沖釣りを始めると、様ざまな沖釣り専門用語に出会うが、その中でも「テンヤ」は普段の生活では聞いたことがない独特の響きを持っている。

実は漁具としての「テンヤ」は広辞苑には掲載されておらず、出前の品をさす店屋物の記述に留まっている。

とはいえ、沖釣りでは○○テンヤと呼ばれる仕掛けが様ざまな生き物を相手に使われているのはご存じのとおり。

何をもって「テンヤ」と呼ぶのか、ここで一度整理してみよう。

イイダコテンヤは各地に様ざまな種類があるが、東京湾ではマダコテンヤをそのまま縮小した形のテンヤが使われる

テンヤは東京湾の伝統漁具

「テンヤは東京湾の伝統漁具といえるものです。東京湾ほど様ざまな釣り物でテンヤが使われる釣り場もないですから。東京湾以外の地方にも同じような構造を持った漁具は数多くありますが、テンヤとは呼ばれないものが多いものです。とくにマダイのテンヤは地方ごとに呼び名が違うことがよくあります。と同時に東京湾型のテンヤは、フォルムといい操作性といい、惚れ惚れするものが多いと感じます」

これは服部善郎名人が生前に語っていた話で、マダイ、マダコ、スミイカ、イイダコなど東京湾のテンヤの釣りをこよなく愛し、自作もしていた名人らしい内容で、今でもよく覚えている。

確かにテンヤは東京湾の伝統漁具と呼べるものだろう。

戦後まもない時代に、全国各地をくまなく釣り歩いて漁具を収集した名人の言葉には重みがある。

テンヤの発祥自体を特定するのは難しいが、古くから東京湾では様ざまなテンヤが使われ研鑽が重ねられてきており、まさに伝統漁具に値する。

現在東京湾でテンヤが用いられる釣りは、前記のようにマダイ、スミイカ、マダコ、イイダコが主なところだが、最近普及し始めているのがタチウオだ。

昭和30年代までは、ヒラメやマゴチがこれに加わり、現在よりも多い釣り物でテンヤが使われていた。

ヒラメにはハゼ、マゴチにはエビ(サルエビ)がエサとして使われていたという。

さてここで、何をもって「テンヤ」と呼ぶのか、テンヤの定義を考えると、「オモリと一体となったハリにエサを付けて魚を釣る漁具」という表現となろう。

オモリと一体になったハリ、必ずエサを使うことが様ざまなテンヤの共通点だからだ。

現在は、オモリが遊動式であったり、エサに擬似餌を使うものでも「テンヤ」と呼ばれるが、普及した釣具から派生した新しい釣具の名称には、従来のものと共通した名称を含ませることが多いからだろう。

これは時代とともに変わる釣り用語の特徴といえる。

(左)シャクリダイの名人、内房竹岡港の豊国丸の川嶋船長。マダイの口に掛かっているのは2号の豆テンヤ(右上)エビエサを付けたマダイテンヤ(右下)カニエサを付けたマダコテンヤ

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マダイテンヤ

エビエサのマダイ狙いで使われるテンヤ。

テンヤといえばマダイと思い浮かべるのは、「一つテンヤ釣法」が普及しているためだろう。

様ざまなパターンが考案されており、2号前後の軽いものを「豆テンヤ」、オモリが台形ではなく球状に近い物を「カブラ」、オモリとハリを離した物を「ブラクリ式」あるいは「ブラクリテンヤ」、オモリ遊動式の物は「遊動テンヤ」と呼ばれる。

オモリは1~15号が標準。

親バリの形はエビの背に抜くか腹に抜くかで違いがある。

(上)タングステンオモリを使ったテンヤ(中)東京湾のマダイテンヤに共通するのは、オモリの形が台形であることと、エビをエサとして使うこと。これは内房用の2号の豆テンヤ(下)エサ付けはエビの大きさに合わせて1~2匹を付ける

(上)オモリとハリを離したブラクリ式(中)オモリ遊動式の「遊動テンヤ」(下)オモリをたたいて丸みを帯びさせたカブラ