山に向かう人の「想い」を撮りたい|フォトコン2022大賞:岩崎正代さん

YAMAPフォトコンテスト2022で大賞(スマホ最優秀賞)を受賞した長野市の美容師、岩崎正代さん。7年前から登山を始め、ソロでさまざまな山に挑戦していましたが、今ではソロが少なくなるほど山友達に恵まれたのだとか。そんな岩崎さんに、受賞作の撮影エピソードはもちろん、思い出の山行や大好きなジャンダルムの魅力について、お話を伺いました。

「作品」というよりは、思い出を残すために撮っている

スマホ最優秀賞を受賞した作品「出待ち♡」

―この写真は、お友達と空木岳に行ったときに撮影したそうですね。

岩崎正代さん(以下、岩崎):写真に写っている友達と、山岳スマホフォトグラファーのMadoka.ちゃんと、3人で行きました。私は空木岳(2,863m)に登ったことがなくて、行ってみたかったんですよ。写真を撮りに行くというより、山に登りに行きました。

―冬山ですが、道中は大変でしたか?

岩崎:初冬の12月で、私たち以外は誰もいない静かな山でした。雪は途中までほとんどなくて、山頂の手前から少し積もっていて。そんなに大変なルートじゃなかったんですけど、避難小屋で楽しく食事をするために食料をたくさん持ったから荷物が重くて、着いた頃にはクタクタ(笑)。避難小屋に着いた頃に雪が降ってきたから、山頂へ行くのは諦めて、その日は小屋で過ごしました。

―翌朝、受賞作を撮影したのですね。

岩崎:はい。翌朝、薄く積もった雪の中を山頂まで歩きました。雪にはトレースがまったくなくて、動物の足跡だけがついていて、とても素敵な雪景色でしたね。山頂に到着し、3人で日の出待ちをしていると、迫ってくるような雲海がとても美しくて……。

写真を撮りたかったけど、気温が低いからか一眼レフのバッテリーがすぐなくなっちゃって。無事だったスマホで撮影したのがあの写真です。

―撮影中から、「これはいい写真になるぞ!」といった手応えはありましたか?

岩崎:いえ、手もめちゃくちゃ冷たいし、何かを考える余裕がありませんでした(笑)。本当にたまたま、素晴らしい景色が撮れただけなんです。

私は周りの山友達に比べると写真への熱量が高くなくて、普段から「いい写真を撮ろう!」とは思ってないんです。「作品」として撮っているというよりは、「思い出を残すために撮っている」感覚なので……。

―それでこの写真を撮れるのがすごいです! 写真右奥の、お友達が写っている位置がとてもいいですよね。

岩崎:ありがとうございます。私、絶対に写真に人を入れたいんですよ。人がいたほうが山のスケールが伝わる気がするから、景色だけで撮ることはあまりないかも。必ず友達とかを入れて撮ります。

空木岳にて

―スマホ最優秀賞を受賞したときは、どういったお気持ちでしたか?

岩崎:大賞を発表するYouTubeライブが始まったとき、私はまだ美容室で仕事をしていたんですよ。仕事が終わって途中からスマホで見たら、ちょうど私の写真が紹介されていてビックリしました。すぐに夫に連絡したら、あっさり「良かったね」と言われました(笑)。

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「ソロでも行けるんだ!」と気づき、どんどん山へ行くように

―山にはいつから登っているんですか?

岩崎:長野市に住んでいるので、小中学生のときから学校登山がありました。あと、父が登山をやっていたので、たまに家族で近くの飯綱山(1,917m)に登っていましたね。

だけど、当時の私は山に興味がなかったんです。そこまで嫌ではないけど、登山って疲れるし、天気が悪いと悲惨じゃないですか。だから「父の影響で登山にハマる」ということはありませんでした。

―では、大人になってからハマったのでしょうか?

岩崎:そうです。10年くらい前から趣味でマラソンをしていたんですけど、7年くらい前になかなかタイムが伸びなくなってきて。知り合いに「山に登るとお尻とももの筋肉が鍛えられるよ」と勧められ、登ってみることにしました。

はじめて登ったのは近所の戸隠山(1,904m)。マラソン友達と一緒に行ったんですが、それまで山といえばハイキングコースしか知らなかったので、「こんなに岩でゴツゴツしたところを歩くなんて!」と衝撃を受けました。大人のアスレチックって感じですごく楽しかったです。

―山の魅力を知ったのですね。登山をはじめて、マラソンに影響はありましたか?

岩崎:本格的なトレーニングをしなくても、それほど苦しくなくフルマラソンを完走できるようになりました。でも、コロナ禍以降は多くのマラソン大会が開催中止になってしまって、今はもうほとんど走ってないんです。すっかり登山がメインになりました。

登山を始めたばかりの頃

―山にはどのくらいの頻度で行くのですか?

岩崎:はじめの頃は友達とワンシーズンに1回行くくらいだったんですけど、だんだん私が本格的な登山をしたがるようになったから、友達が行きたがらなくなって(笑)。それで、ソロで行くことにしたんです。

「ソロでも行けるんだ!」と気づいてからは、どんどんいろんな山にチャレンジしたくなって、ほぼ毎週登るようになりました。後立山や五竜、鹿島槍、針ノ木などなど……。そのうちに山仲間ができて、今はソロが減ってしまったんですけど。

―印象に残っている山行はありますか?

岩崎:はじめて泊まりで行ったソロ登山です。北アルプスのジャンダルムから奥穂高岳(3,190m)に行き、大キレットを越えて南岳(3,032m)まで行きました。2日目はすごく天気が良かったんですけど、キレットを越える緊張感がすごくて、景色を見る余裕はありませんでしたね。

そのとき泊まった穂高岳山荘で、いろんな方に声をかけてもらってお話したのが楽しかったです。「どういうルートで来たか?」とか「明日はどこまで行く」とか、普段登っている山の話とか。そういった人との関わりも印象に残っています。

はじめて穂高岳山荘に泊まった日

―人によって星空やご来光や夕焼けなど、好きな山のシチュエーションがあると思いますが、岩崎さんの好きなシチュエーションは?

岩崎:日の出です。1日がスタートするワクワク感が好き。ご来光を見るため夜から行動していることが多いので、「やっと太陽が出てくるぞ」という待ち遠しい感じが好きですね。めちゃくちゃ寒い中で日の出を待つ辛さも、太陽が出ると一気に報われるじゃないですか。あの感覚が大好きです。