2024年1月12日にTOYOTA GAZOO Racingが新型「GRヤリス」を東京オートサロン2024で世界初公開しました。どのような進化を遂げたのでしょうか。現行オーナーである筆者が細かく解説していきます。
進化版GRヤリスは何が変わった? ほぼ全部? 現行オーナーが解説!
東京オートサロン2024でTOYOTA GAZOO Racingが新型「GRヤリス」(以下進化版GRヤリス)を世界初公開しました。
先立ってサーキットで試乗した印象はどうだったのでしょうか。現行オーナーである筆者が細かく解説していきます。
2020年の東京オートサロンで世界初公開された「GRヤリス」は、「セリカGT-FOUR」以来となるスポーツ4WDです。
開発コンセプト「Strong Sport Car」の実現のために、トヨタのルール/基準を超えた設計、データとドライバーのコメントを紐づけしたテスト方法、その場で直して乗ると言うスピード感、プロドライバー評価の可視化、生産直前まで止まらないカイゼン等、全てにおいて従来のトヨタの常識を覆す手法が取られました。
初公開時は「400万円越えのヤリスなんてありえない」、「WRXやランエボには敵わない」などと言った否定的な意見も聞かれましたが、試乗記事が出回り始めると、「只者ではない」、「コイツはすごい」と評価は一転。
日本はもちろん世界でも人気は高く、1年でホモロゲ獲得に必要な2.5万台をクリア。その後もバックオーダーを抱えるほどの受注でした。
そんなGRヤリスは登場以降も開発は続けられ、モータースポーツをはじめとする極限の状態で「壊しては直す」の繰り返しを行なってきました。
モリゾウこと豊田章男氏はそこで鍛えた成果を「ユーザーにシッカリと還元すべき」と語っています。
すでに「GRMNヤリス」や既販車へのアップデート/パーソナライズなどが行なわれていますが、そのひとつの集大成が「東京オートサロン2024」で発表された「進化型GRヤリス」です。
GRは進化型と控えめに語っていますが、その変更内容は車両全体に多岐に渡ります。
今回、発表に先駆けて袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗してきました。
筆者は現行GRヤリスを所有していますが、結論から言うと今回の試乗で「買い替え」を決めました。
つまり、それくらい凄いクルマだったのですが、詳しく説明していきましょう。
エクステリアは前後デザインを刷新。フロントは開口部が拡大されたバンパーの採用でアグレッシブさが増した印象です。
バンパーロアは補修性を考え分割式に変更されていますが、現行モデルで好評のエアロパーツ(GRパーツ)は流用できず。新たに開発してくれる事を期待しましょう。
リアはトレンドの一文字のテールランプを採用しますが、全体的には現行モデルよりシンプルな印象です。
バンパーロア部は操安性に寄与する形状だと言いますが、個人的にはマフラーの焼けが良く見えるので走り込みが必要かなと。
更にリアスポイラーはマットブラック→同色に変更。細かい部分ながらも、全高の低さやスタンスの良さがより際立って見えるようになっています。
ホイールのデザインの変更ありませんが、ボディカラーは現行モデルの4色に加えて、新たに「プレシャスメタル」が追加。
「GRカローラ」でも使われていますが、ブラックの加飾とのマッチングの良さに加えてクルマがよりシュッと引き締まって見えます。
インテリアは全面刷新されベースとなるヤリスの面影はありません。
専用のインパネは上部のフラット化とルームミラーの取付位置変更で視界性能(特に左前)を大きく向上。運転席に15度傾けた操作系やバラバラだった走行系スイッチの集約などにより操作性もアップ。
更にスポーツカーにしては素っ気ないデザインのメーターもGRカローラ譲りの多機能フル液晶式に変更されています。
それと合わせて「スポーツカーしては高すぎ」と指摘されていたシートポジションにもメスが入り、ヒップポイントは25mmダウン。それに合わせてステアリングやペダルの位置も最適化されています。
細かい部分では、使いにくかったパワーウィンドウスイッチの変更、助手席トレイ追加(ラリーなどで役立つ)、更に筆者がずっと指摘していたJBLオーディオの見直しなども行なわれています。
オーディオは試乗車に搭載されておらず試聴はできませんでしたが「全開走行でも負けない音作りをした(開発者)」と聞いたので、期待大です。
エンジンは軽量ピストン、高燃圧対応、動弁系強化などハードにも手が加えられおり、出力は272ps/370Nm → 304ps/400Nmにアップ。スペックからも解るようにGRカローラ用を水平展開しているのでしょう。
更にパワートレイン/EPS/エアコンなどの設定が可能なドライブモードセレクト(ノーマル/スポーツ/エコ/カスタム)も用意されています。
実際に走らせると、応答の良さ(ターボラグが少ない)とパンチのある力強さ、そしてレッドゾーンを超える勢いで回るフィーリングなど、スペック以上にスポーツエンジンらしい野性味のある特性になっています。
ハイスペックになっていますが扱い辛さはなく、むしろトルクバンドが広くなっているので、現行モデルでは2速か3速で悩むコーナーでも進化型は迷うことなく3速を選べるくらいの粘りを持っています。
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まるでMTのような楽しさ! 新開発の「GR-DAT」とは? 発売までアジャイル開発はまだまだ続く!
