■海の畑と呼ばれる養殖に最適な三陸の海


浮き玉の沈み方を見ながら水中にある牡蠣の成長を量り適度な深さへ調整しながらベストなタイミングで水揚げする。

日本で見られるリアス式海岸は遥か昔、起伏の激しい山地が海面の上昇や地盤沈下により、海中に没したことで形成された。海面よりも上に残された陸地が、複雑に入り組んだ湾や島を創り出したのだ。氷河が形成した北欧のフィヨルドとは、生まれた背景が違う。

日本列島はどこも起伏に富んだ姿をしているので、リアス式海岸は各地に存在する。

その中でも、宮城県北部から岩手県にかけての広範囲にわたる三陸海岸は、海岸線が複雑に入り組んでいるため、多くの観光客の目を愉しませる風光明媚な光景が広がっている。さらに漁業はもとより、養殖や水産加工が盛んなことでも有名だ。

リアス式海岸はその成り立ちから、海への間口が広く湾岸の奥が浜辺になっている。湾は小高い山に囲まれているので、風の影響を受けにくく波が穏やか。

そして浜から少し離れただけで深くなるうえ、海を囲む山からは豊かな養分が海へと運ばれるため、海は豊富な栄養分を蓄えている。初回は、そんな三陸海岸で育った海の逸品を厳選してお届けしたい。

(広告の後にも続きます)

■三陸宮城の栄養豊富な海に抱かれ、スクスク育つ牡蠣に会いに行く

海中に存在する菌や風浪の影響を受けにくい独自の養殖方法で、育てられた旨味と栄養価の高い牡蠣が、この海で毎日水揚げされている。


牡蠣が養殖されている海域は、加工場のある港から船で7分ほど。陸地から近くても、十分な水深が確保できるのもリアス式海岸ならでは。


育った牡蠣は重いので、クレーンで引き揚げる。

●生産だけでなく加工から管理、販売まで行う6次産業

三陸自動車道を河北ICで下り、北上川に沿って海を目指すと、車窓を流れる風景は大きな建造物が見当たらず、空の広さが滲み入るように感じられた。30分ほど走ると、目の前には小さな岬に抱かれた、典型的なリアス式海岸の風景が見えてくる。

今回訪れた「株式会社海遊(かいゆう)」は2011年、今では「日本一有名な漁師」と称されるまでになった、伊藤浩光さんが設立した。

牡蠣やムール貝などの養殖場と加工工場がある宮城県石巻市の雄勝湾(おがつわん)は、東日本大震災の影響もあり、周辺に商業施設がほとんど見当たらないが、それは逆に海の環境に悪影響を与えるものが少なく、代わりに周辺に広がる自然豊かな大地から、川を介して栄養分が海に注がれることを意味する。


ホタテの貝殻に牡蠣の種をつけるのではなく、専用のバスケットカゴに稚苗を入れ、放し飼いのような状態で育てる方法も実践。籠内で牡蠣がぶつかり合うため、美味しく育つという。

さらにミネラルを多く含む水が、雄勝湾の底から湧き出ている。そのためここで育つ牡蠣やムール貝には、よく栄養がいき渡っているのだ。

「新しい水産ビジネスを示すために、様々な挑戦を実践してきました」と伊藤さん。そのひとつが豊かな海を舞台とし、水産業の6次産業化を試みたこと。これは生産(1次産業)、加工(2次産業)そして販売(3次産業)までを一貫して行うことだ。

1次+2次+3次で6次になるという意味で、生産からお客様の元に届くまで、責任を持って管理することを指している。これにより安心・安全で美味しい商品を、リーズナブルな価格で提供することができるようになった。

さらに知識と経験に裏付けされた独自の牡蠣生産法も行なっている。それは「中層延縄養殖法(ちゅうそうはえなわようしょくほう)」と呼ばれるもので、深い水深を誇る雄勝湾に適した方法である。

まず水深2mほどの海面下に桁網を張れるように浮き玉を調整。そこから牡蠣の幼生が付着した原盤が水深5m以上の深さまで沈むように、長さを調整した下げ綱を吊り下げる。こうすることで菌が多く生息する上層部ではなく、中層で牡蠣を養殖できるわけだ。

この養殖方法は上層部で養殖する筏と比べると、菌の影響を受けにくいだけでなく、牡蠣の原盤が海表面の動揺に左右される心配が少なく、台風や高波といった災害に強い。おかげで良好な成長を促してくれ、年間を通じて安定した供給量が確保できる。

その一方、常に浮き玉の状況を確認しなければならないため、手間がかかる。だが、伊藤さんが掲げた「食卓が笑顔で彩られるようなサービスや商品を提供する」という理念のため、今日も汗を流すことを怠りはしない。

このような環境下で、愛情を注いで育てられた牡蠣は旨味や塩味が濃く栄養も満点。プリプリとした肉厚の食感も、一度味わえば病みつきになる。世界最高水準の管理体制も実施されているので、安心して口にできるのも嬉しい。

水揚げされた牡蠣は1個ずつバラした後、高圧洗浄を行う。その後、自動選別機にかけ雑菌や不純物が極めて少ない減菌海水に22時間以上入れて浄化し鮮度を保つ。その後、徹底した検査、出荷するために加工が行われ、消費者の元に届けられる。

【プロフィール】代表・伊藤浩光さん


2011年に海遊を設立し、4年後には仙台市内にオイスターバーも出店。