『のみとり侍』鶴橋康夫監督、「かつて作品で抱いた羞恥心と申し訳なさが続いている」
『のみとり侍』鶴橋康夫監督、「かつて作品で抱いた羞恥心と申し訳なさが続いている」
阿部寛が、江戸の女性たちの“お相手”をする元エリート侍を演じた映画『のみとり侍』。町を練り歩き、お呼びをかけてくれた女性に愛の奉仕をする、“のみとり”という稼業。そんな肉体仕事に従じる男たちを笑いをたっぷり交えて描いたのは、鶴橋康夫監督。1960年代よりテレビドラマ界で活躍し、その後は『後妻業の女』『愛の流刑地』など映画監督としても名手腕を発揮するベテランに話を訊いた。
本作は、阿部演じる小林寛之進が仕える藩主が開いた、歌会から始まる。藩主の歌はひどいものだが、しかし部下たちは「素晴らしい」ともてはやす。しかし、寛之進はそこで歌われた一つの歌が「パクりではないか」と空気を読まずに発言。大恥をかかせたため、“のみとり”へと左遷させられてしまう。

そんな光景に始まり、女性の懐にうまく入り込んで“のみとり”として満足してもらう男たちの姿などを見ると、この映画は「人に好かれるコツ」について触れた物語ではないかと思わせる。

「まさにそうですね。なぜなら寛之進は、それまで人に好かれたいと思ったことはないはずなので。長岡藩で経理をやっていて、頭のなかに帳簿がすべて入っており、とにかく生真面目。そんな男だから、そうは好かれてはいなかっただろう。人に好かれたいと思ったこともないから、のみとり業の親方夫婦が快く身元を受け入れてくれる様子を見ても、疑問を持ったりする。とものすけという腹減りながら野心もあらわさず、長屋の子供達にものを教えている青年を見て、こんな人間もいるのかと驚く。佐伯友之介(斎藤工)という、腹を減らしながらも野心を表さず、長屋の子供たちにものを教えている青年と出会って、『こんな人間もいるのか』と驚く。だけど後々に、寛之進がのみとりにさせられた、ある理由が分かるけど、それでも寛之進は『ありがたい』と思わない自分がいる。そんな彼が、人の話をちゃんと聞いて、相手の目を見て、暖め合うのみとりという仕事を経て、まさに人に好かれるために成長していくんですよね」

寛之進は最初の客、おみね(寺島しのぶ)に「ヘタクソ」と怒られ、ショックを受ける。それが、寛之進を一歩前に進ませる。

「寛之進、おみねは、お互いに一目惚れ。しかし、結果的に『ヘタクソ』となると、おみねの方も、それ以上にの言葉が見つからなかったくらいだったんでしょう。また、おみねもあまり人に好かれるような生活をしていなかったのではないかと推測できます。自分のためだけではなく、相手のことを考える。そうやって、お互い、好きだという感情が深まり、人間一人では生きていけないことがわかっていく。この二人のやりとりから、そういった人間の関係性を感じ取れるはず」

そんな寛之進が、友情と尊敬の心を持つ相手が、プレイボーイの清兵衛(豊川悦司)。彼は女性をとことん喜ばせる。一方で、妻・おちえの過剰な独占欲を受け、浮気防止のために厳重な監視をしかれる。前田敦子が、おちえを緩急をつけて実に見事に演じて見せている。

「いやあ、僕はあっちゃん(前田敦子の愛称)の大ファンになりましたね。でも、『君は芝居が上手いなあ』と言っても、信用してくれないんですよ(笑)。あっちゃんとは、偶然お会いする機会があって、その5日後に出演をお願いしました。AKB48というトップのアイドルグループでセンターをはっていた人としての存在の大きさを感じ取れ、しかしステージのスポットライトがあたらないところでもしっかり生きていけそうな強さもある。一見慎ましやかに見えるけど、男っぽい思想回路があるあっちゃんの魅力が、おちえをより色っぽく見せている。あんなことをやってくれと言われても、女優さんは『えっ?』と驚くはず。前田敦子という女優に出会えて良かったです」

鶴橋監督は、男女の濃密な関係を描き続けてきた。今回も躊躇なく描き切っている。しかし、鶴橋監督は「ある思い出を引きずりながら撮っているんです」と振り返る。

「(作品を)撮れば撮るほど、うまくなるかと思ったら、そうでもない(笑)。ラブシーンも、若いときからたくさん撮っていますが、実はいつも羞恥心や申し訳なさがあります。自分から、『脱いで欲しい』となかなか言い出せないんですよ。それでも、大スターたちが次々と自ら頑張ってくださる。たとえば奥田瑛二さん、竹下景子さんのドラマ『かくれんぼ』(1988)を撮ったときも、タフなベッドシーンをやってもらったのですが、二人は疲れ果ててそのまま眠りこけてしまったんです。誰も起こしにいけないくらい。あの姿が、僕の教訓としてずっと残っている。そして奥田さん、竹下さんが『本当にこれで良かった?』と吐息をついた。そのときの自分の気持ちとして、そこまでやってくれた二人へのありがたさと共に、作品づくりの上で『迷惑をかけているな』という気持ちがあったんです。その感情が僕にはずっと続いている。だから、僕は人に好かれために、作っているわけではない気がしますね。とにかく、新作を待ってくれているお客さん、そしてスタッフや役者のために作り続けています」

『のみとり侍』は全国東宝系にて公開中。
(更新日:2018年6月7日)

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