日本も飛行OKに 軽量スポーツ機「LSA」の課題 国の通達ほぼ形だけ? “後進国”抜け出せず

欧米で急成長を続ける軽量スポーツ機ジャンルの「LSA」。日本でもようやく法整備により飛べるように。ただ、それでもアメリカやカナダ、ヨーロッパなどと比べると圧倒的に遅れているそう。どこが問題なのか探ります。

欧米諸国から遅れること17年、ようやく日本でもOKに

 昨今、航空機のなかで最も成長著しいジャンルが「軽量スポーツ航空機(Light Sports Aircraft:LSA)」と総称される新しい種類の固定翼機(飛行機)です。続々と新型機が生み出され、欧米を始めとして、中国などでもオリジナルの新モデルが誕生するなどしていますが、残念ながら日本では飛ぶことが極めて困難でした。なぜなら、日本の航空法ではLSAが定義されていなかったからです。

 ただ、諸外国に遅れることおよそ17年、やっと今月(2022年8月)から日本でもLSAが条件付きで飛べるようになりました。とはいえ、日本の航空界にとっては大きな一歩である一方で、その内容は諸外国に比べると大きく見劣りするものです。何が不足しているのか、概要を見ながら探っていきましょう。

 欧米におけるLSA制度の根底は、新しい技術を積極的に採用しながら機体規模を小型軽量に限定することでメーカーとユーザー双方のリスクを軽減し、同時に機体認証と操縦免許の両面で大幅な規制緩和を行うこと。これにより小型機の普及を促しています。

 各国のLSA制度は細部こそ差異はありますが、どれも機体要件と免許制度の二本柱で構成されています。機体面では、総重量は600kg以下(水上機の場合は650kg以下)。エンジンは1基、座席数は2座までなどといった要件が制定されています。

 一方、免許制度でも「軽量スポーツ・パイロット」免許、もしくはそれに相当する新しい操縦士免許が導入されました。この免許は、飛行時間や航法訓練などの訓練要件と、身体検査基準の両面で、自家用操縦士免許と比較して条件を緩和しています。また、航空管制との交信訓練を追加で終了した場合、管制空域の飛行も認められます。

 こうした制度に支えられ成長を続けてきた欧米のLSAは、すでに実用機としての地位を確立しており、飛行学校における訓練機や自家用機、グライダーの曳航などといった用途で広く使用されています。さらに、LSAの実用性と経済性を活用して、森林火災や遭難者の捜索、農薬散布、パイプライン監視などの用途に使用できないか検討が始まっています。

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飛べるようになっただけ、矛盾点も

 一方、日本の状況をみると今回の通達改正は、LSAが飛べるようになったとはいえ、研究開発用航空機等(実験機)の試験飛行許可などの内容変更にとどまり、新たな免許制度は含まれていません。新しい通達では、実験機がアメリカ規格(ASTM制定)のLSA要件を満たしたメーカー製完成機に限り、2地点間の飛行を許可しています。

 加えて、2地点間の操縦には自家用操縦士以上の資格が必要になりますが、管制空域の飛行は認められていません。これでは実験機の延長としてLSAの飛行が可能になるだけで、とても実用機として運航できるような制度ではないといえるでしょう。

 特に問題なのは、海外では実用機として飛行している機種が、日本国内では実験機扱い同然となってしまうことや、管制空域においては外国籍のLSAだけが飛行可能になっていうることなど、法的整合性の面で大きな矛盾を抱えている点です。

 たとえば国産ジェット旅客機として開発されていた三菱MRJ(現・MSJ)は、耐空証明を持たない初号機が管制塔のある比較的大きな空港で初飛行しましたが、それとは逆にすでに諸外国では運航実績があるLSAが、その空港へ着陸できないという不合理さを持っているのです。これを当局はどう説明するのでしょうか。

 こうした現状をみると、日本が航空の分野で完全に後進国へ脱落してしまった現実を認めざるを得ません。

 2022年8月現在、日本はBASA(航空安全に関する相互承認協定)の締結に向け、アメリカやカナダ、ヨーロッパ諸国など、主要先進国と話し合いを行っていると発表されています。

 これは、航空分野の相互認証を進めていくもので、もし合意できれば機体の安全基準から操縦者の免許基準など、航空法制度の広範囲にわたる分野で互いに認め合えるようになります。つまり、航空法の国際標準化です。