
イスラエルがレーザー迎撃システム「アイアンビーム」の試験で、無人機やロケット弾、対戦車ミサイルといった大型の目標の破壊に成功しました。まるでフィクションのような兵器は、既存の防空システムを大きく変えそうです。
レーザー兵器のレベルが違う? アイアンビームとは
レーザーで物体を破壊する兵器――フィクションの世界が現実へ一歩近づきました。
イスラエルの防衛企業ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズは2022年4月14日、同社がイスラエル国防省研究開発本部と共同で開発を進めている高出力レーザー迎撃システム「アイアンビーム」の実証機が、目標迎撃試験に成功したと発表しました。
レーザー兵器をめぐっては、世界各国で開発が進められており、アメリカ空軍は小型の四輪駆動車にレーザー照射装置とドローンを検知する光学/赤外線センサーを搭載した「HELWS」(高エネルギーレーザー兵器システム)の試験運用を開始し、アメリカ海軍も「AN/SEQ-4」というレーザー兵器の艦艇への装備を進めています。これらのレーザー兵器は、いまや軍隊にとっても大きな脅威となっている市販ドローンクラスの目標を迎撃する想定で開発されたものです。
また、ロシアとウクライナの戦いで、ウクライナは市販のドローンから戦車や装甲車に手榴弾を投下する「ドローングレネード」という戦法を利用して、ロシア軍に少なからぬ損害を与えていると伝えられています。
市販のドローンによる攻撃は中東やアフリカなどでも行われており、その対策は各国の軍隊にとって喫緊の課題の一つとなっています。そうしたなかイスラエルで開発されているアイアンビームは、市販ドローンなどより大型、かつ高速で飛翔する目標の迎撃も想定しており、今回の試験でも固定翼型無人機や迫撃砲の砲弾、ロケット弾、対戦車ミサイルの迎撃に成功しています。
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ミサイル迎撃じゃラチが明かない!
イスラエルが他国に先駆け、市販のドローンクラスより大型の目標を迎撃できるアイアンビームの開発に乗り出したのは、敵対するイスラム原理主義武装勢力から、絶え間なく本土を攻撃されているためです。
イスラエル国防軍は長~中距離弾道ミサイルと航空機を迎撃する「アロー」、航空機と短距離弾道ミサイル、巡航ミサイルなどを迎撃する「ダビデズ・スリング」、砲弾やロケット弾、UAS(無人航空機システム)などを迎撃する「アイアンドーム」からなる、三段構えの防空システムを構築しています。
このうち、今回のアイアンビームと用途の重なるアイアンドームは、2011年3月からイスラエル国防軍に配備されており、2021年にイスラム原理主義武装勢力「ハマス」がイスラエルに3000発以上のロケット弾による攻撃を行った際には、90%以上の迎撃に成功したと報じられています。しかし、その一方で問題も浮上しました。
アイアンドームは基本的に1つの目標に対して2発の「タミル」ミサイルを発射して迎撃する仕組みとなっていますが、2021年のハマスによる攻撃では迎撃回数が多く、タミルの在庫が底をつきかけたため、イスラエル国防軍は1つの目標に対して発射するタミルの数を1発に減らすことを余儀なくされました。
1回の迎撃で発射するタミルの数を2発から1発に減らしたことにより、イスラエルがどの程度の被害を受けたのかは明らかにされていませんが、事態を重く見たイスラエルのナフタリ・ベネット首相は2021年にアイアンビームを国防軍の防空システムへ組み込むことを決断。アイアンビームの出力の強化と早期の実用化を国防省と産業界に指示し、それから1年足らずで、今回の迎撃試験にこぎつけたというわけです。