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森永卓郎が巻き込まれた「相続地獄」口座は不明、戸籍は焼失、迫るリミット

SmartFLASH

 2006年に父親が脳出血で倒れてからは、在宅介護。家族にはかなりの負担がかかった。

 

「私は仕事が忙しく、介護は妻にまかせっきりでした。とはいえ、『要介護4』の高齢者を自宅で介護するなんて、本当は不可能。父は体は半身不随で自力では何もできません。そのくせ、することなすことに文句をつける。

 

 あるとき妻から『もう離婚するしかない』というメールが来るほど、追い詰められていました」

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 1年余りの在宅介護ののち、父親は介護施設へ入所するが、その費用は高額だった。

 

「親父は最初、都内の施設を希望しました。費用は月額40万円。それも高いですが、驚いたのは別途支払う入居金です。なんと1億円。冗談じゃねえと。

 

 それで、所沢の自宅近くの施設にしたんですが、それでも月額30万円。さらに、インターネットや新聞代で10万円以上がかさみ、親父に月々40万円以上かかる。

 

 その費用は当初、親父の銀行口座から引き落としていたんですが、やがて底をつきました」

 

 そうなると、森永氏が肩代わりすることに。

 

「親父に『ほかに預金ないの?』と聞くと『ある』と。ただし、それがどこの銀行にいくらぐらいあるのか、何を聞いても答えは『わからねえな』。

 

 結局、『お前は稼いでるんだから、とりあえず払っとけ』と。確かに当時の私は1年365日、睡眠時間を削ってフルに働いていて、収入もけっこうあったので、まあいいかと思ったんです。

 

 母が亡くなったあと、面倒を見て、在宅介護もして、施設の費用も払いました。いくらお金を使わされたのか、記録を取っておかなかったのは致命的でした。妻がやってくれた介護の人件費なども含めると、数千万円になったでしょうね」

 

 

■口座確認を怠ると命取りに

 

 だが、父親にかかった費用を記録しておかなかったこと以上に、森永氏が「最大のミス」と悔やむことがある。

 

「親父は某銀行の高田馬場支店に貸金庫を持っていたんです。半身不随になったあと、私が代理で開けられるように手続きはすんでいましたが、それで安心していたことが『最大のミス』だったんです。

 

 なぜ、前もってその中身を確認しなかったのか……。そうしていれば、悲劇を味わうこともなかったかもしれません」

 

 貸金庫には通帳やキャッシュカード、印鑑や保険証券など、大事なものが入っているはず、いざとなれば開ければいいと、森永氏が思い込んでいたのも無理もないだろう。

 

「親父が死んだあと、高田馬場の貸金庫に行き、開けてみたんです。その瞬間、私は凍りつきました。金目のものがほとんどないんですよ。

 

 通帳もキャッシュカードもない。卒業証書やら何かのパンフレットやら、なんでこんなものをわざわざ貸金庫に、というものばっかりなんです。

 

 唯一お金になりそうなものが、“軍人国債”だけだったんですが、それもたかだか数十万円にしかなりませんでした。これはマズイ……それから地獄の日々が始まったんです」

 

■申告のリミットは10カ月

 

 ここで相続手続きの流れを確認しておきたい。相続が発生すると、「遺産の特定」「遺産の相続税評価額算出」「遺産分割の協議」が必要になる。

 

 これらの課題をクリアし、相続税の申告・納税をおこなわなくてはならない。その期限は、相続人が相続開始を知った日の翌日から10カ月以内。ほとんどの場合は、被相続人が亡くなってから10カ月以内ということになる。

 

「この10カ月というのは、あっという間です。葬儀から四十九日まではいろいろと忙しく、さあこれからと思っても、普通に仕事をしている人はなかなかそうもいかない。

 

 私の場合、父がどこの銀行に口座を持っているかもわからないのですから、まずは調べることから始めないといけない。地獄の作業でした」

 

 森永氏の場合、特に焦る理由があった。

 

「申告の期限である10カ月を過ぎると、脱税で立件される可能性があります。経済アナリストとしてテレビに出て、全国で講演をして、大学の教員もやっている立場の人間として、それは絶対に避けなければいけません。

 

