「EM1 e:」発売を機に、ホンダが一般向け電動バイクのラインナップを充実化【バイクのコラム】

■電動二輪パーソナルコミューター「EM1 e:」を発売


EM1 e:は航続距離や車格など一般ユーザーが使いやすいよう設計されている(写真:本田技研工業)

日本市場では「小排気量では排ガス規制をクリアするのが難しいので、原付一種の排気量を125ccまで拡大すべきだ」といった議論が起きているなど、原付クラスの二輪については、まだまだエンジン車がメインストリームといった雰囲気です。

しかし、世界的には二輪の電動化が進んでいることはご存知でしょうか。

とくに中国市場では、パーソナルコミューターと分類される原付クラスの二輪は電動であることが当たり前となっています。当然ですが、世界一のバイクメーカーであるホンダも現地企業との合弁で、電動二輪を展開しています。

今回、ホンダが日本市場向けとして初の一般向け電動スクーターというふれ込みで誕生した「EM1 e:(イーエムワン イー)」は、まさに中国で五羊-本田から発売されている電動スクーター「U-GO」と車体を共有しているモデルです。


ボディカラーは、パールサンビームホワイトとデジタルシルバーメタリックの2色を用意する(写真:本田技研工業)

ただし、日本向けでは交換型リチウムイオンバッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」に対応した設計となっています。U-GOはバッテリーが固定タイプとなっているので、その点においてはまったく異なるモデルというわけです。

原付クラスの電動二輪における利便性を高めるソリューションとして、交換型バッテリーを広めていこうという動きは、すでにホンダ・ヤマハ・スズキ・カワサキの国内4メーカーが共同で進めていくことに合意していますし、EM1 e:の販売が予定されている欧州でも交換型バッテリーのコンソーシアムは組まれています。

交換型バッテリーは世界のデファクトスタンダードになりつつあるといえますし、EM1 e:の日本発売が8月25日(金)に始まるという発表は、交換型バッテリーというソリューションの、まさに始点となることでしょう。

ですからEM1 eは車両本体とバッテリー、専用充電器がそれぞれ別々の価格設定となっています。

車体のメーカー希望小売価格は15万6200円(消費税10%込み)、バッテリーは1個を搭載するので8万8000円(消費税10%込み)、専用充電器は5万5000円(消費税10%込み)となります。

つまり、合計29万9200円というのが、最初に用意すべき金額です。家族や職場で2台目を増車するのであれば、充電器は買わなくても済むので、増車するごとに台当たりのコストは下がっていくという風にも考えられます。

●ビジネス向けの3モデルも一般向け販売がスタート


二輪のベンリィe、三輪のジャイロe、屋根付きのジャイロキャノピーeも一般販売が始まった(写真:本田技研工業)

もっともビジネスユースであれば、EM1 e:に先行して発売されてきた電動ビジネスバイクシリーズを狙うというのもアリでしょう。

これまでホンダのビジネス向け電動バイクは、企業向けのリース専用で個人事業主は導入しづらい部分もありましたが、EM1 e:の発売にあわせて、ビジネス向けモデルも一般販売がスタートしています。

こちらは交換型バッテリーを2個搭載できるようになっていますので、パワフルかつ航続距離も期待できますから、デリバリーなどの業務に使うのであれば、ビジネス向けモデルを選んだほうがいいでしょう。

各モデルの車両本体+バッテリー+充電器のセット価格は以下のようになっています。

ベンリィe: I/ベンリィe: II:64万9000円

ベンリィe: Iプロ/ベンリィe: IIプロ:66万円

ジャイロe::83万6000円

ジャイロキャノピーe::100万1000円

●交換型バッテリーの回収スキームが整備された?


交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」は重量10.3kg、定格電力量は1314Wh(写真:本田技研工業)

このように、交換型バッテリーを採用したホンダの電動二輪モデルが一般向け販売を始めた背景には、バッテリーのリソースサーキュレーションを確実に実施できる目途が立ったからに他ならないでしょう。

あらためて交換型バッテリーのスペックを記せば、電圧は50.26V、容量は26.1Ah、定格電力量は1314Whのリチウムイオン電池です。重量は10.3kgとけっして軽々と持てるものではありませんが、日常的にバイクから取り外して充電器にセットするのがストレスになるほど重くもありません。

それほどコンパクトなバッテリーではありますが、レアアースやレアメタルを使用しているものであって、使わなくなったら捨ててしまうというのは、あまりにももったいない貴重なものであるのも事実です。

交換型バッテリーソリューションにおいては、バッテリーを売るだけでなく、使用済みバッテリーを確実に全量回収して、コンディションに応じてリサイクルやリユースに回すことが必要です。そうしなければ、せっかくの電動バイクが環境負荷を高めてしまうことになりかねません。

現時点では、ホンダからバッテリーのリソースサーキュレーションにおける具体的な内容は公表されていませんが、一般向け販売が始まったということは、個々のバッテリーについて追跡できるようにするなどのスキームが確立されたと捉えていいでしょう。

前述したように、日本において原付クラスのバイクは、基本的には共通の交換型バッテリーを使う未来が来るはずです。そうした時代の準備としても、ホンダが一般向け販売を開始して、バッテリー回収スキームにおいて知見を蓄えていくことは重要だといえます。具体的な動きについても、しっかりウォッチしていきたいと思います。

(自動車コラムニスト・山本 晋也)