「F-35くれないなら自分で作る!」国産ステルス戦闘機を生み出したトルコの思惑 無人機大国の“親分”登場か

トルコが自国イベントで国産ステルス戦闘機を初めて一般公開しました。「カーン」という愛称が付与された同機は2030年ごろから量産化する予定だとか。なぜトルコは独自にステルス機を造ったのか、その経緯と同国空軍の将来を推察します。

全体的なフォルムはF-22「ラプター」似だが

 トルコは2023年5月1日、首都アンカラ近傍の町カフラマンカザンで開催された国家イベント「未来世紀推進プログラム」において、国産ステルス戦闘機「カーン(KAAN)」をはじめとした数々の新型機を一般公開しました。

 このイベントに登場した各種軍用機を見てみると、ある程度トルコ空軍の未来像を探ることができます。トルコ空軍は今後、どのように戦力向上を図ろうとしているのか、推察してみましょう。

 そもそも「カーン」は、2016年8月に「国家戦闘機(MMU)」の名称で開発が始まった、トルコ初の第5世代ステルス戦闘機です。主契約会社はTAI(トルコ航空宇宙産業)ですが、2017年1月にはBAEシステムズとの協力協定も締結されてプロジェクトは進められ、2023年3月には初のタキシングテストに成功、そして冒頭に記したイベント「未来世紀推進プログラム」の会場において、「カーン」という愛称が発表されています。

「カーン」の大きさは全長21m、全幅14m、全高6m。ジェットエンジンを2基搭載する、いわゆる双発機と呼称される構造です。全体的なフォルムは、アメリカが開発したF-22「ラプター」戦闘機との共通点も見られるものの、空気密度が低く操舵面による操縦が難しくなる成層圏での運動性を向上させる推力偏向ノズルは搭載していません。

 試作機は外国製エンジン(GE製F110ターボファンエンジン)を搭載しているものの、量産機では国産のアフターバーナー付きターボファンエンジン(アフターバーナー推力2万9000ポンド)を装備する予定とのこと。なお、この国産エンジンを開発するにあたって製作された研究モデルのTEI-TF10000(アフターバーナー推力1万ポンド)は、2022年12月12日・13日にイスタンブールで開催された「トルコ・イノベーションウィーク」会場において、モックアップが初公開されています。

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トルコ版F-35? カーンの実力とは

「カーン」の最大速度は高度4万フィート(約1万2000m)でマッハ1.8。アフターバーナーを使用せずとも超音速飛行が可能な「スーパークルーズ」能力も付与される計画です。機体構造はプラス9G、マイナス3.5Gをリミットとしていますが、Gによる負荷は機体重量によって変化するので、武装や燃料の搭載量など、どのような状態を想定したものなのか、そのあたりは明らかになっていません。

 機体には、NATO(北大西洋条約機構)のデータリンクにも接続可能な通信システムが搭載されているほか、既存のF-16戦闘機や早期警戒管制機、さらに無人機とも連携可能な能力が付与されているそう。これにより優れた状況認識能力をパイロットが手にすることにつながっている一方、パイロットの負荷は軽減されるとしています。

 キャノピーは前ヒンジで開閉する構造で、その中にあるコックピットは、最新の戦闘機らしく、大型の多機能ディスプレイ(MFD)が計器盤のかなりの面積を占めるデザインとなっています。なお、ヘッドアップディスプレイは設置されていないことから、必要な情報をヘルメットのバイザーに投影する方式が採用されているようです。

 操縦桿はサイドスティック方式で、それを含めて前出のコックピット周りはかなりの部分で最新ステルス戦闘機F-35「ライトニングII」に近似したものとなっています。

エイのような無尾翼機「アンカ-3」も誕生

 前出の国家イベント「未来世紀推進プログラム」で、「カーン」と同時に初公開されたのが、無人機「アンカ-3(ANKA-3)」です。開発元は「カーン」と同じくTAIで、2022年12月に初飛行したバイカル・テクノロジーズの無人戦闘機「クズルエルマ」と同様、将来は「カーン」と協調して戦闘任務を実施することを企図しているといいます。

「アンカ-3」はエイのような姿をした無尾翼機(全翼機)で、搭載した各種センサーを使った情報収集任務のほか、胴体内2か所のウエポンベイに各650kg、翼内側のステーションに左右で650kgずつ、翼外側のステーションに100kgずつの弾薬(精密誘導爆弾、巡航ミサイルなど)を搭載することが可能だそう。武装して飛び立った後は、有人戦闘機である「カーン」の指揮により、「クズルエルマ」などと連携して各種攻撃任務にあたるとされています。