最近のガソリンスタンドでは、「自走しないクルマ」や「携行缶」への給油は不可としているところが増えています。諸事情によりこうした給油が必要な場合がありますが、なぜ現在では禁止しているのでしょうか。
「自走しないクルマへの給油は不可」なガソリンスタンドが多くなった理由
現在では、ほとんどのガソリンスタンドで、自走するクルマ以外へのガソリンの給油・注油が制限されています。
ガソリンの性質を考えるとやむを得ないことではありますが、ユーザーにはどのような影響があるのでしょうか。
資源に乏しいと言われる日本ですが、政府や関係企業の絶え間ない努力によって、今日では日本全国でガソリンを容易に手に入れることができるようになっています。
入手が容易であることに加えて、マイナス40度でも気化する性質と爆発的な燃焼力を持つガソリンは、クルマの燃料としては現状では最も適したもののひとつです。
ただ、ガソリンは身近にあるものの中では、トップレベルの危険性を持つ物質でもあります。
ライターやタバコなどはもちろん、静電気や金属同士が衝突して発生する火花などでも引火する可能性があり、ひと度火が付けば文字通り爆発的に燃焼します。
そのため、ガソリンの取扱いについては、法律によって非常に厳しい規制が設けられています。
たとえば、クルマの燃料として用いるガソリンの購入は、原則として「給油取扱所(ガソリンスタンド)」以外では行えません。
また、ガソリンの給油は危険物取扱者乙種4類を保有者の監視下にあるスタッフもしくはユーザー自身が行なうこととされています。
とはいえ、ガソリンスタンドで行なう一般的なクルマへの給油であれば、法律に触れることはまずありません。
ガソリンスタンドの営業時間には、国家資格である危険物取扱者乙種4類を持ったスタッフが必ず勤務しているため、給油方法などに不明点があれば迷わず確認しましょう。
一方、2019年12月以降は、自走しないクルマや携行缶への給油・注油に対する法規制がさらに厳格化されました。
これは、2019年7月に起きた「京都アニメーション放火殺人事件」が大きく関係しています。
この痛ましい事件では、携行缶へと注油されたガソリンが放火に用いられており、そのガソリンは犯行現場近隣のガソリンスタンドで購入されたものでした。
現在では、購入者の本人確認や使用目的の確認、販売記録の作成が販売事業者側に義務付けられるようになっています。
そうした手続きを踏めば、自走しないクルマや携行缶への給油・注油を行なうことは法律上は可能ですが、手間やリスクなどの観点から、自走するクルマ以外への給油・注油そのものを行っていないガソリンスタンドも多いようです。
つまり、自走するクルマへ給油する場合以外の、ガソリンの入手難易度が以前に比べて大きく上がっています。
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ガソリンの入手難易度が上がったことでどんな影響がある?
これによってユーザーにはどのような影響があるのでしょうか。
たとえば、ガス欠を起こしてしまった場合の影響が考えられます。
かつては、近隣のガソリンスタンドで携行缶へと注油してもらい、それをクルマまで持ち帰って給油することが比較的容易でしたが、現在ではたとえ近くにガソリンスタンドがあったとしてもそれが難しいケースが多いようです。
また、レーシングカートや水上バイクなどを楽しむユーザーにも大きな影響がありそうです。
積載やけん引によって運ばれることの多いレーシングカートや水上バイクですが、いずれも自走していない状態であるため、ガソリンスタンドでの給油を断られる可能性が高いようです。
さらに深刻なのは、トラクターやコンバインといった農業用器具を使うユーザーへの影響です。
こうした農業用器具を使うユーザーのなかには、ガソリンスタンドで携行缶へと注油し、一定量を自宅に備蓄しておくケースも多いと言いますが、ガソリンの入手が困難になると日々の業務の負担が増すことになります。
結局のところ、こうした問題に対する最も簡単な解決策は、携行缶への注油を行ってくれるガソリンスタンドをあらかじめ把握しておくほかありません。
ただ、ガソリンスタンド自体が年々減少している昨今では、それすらも難しくなりつつあります。また、ガソリンを一度に購入できる量や保管できる量は消防法によって厳格に定められており、規定量以上の「買いだめ」はできません。
農業用器具メーカーでは、こうした現状をうけて電動トラクターや電動コンバインの開発を進めていますが、普及するにはもう少し時間がかかりそうです。
このように、ガソリンの入手難易度が上がったことによって影響を受けるユーザーは少なくありません。
しかし、ガソリンの持つ危険性を考えれば、購入や使用に厳しい制限が求められるのは当然のことでもあります。ガソリンは危険物であるということを、クルマを利用するユーザーはいま一度認識しておく必要がありそうです。
※ ※ ※
軽油もガソリンと似た性質を持っています。ただ、ガソリンが揮発性の液体であるのに対して、軽油は非揮発性の液体であるうえ、ガソリンよりも引火しにくいという特徴があります。
そのため、軽油は指定のものであればポリタンクでの運搬も可能であり、購入や保管の容量もガソリンに比べて多くなっています。
ただし、軽油も危険物であることには変わりがないため、ガソリンと同等の注意をもって取り扱う必要があることは言うまでもありません。