
クルマがどんなに進化してもドライバーはハンドル(ステアリング)を通じて運転することには変わりはありません。性能・機能において進化するクルマですが、実はステアリングの径は年々大きくなってるといいます。なぜ太くなる傾向にあるのでしょうか。
昔と今では…ハンドル(ステアリング)が太くなってるって本当?
クルマのハンドル(ステアリング)は、運転するうえで、ドライバーとクルマがもっとも長く触れ合う部分といっても過言ではありません。
そんなステアリングですが、実は、いまと昔で持ち手の太さに変化があるようです。実際には、どのような変化を遂げているのでしょうか。
各メーカーやモデルによって、デザインが異なるステアリングは日頃から触れる部分ですが、いまと昔では、その持ち手の太さに違いがあるようです。
おおまかに2000年以前の国産車であれば、ステアリングの持ち手は今より細いことが多く、中央にはクラクションを鳴らす部分があるのみでした。
しかし、クルマが多機能になるにつれ、オーディオ、メーター表示、運転支援といった操作スイッチを備えるようになり、同時にステアリングの持ち手は太くなっているように思えます。
ステアリングの変化についてマツダの広報担当者は「かつてに比べると現在のほうが持ち手が太くなっています」といいます。
また、ホンダの広報担当者も「20年ほど以前に比べれば 徐々に太くなってきています」として、「以前は、およそ100mmを下回るのが大半でしたが、現在は100mmから110mm程度でクルマのカテゴリーによって柔軟に対応しています」と話します。
では、ステアリングの持ち手が太くなっている要因には、どのようなことが挙げられるのでしょうか。
マツダの担当者は、同社のスポーツカー「ロードスター」を例に挙げ、以下のように説明します。
「1989年に発売したロードスター(初代はNA型)は、現在4代目であるND型を販売していますが、ND型から少しステアリングの持ち手が太くなっています。
理由は、クルマとの一体感を強くするためです。
ND型から、以前に増して人間中心の設計となり、ステアリングを握ったときの人とクルマの一体感を重要視するようになりました。
そうして、さまざまな検証をした結果、持ち手が太くなったり、経が少し大きくなったりという変化を遂げました」
また、ステアリングの太さが変わった背景には、当時よりも女性がドライブする機会が増えたことも関係しているといい、女性でもしっかりとステアリングを握れるよう、あえて少し太めの設計とされています。
さらに、マツダの担当者は「ステアリングを製作する際の工法の変化やパワステ性能の進化も関係している」といい、ステアリングを握り直さずともしっかりとコーナリングできるようになったことも理由のひとつとして挙げています。
続いて、ホンダの担当者は、ステアリングが太く変化した理由について、以下のように話します。
「パワーステアリングが普及していない、もしくは普及しはじめの頃のステアリングの機能は、舵取り装置としてタイヤを転舵させる機能部品としての意味合いが色濃くありました。
近年では、パワーステアリングが普及・進化し続け、転舵機能だけではなく、操舵フィールや乗り味などの商品性価値が求められています。
そのうえで、いかに手に馴染み、ステアリングを通じてインフォメーションを受け取れるかとったインターフェースとしての役割が強くなってきているため、持ち手の部分もそれに合せて開発され、少し太めの持ち手となりました」
マツダと同様に、ホンダでもステアリングが太くなった理由として「乗り味」や「手への馴染み」、「インフォメーションを受け取る」といった、ドライバー中心の設計が重視されたことを挙げています。
また、両社が話すように、ステアリングは、パワーステアリングといったクルマの性能の進化にも付随して、柔軟に変化を遂げていっていることがうかがえます。
なお、ホンダの担当者によると新型ステップワゴンでは、ステアリングの持ち手の太さを先代の100mmから104mmへとわずかに太く設定したようです。
これは「クルマのカテゴリーにおける相場と、実際の形状をもとにした握り感検証から決定している」とのことで、ステアリングの設計を考える際には、実際に握ってみるといった検証もおこなわれていることがわかります。
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太さだけじゃない! 断面の形や空間によっても異なるステアリング…
また、マツダとホンダの担当者は、ステアリングについて「『太さ』だけでなく、『断面の形状』も進化している」といいます。
マツダの担当者は、断面の変化について「人間中心の設計をおこなったことで、ステアリングの断面の形にも工夫が加わった」として、具体的には以下のように続けます。
「断面の形としては、ステアリングを通して手から伝わってくるクルマの情報が、身体へしっかりと伝達されるように、運転の際に脇が自然と締まるような設計となっています」
また、ホンダの担当者も、新型ステップワゴンを例に挙げ「ステアリングがやや上向きとなっているため、上部を握ったときと下部を握ったときで手首の角度差が大きくなってしまうので、手首角に合わせた断面形状を設定しています」と説明。
握りやすさにおいては、太さだけでなく、断面の形状も重要になっており、ステアリングの設計がかなり細かい部分まで計算されていることがわかります。
さらに、マツダでは「空間サイズ」も重要視されているそうで、モデルそれぞれの室内空間のサイズに合わせて、ステアリングの円の大きさである「経」の計算もおこなっているといいます。
例えば、ロードスターのような室内空間がタイトなモデルでは、ほかのモデルに比べて、ステアリングの経が6mmほど小さくされていたり、室内空間が広めなモデルでは経はもちろん、断面の骨太感を出したりなど、トータルバランスも考慮されています。
ちなみに、マツダの担当者は、ステアリングの設計には、以下のような時代的な背景があったことも述べています。
「ロードスターでは、初代NA型の一部グレードなどに、ナルディ製のウッドステアリングを純正採用していたこともあり、当時、ウッドステアリングには、革のグローブを使用している人も少なくありませんでした。
革のグローブを使用する際には、ステアリングが細いほうが握りやすいという特性があったため、細めのステアリングを採用していました」
※ ※ ※
普段の運転において、ステアリングの太さや大きさ、形状を強く意識している人はあまり多くないかもしれません。
しかし、前述のようにステアリングはドライバーが常に触れる大切な部分です。
クルマとの一体感や疲労軽減といったさまざまな要素により、かなり細かい部分まで綿密に設計されたパーツとなっているのです。