旧共産圏も続々導入 なぜF-35は欧州を席巻? 次期「NATO標準戦闘機」ほぼ決まりか

チェコが2022年7月下旬、最新戦闘機としてF-35Aの導入を決めました。それ以外にもヨーロッパ各国でF-35Aを導入する動きが広がっています。なぜ各国はF-35Aを選ぶのか、そこには差し迫った危機感と高い相互運用性が関係していました。

開発プロジェクト自体にNATO加盟国の多くが参加

 このところ、NATO(北大西洋条約機構)に加盟する各国のあいだで最新のステルス戦闘機F-35「ライトニングII」を採用する動きが相次いでいます。2021年末から10か月ほどのあいだにフィンランド、ドイツ、カナダ、チェコと4か国が立て続けに採用を決めています。

 もともとNATO加盟国にはF-16「ファイティングファルコン」を導入している国が多く、ゆえに同機を「NATO標準戦闘機」などと呼ぶこともあるほどでした。F-35はF-16と比べ、高性能ですが高価格な機体です。また導入後も維持運用には相応のコストがかかります。それにもかかわらず、NATO加盟国で採用が続いているのには、相応の背景があるようです。

 まずは、F-35という機体の開発の背景に目を向けてみましょう。昨今の軍用機開発には、多額の費用に加えてさまざまな技術が必要となるため、かつてのように一国で開発するのではなく、計画を主導する国のもとに複数の計画参加国が集まって開発を行うことが珍しくありません。

 F-35もそのようなケースで、アメリカやイギリスとそのほかの友好国が運用する既存の戦闘機、戦闘爆撃機、対地攻撃機などを置き換えるための、汎用性の高い機体を開発するという旗印のもと、誕生しました。

 その開発プロジェクトは「JSF(Joint Strike Fighter:統合打撃戦闘機)」計画と呼ばれました。計画の中心国はアメリカが務めましたが、費用の多少や技術的参加の程度、また、その他の協力姿勢により、開発に際しての発言力の大小を示すレベル分けが行われています。もっとも発言力の大きいレベル1がイギリス、続くレベル2にオランダとイタリア、レベル3にカナダ、トルコ、オーストラリア、ノルウェー、デンマーク、保全協力国としてシンガポールとイスラエルといった具合です。

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比較的導入が容易な第5世代戦闘機として

 このように開発開始の時点で、すでにイギリス、オランダ、イタリア、カナダ、トルコ、ノルウェー、デンマークといったNATO加盟国が加わっていたのです。ゆえに、これらの国々でも将来的にはF-35が導入される見込みが立てられていたのは当然といえるでしょう。また、ライセンス生産あるいは部分生産が各国で行われるようになれば、平時の保守管理はもちろんのこと、有事のパーツ供給や機体そのものの提供などがスムーズに行われるようになるのは間違いないことです。

 つまりF-35は、開発の段階で、すでにNATO加盟国を含むアメリカの友好国に採用されるという宿命が与えられていたわけです。

 このような開発の背景をさらに後押ししたのが、既述した「NATO標準戦闘機」ことF-16の存在でした。

 F-16は性能面に優れているだけでなく、保守管理と操縦の容易さに加えて改修や改造を受け入れられるキャパシティー(高い発展性)を備えており、さらに実戦下のバトル・プルーフィングも済んでいる優秀な戦闘機です。しかし改修を施しても第4.5世代にまでしかレベルアップできないため、同機を装備する各国では、いずれより高性能な第5世代戦闘機を新たに採用するタイミングが来るのは明白でした。

 その際に、F-16と同じアメリカ製(というかアメリカ主体の国際開発)で、細かい部分では異なるものの、実質的にはその「上位互換」的な立場となるF-35は、まったく別開発の第5世代戦闘機を導入することを鑑みれば、F-16との「ハイ・ロー・ミックス」的な運用が、より容易となる機体で、導入しやすいといえるでしょう。