 そこでセコく節税をしようとは思いませんでした。今の時代、どこでツっコまれるかわかりませんからね。とにかく正直に、正確に申告しようと、相続税の猛勉強です。

 

 不幸中の幸いというか、東日本大震災の影響で講演会やイベントなどの仕事がほとんどキャンセルになりました。そうでなければ、あの膨大な作業をこなすことは不可能でした」

 

 

■空襲で焼失した証明が必要

 

 森永氏の父親は高田馬場にマンションを所有しており、そこに来る郵便物を手がかりにして、口座のありかを探していったという。

 

「不思議なことに、父の遺品には預金通帳が一冊もなかったんです。私は父の生前から月に数回マンションに行き、たまった郵便物を部屋に入れていました。

 

 父が亡くなったとき、その郵便物は山のようになっていました。そのなかから手がかりとなりそうなものを探していったんです。気の遠くなるような作業でしたが、なんとか9つの銀行口座があることを突き止めたんです」

 

 口座があることがわかっても、銀行はそこにいくら預金があるのかは教えてくれない。

 

「銀行の担当者は、口座の内容の開示には父親が生まれてから亡くなるまで、すべての戸籍謄本と相続人全員の同意書が必要だと言うんです。

 

 相続人は私と弟の2人だから問題はない。しかしなぜそんな戸籍謄本が必要なのか。隠し子がいた場合、相続人が増えてその同意も必要なんだって言うんですよ。

 

 父は佐賀県生まれで、全国いろんなところに住んでいたので、戸籍謄本を集めるのも大変です。

 

 東京の近くだけならまだしも、そんな全国を飛び回る時間はないし、交通費もかかる。遠くの自治体に電話すると、郵便局の定額小為替と返信用封筒を同封して申請書を出せと言う。郵便なので、このやり取りがなかなか進まない。

 

 この時代になんと不合理なシステムなのかと思いつつ、それでもひとつずつ進めていくしかなかったんですけどね」

 最大の山場は東京で訪れた。

 

「近い役所は自分で出向きましたが、文京区役所に行くと『空襲で焼けたので戸籍が残っていない』と言うんです。

 

 仕方なく文京区以外の戸籍謄本を揃えて銀行に行くと『では、空襲で焼けて残っていないという証明書をもらってください』と。

 

 文京区役所にそう告げると、そんな担当部署はないって言うんですよ。それでも何度も頼んで、ようやくそういう書類を出してもらい、やっとひとつの銀行口座を開けてもらえたんです」

 

 そうして開示手続きを進めていった結果、数千万円の預金があることがわかった。

 

「なかにはたった700円しか残っていない口座もありました。あれだけ苦労して700円ですよ。銀行の担当者は知ってるんだけど、教えてくれません。

 

 立場上言えないのはわかるんですが、目配せしたり、それとなく伝えてくれたっていいじゃないですか。『700円どうしますか』と聞かれたので、『放棄します』と吐き捨てるように言って銀行を出ました」

 

 父の遺産は、預金や不動産を合わせて約1億円だった。

 

「相続人は私と弟の2人だけ。どう分けようかと弟に相談すると、『法律どおり、俺と兄貴で折半しよう』と言います。

 

 当然ながら私は、父親の介護で数千万円のお金がかかったこと、妻がずっと尽くしたことなどを訴え、文句を言いました。

 それでも、最終的にはこっちが妥協して折半しました。とにかく『争続』にしたくなかったんです。もちろん釈然としない気持ちは残りましたが」

 

 準備を怠ったがために地獄を見た森永卓郎氏。

 

じつは、2015年施行の改正相続法により、相続税の課税対象者は一気に増加し、相続税の対象となる人は申告が必要になり、一方、非課税の人でも遺産分割などの手続きは免れない。いずれにせよ、悲劇を避けるためには「生前整理」が不可欠なのだ。

 

日本財団プレスリリースのデータをもとに作成

 

 

もりながたくろう 
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。TBS『がっちりマンデー!!』、読売テレビ・日本テレビ系『情報ライブ ミヤネ屋』など出演番組多数。最新刊は『相続地獄 残った家族が困らない終活入門』(光文社新書)

 

写真・岩松喜平

 

(週刊FLASH 2021年2月23日号)

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