鄭義信、自身の戯曲『焼肉ドラゴン』を映画化「僕のまわりは美しい人ばかりじゃなかった」
鄭義信、自身の戯曲『焼肉ドラゴン』を映画化「僕のまわりは美しい人ばかりじゃなかった」
『血と骨』『月はどっちに出ている』の脚本家としても知られる劇作家・鄭義信が、2008年に初演した同名戯曲を自ら監督として映画化した『焼肉ドラゴン』。
1969年から1970年にかけて、高度経済成長期に入った日本社会の片隅に生きる、在日韓国人の人々の姿を描いた本作。在日三世の鄭監督自身が少年時代に見つめていた、町、人の光景もまじえられている。

自身の舞台代表作を、メガホンをとって映画化する意思は当初「それほどなかった」と話す、鄭監督。

「崔洋一監督の現場に行くと「現場で監督する姿などを見ていると僕には到底できるものではなかったから、『(映画監督は)自分には向いていない』とずっと感じていたんです。しかし、『焼肉ドラゴン』の物語の世界を一番よく知っているのは自分しかいない。だから、飛び込んでみました」

映画の時代背景となった1970年は、大阪で万博(日本万国博覧会)が開催され、世界中からたくさんの人と技術が結集。当時小学生だった鄭監督は、「万博を見ていると、未来はものすごくきらびやかで、素晴らしく発展するものだと思っていた」と胸を膨らませたという。

「でも、実際の未来はそうじゃなかった。技術の進歩で人々の暮らしは豊かになったけど、心は果たして豊かになれているのか。当時、万博という輝ける象徴の中で、僕たちのまわりは美しい人ばかりじゃなかった。でも、みんなが笑ったり泣いたりして、生きている実感がありました。『焼肉ドラゴン』の物語を愛してくれている人は、今の世の中にそういった交流を求めているんじゃないでしょうか」

社会は大きく前進。映像描写には、飛行機が豪快に上空を飛ぶ場面がある。主人公一家が営む焼肉ドラゴンのもとには、様々な事情を抱えた人たちがやって来たり、出て行こうとしたりする。この映画の大きな特徴として、「動」がある。一方で、一家の土地が国有地のため立ち退きを迫られるが、焼肉ドラゴンの店主は「自分はこの土地を買った」と主張し、全員そこにとどまろうとする。つまり「静」もある。ちなみに当時の流行歌、水前寺清子の『三百六十五歩のマーチ』が劇中で歌われる。「幸せは歩いてこない、だから歩いてゆく」「一歩進んで、二歩下がる」という歌詞も、静と動につながる。

「結局、どんな物事でも流れゆくものなんです。バラバラにならざるを得ないものがある。だけど、それぞれの人生には必ず明日がくる。最終的に瓦解するとしても、それはそれで一つの人生」

中でも、男女関係の静と動が興味深い。次女・梨花(井上真央)は常連客・哲男(大泉洋)と結婚するがうまくいかず、韓国からやって来た青年(イム・ヒチョル)と浮気。常連客は、一家の長女・静花(真木よう子)のことを密かに想っているが、彼女にも恋人(ハン・ドンギュ)がいる。また、三女・美花(桜庭ななみ)は妻子ある男性(大谷亮平)と恋仲にある。たとえば梨花は、哲男の前で浮気相手と堂々と一緒にいるようになるし、そのほかの男女も同じような状況になっていく。でも、哲男しかり、誰一人としてそこから出て行かずにとどまるのだ。

「そこはひとつのユートピアなのかも知れません。男女関係以上に、そこにいることの居心地の良さ。男女関係が成就しなかったり、複雑になったりしても、その場の豊かさは手放せないということ。人としての温もりがあったんだと思います」

見て見ぬふりをするか、それとも現実として受け止めるか。ちなみに梨花と青年の浮気現場を偶然見かけた、姉妹の母親は、見なかったことにしてその場を立ち去る。それは、経済発展の一方で、在日韓国人が形成する社会のことを見て見ぬ振りして蓋をする日本社会の様子に重なる。

「僕が暮らしていた、あの狭いコミュニティではくっついたり離れたりは多かった。それを見ないことにしようという部分と、許すという寛容的な部分があの時代にはありました。うちの母方の祖父は早くに亡くなったのですが、祖母は『亡くなってから、家に一人女性が来て家を切り盛りしてくれていた』と。きっと、おじいさんの“もう一人の女性”なんでしょうが、祖母は寛容していたんです。今だと間違いなく叩かれるようなことですが、そういうコミュニティも当時にはあったんです」

人間関係がややこしくなっても、裕福ではなくても、別の幸せがある。この映画はそう思わせてくれる。

「何はともあれ、人生は続いていく。何があっても、生きていかなきゃいけない。世の中はそうやってできていく。この映画に希望を見て欲しい」

映画『焼肉ドラゴン』は全国公開中。
(更新日:2018年7月17日)

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