現在では珍しいフィルムで制作・上映、『月夜釜合戦』で再発見できる“映画の力”
現在では珍しいフィルムで制作・上映、『月夜釜合戦』で再発見できる“映画の力”
カメラなどデジタル機材での撮影、編集作業が当たり前になり、フィルムで上映できる映写機は置いていないという映画館の方が多くなった現在。映画『月夜釜合戦』は16ミリのフィルムを使って撮影され、映画館上映の際はわざわざフィルムの映写機を自ら持ち込み、全国で上映活動をしている。
プロデューサーを務めた梶井洋志さん、撮影スタッフとして参加した五味聖子さんが、大阪の映像文化事業「CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)」とコラボレーションし、16ミリフィルムと映写機を使った映写体験ができるワークショップを開いた。

『月夜釜合戦』は、大阪の釜ヶ崎を舞台に、ヤクザの代紋が彫られた釜をめぐって、組員、日雇い労働者、泥棒らが争奪戦を繰り広げる人情喜劇。2017年12月に大阪をはじめ全国で順次封切られ、今では珍しいフィルムでの上映が話題を集めてロングラン上映されている。

今回のワークショップ受講生のほとんどは、フィルムの映写機には一度も触ったことがない“初心者”ばかり。映写機の各部位の役割を教わり、悪戦苦闘しながらフィルムを設置。セッティングが完了し、リールがカタカタと音を立てて回り始め、映像がスクリーンに映し出されると、参加者は嬉しそうな面持ちで見入っていた。

梶井さんは今回のワークショップについて、
「フィルムで映画を作るときは、CGや手の込んだ特殊効果は使えず、フェードイン、フェードアウトといった簡単な処理ですら大変にお金が掛かってしまう。しかし今後、映画が完全にデジタルで作られる時代になっていく中、そういった環境で作られたフィルムの映画には、かえって“映画としての力”があるということを少しでも気づいてもらいたい。フィルムでの撮影は失敗が許されないという状況で作られる緊張感があり、質感やルックといったほぼ趣味の領域に規定されない力がある。デジタルで作られた映画にはない力を再発見できる可能性がある。こういったワークショップを通して、これからの映画制作、上映、鑑賞にどのように生かせるのか、そういった問いかけができたと思います」
と意図を語ってくれた。

また、参加者からは
「フィルムに一度触ってしまうと、フィルムで作られた映画に対する愛着がまったく変わったものになってしまう」
と、デジタルではなかなか得られない、フィルムという物質的な部分への感動の声があがっていた。また、学生らしき若者からは
「フィルムでの映像制作はどこに行けば学べますか」
という疑問や、
「フィルムでの映画上映をしたいときは、どこに問い合わせたら貸し出してくれるのか」
と上映活動に関する質問が飛んだ。

梶井さんは、
「16ミリフィルムには、デジタル映像にはないザラついた質感があり、それが『月夜釜合戦』の雰囲気と合うと思って使用しました。私自身はフィルムに関してはズブの素人であり、編集についてもやり方を調べ上げるところから徹底的にやりましたが、すべてに精通している必要はないとも思っています。一方で、撮影監督(現場でカメラを回す責任者)が負う現場でのプレッシャーは相当なものだったことは私も想像できました。フィルム撮影の緊張感、そして私自身もそういう重責を背負わせている感覚は、今はなかなか味わえません。これから映画に関わる若い人たちが、それを味わえないというのは、実は酷なことでもあるかもしれません」
と言及。

ただ、この映画の企画段階で「フィルムで作りたい」と各所に相談したとき、冷ややかな反応を示したのは、「実はフィルム世代の人たちでした」という。梶井さんは「私はそういった人たちと同じ側には立ちたくない」と言葉を強めた。

「これから映画に携わる人に求められるのは、フィルムでの制作技術を習得することではありません。先ほどお話ししたようにデジタルで映画を作れるようになったことで、失われてしまった“映画本来の力”を、フィルムで撮られた映画の中から再発見する、ということではないかと考えます。ただ、映画は人を写すものなので、たとえ完全にデジタル化されたとしても、“映画本来の力”を発揮することは変わらず可能なのではないでしょうか。フィルムでの制作が獲得した方法とはまた違う形で、デジタル作品でも獲得できると信じています。これから映画を作る人も、フィルムで映画を作ってきた人も、『映画を再発見していくんだ』という気持ちに関しては、条件はほぼ一緒なのではないかと思います。そして観る人に再発見をしてもらうためには、映画を写す映写の役割が不可欠。そういった活動をしている映画館、上映スペースの重要性は今後ますます増していきます。私個人もその動きに乗り遅れないように活動を続けていきたいです」

映画『月夜釜合戦』は2018年7月14日より出町座(京都)以降、全国順次公開。
(更新日:2018年7月14日)

Series シリーズ

Pick up ピックアップ

人気キーワード

Category カテゴリー

HOME