中田秀夫監督が思い返す、名匠・相米慎二監督の言葉「映画作りは暇つぶしなんだ」
中田秀夫監督が思い返す、名匠・相米慎二監督の言葉「映画作りは暇つぶしなんだ」
内館牧子の同名小説を、舘ひろし主演で映画化した『終わった人』。エリート街道から一転、出世競争に敗れ、子会社へ追いやられてそのまま定年退職を迎えてしまった主人公、田代壮介。仕事一筋だった男が時間を持て余すようになり、新しいやりがいを求めて奮起。一度終わった男が「もう一度、始まっていく」ところを描いていく。今回は、メガホンをとった中田秀夫監督に話を訊いた。
ホラー映画『リング』シリーズの大ヒットで知られ、近年は日活ロマンポルノのリプート『ホワイトリリー』の記憶が新しい中田監督。映画と共に人生を歩んできたベテラン監督だが、笑いをまじえた本作の制作に関しては当初、「コミカルという部分にかけては、怖さがあった」と心境を明かす。

「男女のメロドラマが撮りたくて日活に入り、そのあとはホラー映画の制作が中心になった。コミカルな映画はやってこなかったんです。いや、厳密に言うと『仄暗い水の底から』や『ザ・リング2』も、コミカルなところを撮ったりはしたんです。アメリカのプロデューサーから『アメリカのお客さんは、ホラー映画でも少しはコミカルな場面はあった方がいいんだ』と言われてもいたので。ただ、うまくいかなくて、最終的には編集で切ったんです。『仄暗い水の底から』なんかはワンシーンだけ笑えるシーンを入れていたんです。でも全然機能しなくて、丸々切った。でも今回の『終わった人』は、自分が『この原作は映画にしたら面白そう』と提案したので、『実はコメディーが怖いんです』なんて言えない(笑)。しかし、舘さん、黒木瞳さん、広末涼子さんたちが出演者として顔を揃えてくださったことで、機能した。ドタバタ感のあるコメディーは運動神経が必要。みなさん、その運動神経が抜群だったんです」

舘ひろしといえば、ダンディーな日本男性の象徴的存在。しかし、ドラマ&映画『あぶない刑事』シリーズ、映画『免許がない!』、さらには1990年代にはバラエティー番組『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』など様々なフィールドで鑑賞者を笑わせてきた一面もある。クールでダンディーなイメージだからこそ、それを崩したときの爆発力が凄まじい。

「そういう舘さんなので、撮影中にもいろいろと提案をしてくださったことがありました。『コミカルをやるのが怖い』という自分にとっては、非常に存在が大きかったですね。『観ている人を笑わせるには、こういうカットがあった方がいいですよ』など、僕が逆にアドバイスを受けていましたから。この場面では、こういう寄り(のカットを)撮っておきましょうとか。そういった舘さん自身の演出が生きています」

コミカルなだけではない。定年退職、若くしての突然死、卒婚(夫婦としての形は維持しながら、自分のことは自分でするなど、お互いが個別で人生を自由に楽しむ夫婦関係)など、さまざまな「終わり」が描かれ、またそこから何が「始まる」かを映し出している。人生の終わりと始まりを、東日本大震災からの復興と重ねてもの語っている点は、特に見どころの一つでもある。

「原作にも、主人公が復興支援のNPOで働き始めるところがあります。そして僕も2011年、ドキュメンタリー映画『3.11後を生きる』を撮りました。震災から7年が経ち、こつこつと復興が進んでいます。ドキュメンタリーの撮影で知り合った漁師のご一家と、それからお付き合いがあり、今作では、『舘さんの大ファン』ということでラグビーの試合のシーンにも出てもらっています。そういうことって、いろんな巡り合わせだと思うんです。
今の僕が、復興に対して何かできるかというわけではない。人の命は突然…ということは、我々の身の回りでも起き得ること。ただ、一度壊れて、そこから『もう一度』というポジティブな気持ちを、ドキュメンタリーの撮影で知り合った皆さんを通して得ることができましたし、今回の映画のテーマにも合うと感じました」

中田監督は1961年7月に生まれ、2018年で57歳。60歳を定年退職とする企業が多い中、中田監督もその年齢が近づいてきている。しかし、映画監督には定年はない。仕事が途切れてしまえば、若かろうがそこでリタイアとなってしまう。

「実は『リング』(1998)のころ、“リングロス”に陥ったんです。『リング2』の企画もすぐに出ていたのですが、でもしばらく仕事が何もなかった。そうすると、壮介と同じような生活になるんですよ。とりあえず(出社時と同じように)早く起きてしまってジョギングをして、昼もやることないからまたジョギングして。当時はインターネットも発達していないので、それから図書館へ行くんです。あと2、3年前、日活時代の先輩とお花見をしたことがあって、その人はこういうことを言ったんです。『あのときは仕事がなくても、起きてから“今日1日何をしよう”という感じだったけど、この年齢に来ちゃうと、元旦の日、起きて“今年一年、何をしよう”となる』って。『そこまでくることを覚悟しろ』と言われました」

そんなとき中田監督は、『セーラー服と機関銃』『台風クラブ』などの名匠、相米慎二監督の言葉を思い出したという。

「日活の先輩と会ったとき、改めて“時間をどう使うか”を考えた。そして、相米慎二監督と酒を飲んだときのことを振り返ったんです。相米監督は、「中田君さ、俺たちは、映画を作るってのは暇つぶしでやっているようなものなんだよ」と。もちろんそれは、ポジティブな意味です。つまり、僕らのような人間が生きていく上でもっとも有効な暇つぶしが、映画作りなんだって。プロとしてやっているから趣味の延長というわけではなく、しかしこれからの日本社会の大テーマとして、人間はこれからどれだけ暇をつぶしていくかということを話し合っていた。今の僕は明らかに人生後半に差し掛かっていますし、映画作りも所詮は暇つぶしと相米慎二さんに言われた意味をより考えるようになった」

相米慎二監督の「人生はどのようにして暇をつぶしていくか」という言葉、田代壮介の定年退職後の時間の使い方。中田監督は、「自分の実人生と何か接着する部分がある」と話す。

「そもそも映画を観るということは、どのように時間を使うかの一部。本を読んだり、美術館へ行ったりするような娯楽の一つ。暇つぶしとして作ったものを、暇つぶしとして見に来てくれる。それが実はより良い時間の使い方なんだ、と。その人にとってそれが、有効な時間のつぶし方。映画は結局、僕にとってはそれ以上でもそれ以下でもないと感じています。ものすごく高尚な芸術ぶる必要はないし、でも単にどうしようもないものでもない。暇つぶし、時間つぶしでありながら、しかし映画館で貴重なお金と時間を払って観ていただくのですから。『終わった人』はまさにキャッチコピーが『暇だ』です。田代壮介は暇だからまたチャレンジする。僕も、暇をつぶすために良い映画を作っていきたいです」

映画『終わった人』は2018年6月9日より全国公開。
(更新日:2018年6月19日)

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