高橋大輔がほんとうに戻ってきた。「自分だけのためにやっていきたい」
高橋大輔がほんとうに戻ってきた。「自分だけのためにやっていきたい」
 消しても消せなかった思いは、やはり、抑え切れなかった。 2018年7月1日、高橋大輔が現役復帰を発表した。 競技生活から退くことを公にしてから4年弱。32歳での決断である。


キャスターとしての活動も好評だったが、高橋大輔にはやはり氷の上がよく似合う。 (photograph by AFLO)

 消しても消せなかった思いは、やはり、抑え切れなかった。

 2018年7月1日、高橋大輔が現役復帰を発表した。

 競技生活から退くことを公にしてから4年弱。32歳での決断である。

 同日の夜、東京都内で行なわれた記者会見は、当日のリリースにもかかわらず数多くの記者が集った。

 テレビカメラが並ぶその前に、高橋は照れたような笑顔で現れた。

「現役に戻りたいと最終的に決断したのは、昨年の全日本選手権の後です。引退してから4年間、ニューヨークに行ったりテレビのお仕事をさせてもらったり、いろいろな方にお会いして第一線でやっている方たちの姿を見ながら、自分の中で『これが本当に自分のやりたいことなのかな』という思いが徐々にふくれ上がっていきました」

 2014年10月、引退記者会見では「すっきりした気持ちです」と言いつつ、違う思いがあることも明かしていた。

「正直、現役に未練がないわけではないです」

スケートの次の大きな夢を探し続けていた。

 集大成と位置づけていたソチ五輪シーズン。だが、ソチ大会は怪我の影響もあって6位にとどまった。何よりも、心から納得の行く演技を披露できなかった。翌月の世界選手権も欠場しての引退表明だった。引退セレモニーの類も行なわないまま、退いた。

 以来、自分のいるべき場所を探し続けてきた。

 同年末のアイスショー「クリスマスオンアイス」ではこう語っている。

「次の大きな夢だったり目標というものを自分の中にみつけられる1年にしたいと思います」

 その翌年、ニューヨーク留学から帰国したあと、「今を楽しんでいます」と笑顔を見せながら、こう続けた。

「充実していたのは、スケートをしていた今までの時間。これからのことはまだ見えてはこないですね」

勝てないならやるべきではないと思っていた。

 テレビのキャスターにも挑戦した。大会では競技を終えた選手に真摯に向き合い、その胸中を引き出した。高橋ならではであったが、それでも長くとどまる場所とは思えなかった。

 自分はどこにいるべきか――おそらくは時間を経るなかで膨らんできたであろう思いの後押しをしたのは、後輩たちだった。

 全日本選手権には五輪代表を懸けて滑るスケーター、長期にわたる怪我を克服し這い上がろうとするスケーター、最後の晴れ舞台として臨むスケーターがいた。順位にかかわりなく、1人ひとり、懸命の姿があった。

「これまでは勝てないんだったら現役をやるべきではないと思っていたのですが、それぞれの思いの中で戦うというのもいいんじゃないかと思いました」

「トリプルアクセルまでは戻っています」

 選手としてリンクに戻ることを決意すると、4月から徐々に練習を再開。ジャンプは「トリプルアクセルまでは戻っています」。

 新プログラムの振り付けは、ショートプログラムはデイビッド・ウィルソン、フリーはブノワ・リショーに依頼した。

「デイビッドは、(引退前に)一回しかお願いしたことがないんですけど、すごく気に入っていたので。リショーさんは、坂本花織ちゃんのプログラム(『アメリ』)を観て、素敵なプログラムを作るなと思いました」

 フリーは完成し、ショートはこれから作業が始まるという。

 今後、8月末の「フレンズオンアイス」に出演。「はっきりとは言えないですけど、間に合えば」と、新プログラムを披露する可能性を示唆する。

 その後、10月の近畿選手権、11月の西日本選手権を経て、12月の全日本選手権を目指す。

 全日本選手権で表彰台は? と尋ねられると、高橋は答えた。

「今の段階では難しいと思いますけれど、練習していく中でもしかしたら見えてくるかもしれないですし、その先にもし何かがあれば、そこを目標にするかもしれないですし、しないかもしれない。それは全日本選手権が終わった後にしっかり考えたいと思います」

「1年限定のつもりですが、過ごしてみて気持ちが変わるかもしれないので、まずこの1年を」

「今回は、自分だけのためにやっていきたい」

 遠い先は見ていない。どんな結果を残せるかも分からない。それでも復帰へと促した原動力を、こう語る。

「いちばんは、自分にはフィギュアスケートが軸にないと駄目だなと思ったことです。今後の生活をしていく上で、しっかりしたものを持っていなければ自分らしく過ごせないな、と」

 今も、かつて手術とリハビリを余儀なくされた右膝のケアを怠ることはできない。長期間のブランクもある。30代という年齢もまた、フィギュアスケートではハードルとなる。

 それでも、最後まで、心の底からやり尽くしたと感じられなかった4年前の思いは抑えようがない。

「今回は、誰かのためにというのではなく、自分だけのためにやっていきたいと思っています」

 挑むことがアスリートの本能なら、あの時かなわなかった思いに、困難を承知で真っ向から立ち向かおうとする高橋もやはり、真のアスリートである。

 あらためてそう感じさせた復帰会見で、柔和な笑顔、でもその中に時折強い眼差しを見せた高橋大輔は、自分にけりをつけるために、先へと進むために、再びリンクに立ち続ける――そう、ほんとうに、戻ってきたのだ。

text by 松原孝臣
「オリンピックへの道」

(更新日:2018年7月6日)

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