異国気分も味わってみたい方におすすめしたい場所です。

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