美しい海を未来に受け継ぐため、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)が取り組む「未来とサンゴプロジェクト」。Yahoo!ネット募金や携帯から寄付ができる「つながる募金」などで集まった募金を活用し、サンゴの植え付けやビーチクリーン活動を行っている。

その舞台となる恩納村で、プロジェクトを牽引するソフトバンクCSR本部本部長の池田昌人氏と、世界でもトップレベルの研究が行われている沖縄科学技術大学院大学(以下、OIST)の海洋生態物理学ユニット准教授である御手洗(みたらい)哲司氏を中心に、「サンゴや海を守るために何ができるのか」をテーマに座談会が行われた。

海洋生態物理学ユニットからは、トーマス真紀氏、ブラナー オティス氏、アンジェラ・アレス ピタ氏の3名の学生と、恩納村観光協会の事務局長・名城(なしろ)一幸氏も参加し、それぞれの立場からお話しをいただいた。

左から名城氏、池田氏、御手洗氏、オティス氏、トーマス氏、アンジェラ氏

海の環境は良くなっている?悪くなっている?

池田氏

はじめに率直に伺いたいのですが、研究者の皆さんから沖縄の海はどう見えているのでしょうか?私たちから見ると青くてきれいですが、サンゴが白化していると報じているニュースなども見かけます。昔に比べて良くなっている、悪くなっている、いろいろな見方があると思います。まずはそれぞれの視点からのご認識を伺いたいなと思います。

オティス氏

沖縄で初めてダイビングをした時はやはりすごくきれいだという印象がありました。しかし私たちは100年前の海の状態がどうだったかはわかりません。現在をベースに考えるしかないので難しいのですが、今の海の状態が健康かどうかと聞かれると、100年前と比べると、一番いい状態の沖縄とは言えないと思います。

トーマス氏

私は西表島など離島の研究でサンプリングをしたことがあるのですが、想像していた状況と少し違いました。沖縄本島は開発が進んでいるので、10~20年前と比べて悪化している部分があるのは理解できますが、離島はもっときれいだと思っていました。

しかし国立公園である西表島で、人がほとんど行かない場所にごみが集まってそのまま放置されていたんです。これは富士山とちょっと状況が似ています。

マングローブ研究のために船などで人があまり行かない所に行くことが多かったのですが、やはり観光客も漁業者も行かない場所なのでごみが溜まっていくんですね。そういうところを見ると、守りたいと思われる場所とそうでない場所の差が今後も大きくなっていってしまうのではないかと思いました。

アンジェラ氏

私は陸から海に流れるとサンゴに悪影響を及ぼすといわれている赤土を研究しています。開発が進み人口が多い場所は、環境が悪くなりやすく、今後開発と環境のバランスをとるのは難しくなるだろうということは容易に予測できます。

しかし、今、科学技術がとても進んできています。たとえば海であれば、環境DNAを使うと水を採取するだけでその中にいる生物や水質など、いろいろなものを効率よく研究できます。データモニタリングにおいてもカメラの解像度が上がっているため、一枚撮っただけで細かいところまで見られるようになりました。そういったツールをしっかり使ってモニタリングし続けていければ、海の環境を守りながら開発を進めて地域が発展していくことが実現できるのではないかと期待しています。

御手洗氏

私は2009年に恩納村に来ました。その頃に恩納村の郵便局の皆さんと海の話をしたときには「昔はもっと海が青かった」と言われていたんです。かたや先週、沖縄出身の高校生と話した時には「変わったように思わない」と。若い人たちは開発が進んでからの海しか見ていませんし、長い間見ているわけではないので、そういった印象はないと言っていましたね。そこがおもしろくて。オティスさんも言っていたように、やっぱり我々が見ている海ってたかだか十年程度。ですが、私たちにとって大事なのは、その変化をなんとなくの印象ではなく、科学的にきちんと伝えていくことなのではないかと思っています。

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3Dでサンゴ礁の変化を見る

御手洗氏

それで何をしているかというと、一例として、サンゴ礁の変化を3Dで可視化するということを行っています。スクリプス海洋研究所というアメリカの研究所が行っているハンドレッドアイランドチャレンジ。このプロジェクトでは太平洋のサンゴ礁の島を訪れて詳細に写真を撮っていくんです。そして、それをカリフォルニア大学のスーパーコンピューターセンターを使って経年変化がわかるように、物凄く細かい解析をするんですよ。

御手洗氏

彼らに交渉したところ、 2019年に沖縄に来てくれて、沖縄の周辺の5つの島を何十か所も撮影して3Dのイメージを作ってくれたんですね。それで見ると変化が多いと言っていました。意外なことに沖縄本島がものすごく回復していて。これは恩納村の海ですよ。

御手洗氏

それぞれのサンゴ群体のサイズの変化もわかるんですよ。白化したところも定量的に分かりますし。種の判別もディープラーニング(機械学習の手法の一つ)などを使って行っています。これは変化を定量化する、今考えられる最適なツールだと思いますね。

池田氏

この映像はインセンティブになり得るんじゃないかと思います。人の行動を変えるにはインセンティブか罰則を用意すると良いという話があります。いわゆる飴と鞭です。たとえばサンゴの植え付けなど自分たちがやったことで、こんなに変わったんだよ。もしくはこんなに悪化しているから何とかしなきゃいけない。そういう気持ちを揺さぶるのに、とてもわかりやすいツールですね。

名城氏

僕も恩納村の観光協会として、恩納村の皆さんにどのように環境が変わっているのかを見てもらいたいと思いました。サンゴの養殖は盛んに行っていますが、一部の漁師さんからは、養殖を続けるのも環境に悪いんじゃないか、環境が変わってきているという話も聞いています。なので、海洋学的にどうなのかという観点で、今やっていることの中でも今後も続けていくべきこと、やめるべきことを切り分けていきたいと思っているんです。          

御手洗氏

ビフォーアフターの動画もあります。これは太平洋のど真ん中にある島で、2013〜2017年の一年ごとの変化を見ている動画になります。たった5年でもダイナミックな変化が起きていることがわかります。たとえば、わかりやすい変化で言うと、サンゴが2015年に白化して、次の年に元に戻っているのがわかります 。

     

御手洗氏

これを海洋環境の変化のモニタリングと併せてやりたいなと思っています。これを実行するにはデータ量がすごいので、サーバーが必要だと思います。あとは海洋環境のモニタリングをする時にデータを飛ばさないといけないんですね。そういったところでソフトバンクさんにご協力いただけると嬉しいです。

池田氏

通信の部分ですね。今、日本全国さまざまな場所で亜熱帯化や環境の変化に苦しんでいますが、各地で同じような取り組みが必要な気がします。そのためにはこれが一つのパッケージになって展開できるといいですね。誰かの気持ちやボランティアの方たちの支えだけでやろうとすると、広がりはすぐに限界を迎えますので、それはちょっと考えたいですね。