“コスパ悪いのでいらない” 9機まで稼働率が落ち込んだ「タイガー」攻撃ヘリ全廃へ ドイツ

ドイツ国防省は2023年5月13日、「タイガー」攻撃ヘリを2038年までに全廃し、対戦車ミサイルを搭載したエアバス H145Mに置き換えると発表しました。決定の背景には稼働率の悪さがあるようです。

後継機は汎用ヘリとミサイルの組み合わせ

 ドイツ国防省が2023年5月13日、あるひとつの決定を下しました。自軍の「タイガー」攻撃ヘリコプターを2038年までに全廃し、対戦車ミサイルを搭載したエアバス H145Mに置き換えるというものです。早ければ今年(2023年)中にH145Mの調達予算を国会で通す予定です。

「タイガー」は、西ドイツ(当時)とフランスの航空機会社が共同出資で設立したユーロコプター(現:エアバス・ヘリコプターズ)で開発・製造された攻撃ヘリです。運用から約20年が経過しているため、同機の近代改修に比較的乗り気なフランス並びにスペインは、2022年にアップグレード化に関する契約を発注しています。一方、ドイツはこの計画には未参加で、かねてから同機を退役させる可能性が高いと噂されていました。

 アップグレード化にドイツが参加しなかった理由として、現地メディアの情報によると、稼働率の悪さが影響しているそうです。ドイツでは「タイガー」を約50機保有していますが、そのほとんどが稼働しておらず、2022年4月には稼働機がわずか9機になり、連邦議会で稼働率の悪さについて議題に上がったこともあったといいます。

 前々から故障が頻発し、飛行時間当たりのメンテナンスに高額な費用がかかることが指摘されており、改修費用とそれにかかる拘束時間のリスクを考え、退役という選択に至ったようです。

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トラブル続きはドイツだけではなかった!

 ドイツだけで問題であれば、同国を取り巻く環境や防衛予算の問題が影響していると考えられますが、「タイガー」の稼働率の悪さはヨーロッパ以外の採用国であるオーストラリアでも問題になっていました。

 オーストラリア陸軍では、安全性の問題で、トラブル解決まで計2回も全機飛行停止の措置をしたこともあるほど。ただ、そこまでしても結局、オーストラリア陸軍が望む稼働率は確保できなかったそうです。そこでオーストラリアは、2040年まで運用可能だった同機に見切りをつけ、2021年1月に後継機としてボーイング製のAH-64E「アパッチ・ガーディアン」を導入予定と発表しています。

 なお、前述のとおりドイツは、「タイガー」の後継としてH145Mを選択したことも注目を集めているとか。このヘリコプターは元々、兵員輸送や救急搬送、偵察などを目的に作られた、いわゆる汎用機です。

 モジュール式の兵装システムを搭載することで、攻撃ヘリとしての能力を付与することも可能であるとともに、専用の攻撃ヘリと比べて大幅にコストを抑えることができます。

 性能的には純粋な攻撃ヘリと比べると見劣りしますが、ドイツ国防省の担当者が国内メディアに話した内容によると、現在H145M用に開発されている武装オプションの中には、「タイガー」より優れた性能を発揮するケースも見受けられることから、短期的な解決策としては有効と考えているとのこと。また、長期的な視点では、攻撃ヘリの運用に関しては無人機に変えてもいいのではという論調も現地では出ているようです。

 2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻では、ロシア軍の攻撃ヘリの損傷率の高さが指摘されており、一部では攻撃ヘリ不要論も出るほどになっています。

 他方で、日本に目を移すと、2022年12月に閣議決定の「防衛力整備計画」で陸上自衛隊の攻撃ヘリと観測ヘリを退役させ、無人機に置き換える方針が打ち出されました。これらを鑑みると、かつては地上攻撃において絶大な信頼を得ていた攻撃ヘリの絶対性が失われる時期にきていると言えるのかもしれません。