
供与される可能性のある車種は?
まずは「M60A1 AVLB」の場合で、旧式ながら台数も多いため“在庫処分”も兼ねれば合理的です。最新のM1074JABが間もなく全数揃い、交代する形で本車の相当数が退役の見込みなので、この一部を送るのかもしれません。
問題は「速度」と「メンテナンス」です。先にNATOがウクライナへの供与を決めた「M1」(米)、「レオパルト2」(独)、「チャレンジャー2」(英)の西側MBT“三羽ガラス”のうち、M1とレオパルド2ははともに時速70 km超という機動性を発揮します。
対してM60A1 AVLBは時速50km弱であまりにも遅く、仮にウクライナ側が西側MBTを駆使した速攻戦を想定した場合、架橋戦車が進撃の足を引っ張ってしまい本末転倒です。メンテナンス面でも、本車の車体はM1系列と互換性に乏しく、交換部品や保守・点検も独自に準備しないといけません。
次の「M104ウルヴァリン」ですが、ある意味「計画倒れ」の兵器という背景から台数が少なく、考えようによっては、これを供与しM60A1 AVLBとの二枚看板に絞った方が何かと都合がよさそうです。車体はM1A2なので、現地での整備も楽です。ただし最も高価で、しかも橋梁長が26mと最長なので、やはり米陸軍サイドでは手放したがらないかもしれません。
最後の「M1074JAB」ですが、同じく車体がM1系列なので整備は楽です。しかし、現在も製造が続くある意味アメリカ陸軍にとっても「最新兵器」なので、やはり「手放したくない」と考えるのが本音ではないでしょうか。
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アメリカの「本気モード」の意思表明?
西側MBT“三羽ガラス”と比べると、架橋戦車は一見「地味な脇役」で、大手メディアもその重要さにあまりピンとは来ていないようです。
しかし世界の軍事関係者の間では「いよいよアメリカが本気モードに入ったことを示唆するアイテムかもしれない」と深読みする向きもあります。
というのも、ウクライナのイメージは「広大な平坦地で戦車部隊の進撃には理想的」ですが、実はよく見ると細い小川や用水路、運河が無数にあります。
もし西側MBT“三羽ガラス”を単に防御に使うだけであれば、守備する場所は概ね決まるので、架橋戦車が急に必要となる場面はそう多くはありません。しかし、ウクライナ軍が「スピードが命」の電撃戦のような進撃を考えている場合は、事前に橋を落とされた川や戦車壕を素早くクリアすることが重要で、架橋戦車は必須なわけです。
さらにウクライナはロシア同様、旧ソ連のMBT開発基準「重量50トン以下」を踏襲しているため、既存の軍事資源やインフラも50トン以下の基準で造られています。大半の一般道路の橋梁は、50トン以上の戦車が渡れば落ちてしまうのです。残念なことに、西側MBT“三羽ガラス”はどれも60トン超のため、通行するなど論外です。こうした事情も、架橋戦車の供与が急がれた一因のようです。
果たしてロシア側は架橋戦車の供与という“シグナル”をどうとらえ、どのような対応策で臨むのでしょうか。