更に進化型では「MTと同等に戦えるAT」を目指して開発されたダイレクトシフト8速AT(DAT)が設定されたのも進化型のポイントです。
筆者は以前、プロトタイプに試乗済み。当時は未完成ながら可能性はあると思っていたので、実は量産仕様への期待値は他の同業者よりも高いです。
最大の特徴は「Dレンジでパドル操作不要の完全自動変速(ドライブモード:スポーツ)」にあります。
ハードはトヨタ/レクサスが持つ8速ATをベースに高応答ソレノイドや高耐熱摩擦材への変更、制御はスポーツ走行用に開発された物(ブレーキの踏み込み方・抜き方、アクセル操作を細かくセンシング)でドライバーの意思を汲み取るギア選択を可能にしています。
ちなみにギアレシオは1-6速がMTと同じで、7-8速は高速巡航用です。
発進は当たり前ですがスムーズです。すぐにロックアップ状態になるのでアクセルを踏んだ時の反応やダイレクト感もMTに近いです。そしてシフトアップは「君はDCTですか?」と思うくらいの速さで行ないます。
注目はコーナー進入でブレーキングを行なった時です。これまでのATのダウンシフト制御はドライバーの意思よりも遅い上に低い回転域でしか作動しませんでしたが、DATは「MTだったらここでシフト操作するよね」と言う絶妙なタイミングに自動でシフトダウンをしてくれます。
今回の走行では強めのブレーキングをするコーナーでのシフトダウン制御はほぼ完ぺきでしたが、軽めのブレーキングで進入するコーナー、今回の袖ヶ浦で言えば5-6-7コーナーでは意図通りのシフトダウン(4速→3速)をしてくれず。
最初は自分のドライビングがおかしいのかと思い、開発ドライバーの大嶋和也選手に同乗させてもらうと同じコーナーでシフトダウンする時としない時がある事を確認。
大嶋選手も「確かにおかしい、朝イチのチェック走行と違いますね」とエンジニアにその旨を伝えると、試乗会場が開発現場へと一転。
すでにデータの読み取り→原因探求を行ない始めたエンジニアの姿を見て、GRヤリスが普段から行なっている「アジャイルな開発現場」を少しだけ見れたような気がしました。
原因は恐らくセンサー系の不具合でしょう。正直言うと期待値が高かったが故にガッカリしたのも事実ですが、筆者は「発売までには、必ず直します!」と語った担当エンジニアの言葉を信じようと思います。
加えて、新たにGPSによる位置判定によりサーキットのようなクローズドコースではアンチラグ制御、スピードリミッター上限速度の引き上げが可能な「サーキットモード」を用意されています。各機能はスマホのアプリを用いたカスタマイズも可能になっています。
アンチラグ制御とはターボ車のアクセルオフ時にみられるレスポンスの遅れを解消するシステムですが、有無を試すとアクセルのツキの良さやトルクの立ち上がりの鋭さを実感。
感覚よりも蹴り出しが強くなるので慣れが必要ですが、タイムアタックなどでは大きな武器になってくれるでしょう。